第112話 嵐の前の静けさは終わりを告げる

 二人が精神世界で修業に励んでいる頃、ライは一人筋トレに励んでいた。はっきり言ってあまり意味はない。今のライには筋トレは効果がないのだ。勿論、全くないというわけではない。少なからず効果はあるのだが、魔剣による再生と度重なる戦闘によりライの体はほぼ理想の形に仕上がっている。ゆえに、筋トレは意味がなかった。


 では、何故筋トレをいているのか。それは単にやることがないからだ。二人に聖剣と魔剣を貸してしまっているのでライは精神世界での修業が行えず、手持無沙汰なのだ。稽古場に行ってダリオス達と模擬戦でも行えばいいのだが、聖剣と魔剣が手元にないと妙に気持ち悪いとライは無意識に感じていた。

 それも当然だろう。これまでずっと一緒にいたのだから、今更離れることなど出来ないはしない。それこそ、時間で言えばアリサとシエルの二人よりも長い。


 しばらくライが筋トレに励み汗を流していると、二人が精神世界から戻ってくる。かなり激しい修行だったのか、彼女達の額には玉のような汗がビッシリと浮かんでいた。

 それを見たライはタオルでも渡そうとしたのだが、自分自身も汗をかいていた事を思い出す。しかし、そんな事よりも彼女達は女性なのだから汗は早く拭きたいだろうと思ってタオルを渡すのだが、何故か両手を掴まれてしまう。


 一瞬、動揺するライだったが二人の顔を見て気がつく。昨晩と同じように目がギラついているのだ。恐らく、彼女達は精神世界での修行で何度も死に、その度に立ち向かっていったのだろう。だから、一種の狂騒状態に陥っている。


 つまり、興奮しているのだ。度重なる死闘により生存本能が大きく刺激されているに違いない。ということは、彼女達がライの両手を掴んだのは一つしかなかった。

 その火照った体を冷ます為と漲る性欲を発散する為だ。一片にその二つを解消するなら方法は一つしかなかった。


 一緒にお風呂である。幸い、ここは城なので風呂場はある。当然、無駄に広い大浴場だ。汗を流すついでに、この有り余る性欲を解き放つ為にふたりはライを連れて大浴場へと向かうのであった。


「ふう! すっきりっしたわ!」

「気分爽快ですね!」


 汗を流したようで肌が艶々になっている二人は脱衣場で満面の笑みを浮かべていた。

 その傍らに少々疲れ気味のライがいる。どうやら、散々搾り尽くされたらしい。彼女達のことを見くびっていたようだ。まだまだ二人の底が知れない。


『まあ、生存本能とは種を残す為の機能だからな。何度も死を経験すると強くなるのは仕方ないだろう』

『とはいえ、彼女達は凄まじいですけどね……。マスターでなければ搾り尽くされて殺されてしまうのでは?』

『そう言う意味ではベストカップルだな! ワハハハハハッ!』


 笑い事ではない。このままだとライは近い将来干からびてしまう。そうならない為にもライも強化するしかない。具体的には下半身辺りを。


「(嬉しいような、悲しいような……)」


 ライも健全な男性なので二人との行為は嫌いではない。ただ、このままだと自身がいずれ根負けすることは目に見えている。どうにかしなければならないのだが、彼女達に我慢をさせたくはない。というよりも、自身も拒むことが出来ないので我慢など出来はしない。


 では、どうするかと言われたらやはり方法は一つだ。強くなるしかない。それ以外に選択肢などない。また新たな目標が出来てしまったライは彼女たちの為にも、そして何よりも自身の生命いのちの為にも頑張ろうと決めるのであった。


 ◇◇◇◇


 それから、毎日三人は精神世界で修行を行い、現実世界で模擬戦を行うようになった。

 ライとアリサとシエルの三人は乱戦ばかりをしている。お互いに武器を変えて。これは、自身の武器が手元になかった場合を想定している。しかし、ライの場合は魔剣と聖剣を手元に呼び寄せることが出来るので必要性はないのだが、彼女達との合同訓練なので公平性をもってしている。


「このッ!」

「ッ!」

「やあッ!」


 アリサが短剣でライは棒、そしてシエルは素手である。しかも、アリサの短剣は本物で斬られると普通に血が出る。訓練とはいえ、些かやり過ぎであるがシエルとライがいる為、どのような大怪我を負っても治す事が出来るので問題はない。

 強いて言えば、周りの目が気になることくらいだろう。訓練であるはずなのに、三人はお互いを殺す気で戦っているのだ。正気を疑われても仕方がない。


 とはいえだ。確実に勝つためならばこれくらいはしないと勝てる戦いも勝てない。ライの最終目標は魔王の討伐である。それを成す為には四天王に苦戦しているわけにはいかないのだ。


「はあッ!」

「くッ!」

「そこッ!」


 その後、何度も武器を変えては模擬戦を行っていき、負傷する度にライとシエルが回復させる。夕暮れ時までずっとその繰り返しだった。


 夕飯を食べた後は、精神世界での修行を行い、就寝前に夜の運動会である。健全と言っていいのかは怪しいがここの所毎日、その繰り返しであった。おかげで、ライの強化も捗っている。


 そんな生活を続けて数日が経過した時、アルとミク、それから聖弓の勇者クロイスが帰ってきた。

 派遣されていた勇者達が戻ってきたことで一度勇者達は集まる事になる。


 ついにライは数年越しに幼馴染の二人と再会する事となる。どのように成長しているのだろうか、第一声はなんと言えばいいのだろうかとライは色々と考えながら、アリサとシエルの二人と一緒に勇者達がいる部屋へ向かうのであった。


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