第108話 奇跡の聖女シエル
何とか落ち着きを取り戻した二人は着替え終えて、既に着替え終えていたライに一言謝ってから城へと戻る。
当然、三人は一日外泊していた事を怒られる。ダリオスに説教される三人であったが、不貞腐れるようなことはない。アリサとシエルの方は念願叶ってライと結ばれたのだから、多少怒られた所で痛くも痒くもなかった。
対してライの方は顔面蒼白である。勇者のアリサと聖女のシエルを抱いた事もあるのだが、それ以上に多大な方々に迷惑を掛けたことを反省していた。
「はあ。別に羽目を外すなと言わん。だが、節度ある行動をするように」
「でも、ダリオスさん。このご時勢何があるか分からないじゃない? それなら、多少のことは目を瞑っていて欲しいのだけど」
「そうですよ。明日は我が身かもしれないのですから、一日くらい外泊しても許されるべきです」
「その言い分は尤もだが、俺が言いたいのは人としてきちんとルールを守れと言う事だ。今回は何の断りもなく勝手に外泊したんだ。どれだけの人達が心配をしたと思っている」
「うッ……」
その点については流石に二人も悪いと思っている。バツの悪そうな顔をして二人は潔く頭を下げたのだった。
「ごめんなさい」
重なる二人の声。頭を下げる二人の姿を見てダリオスは大きく息を吐いた。分かってくれたようで何よりだと。
しかし、話すべきことはまだある。本来であればこのようなことを言うのは憚られるが今回のような事が起きてもいけないのでダリオスは意を決して三人へ話した。
「ゴホン。先程も言ったが羽目を外すなとは言わない。だが、時と場合はきちんと考えるんだぞ。それから、アリサ、シエル、ライ。若いからと言ってあんまり羽目を外しすぎるなよ」
「……あの、それってもしかして」
『全部知られているだろうな』
『まあ、三人共有名人ですからね。どこかで情報が漏れたのでしょう』
ダリオスの意味深な発言にライが聞き返したが、彼は何も答えず目を逸らした。その反応を見たブラドとエルレシオンは三人が肉体関係を持ったことを彼は知っているという事を察した。
口から魂が抜けそうになるライは真っ白である。まさか、既に周知の事実になっていようとは思いもしなかっただろう。
一方でアリサとシエルの二人は既に知られているのなら隠す必要はないのだと開き直っていた。これで堂々とライの部屋に突撃できると喜んでいる。肝の据わった女性陣だった。先程、注意された事もすっかり忘れている。
説教も終わり、ライは自室へと戻った。ベッドに寝転がっているライは枕に顔を埋めている。勿論、先程の一件が原因だ。よもや、全てお見通しであったとは思わなかったライはどうしようかと悩んでいた。
アリサとシエルと結ばれたのはいいが、彼女達は間違いなく戦後も重要な人物だ。対して
だとすれば、このまま二人と一緒にいられるかどうか。それが一番怪しい。何かしら理由をつけて引き離されるかもしれない。それは絶対に嫌だとライは顔を上げた。
「(二人と相談しよう!)」
『我等では駄目か?』
「(いや、二人に相談しても何もできんでしょ)」
『私たちは剣ですからね。こうしてマスターと意思疎通は出来ますが、解決策は教授できても用意することは出来ません』
「(でしょ? だったら、色々とコネのあるアリサとシエルに頼もうと思うんだ)」
『おお~、成長したな。主』
そもそも今回ばかりは戦うだけしか能のないライには到底解決できるようなことではない。それならば、アリサとシエルに助力を願うしかないだろう。ライと違って二人は政治的な能力もある。故に皇帝との交渉も可能だろう。
「(よし! 二人の所へ行こう!)」
こういうことは急いだほうがいいとライは部屋を飛び出て行くのであった。
ライが部屋で枕に顔を埋めていた頃、アリサとシエルはヴィクトリアと過ごしていた。ヴィクトリアが二人に先日の件を問い質している。三人は一体何をしていたのかと。
「なあ、昨日は帰ってこなかったけど何してたんだ?」
「何ってナニに決まってるじゃない!」
ドヤ顔で妙な手の形を見せるアリサにヴィクトリアは噴き出した。からかう予定であったが、まさか本人の方からカミングアウトするとは思いもしなかっただろう。驚愕に目を丸くしたヴィクトリアだったがアリサのジェスチャーにツッコミを入れた。
「その手を止めろ! ったく、無断で外泊したと思えばまさかヤってたとはな~」
「すっごい気持ちよかったですよ! ヴィクトリアさんもダリオスさんを早く押し倒すべきです!」
目玉が飛び出るのではないかというくらいヴィクトリアは恐れ戦いた。あの穢れを知らぬと言われている聖女シエルから想像を絶するような言葉が出てきたことにヴィクトリアは戦慄する。
「聖女が言っていい台詞じゃないだろ……」
あまりの衝撃にヴィクトリアはこめかみを押さえる。一体どうしてこのようなことになってしまったのだろうかと後悔し始める。
「なによ、ヴィクトリア姐さんが聞きたがってるから答えてあげたのに」
「ヴィクトリアさん。悪いことは言いません。押し倒すのです」
「アホかッ! アンタ本当に聖女シエルなのか!? 偽物じゃないだろうね!」
「残念ながら紛れもない本物よ。聖女というより
「む、失礼ですね! 確かに処女は失いましたがまだ奇跡の治癒能力は健在ですよ! なんなら、アリサの処女――」
「何、とんでもない事を口走ろうとしてんのよ!」
「むーッ!!!」
「これが人類最高峰の聖女……。頭が痛くなってきた」
さらりととんでもない事を口走ろうとしたシエルの口を強引に塞いだアリサ。果たして、彼女は何を喋ろうとしていたのか。その二人のやり取りを見ていたヴィクトリアはフラフラと頭を抱えてしまう。これが夢であればよかった。
しかし、残念なことに夢ではない。現実だ。悪夢のような光景であるが、紛れもない現実である。一つ言える事は諦めて受け入れれば楽になるということだ。
「全く油断も隙もないんだから」
「別にいいじゃないですか。事実を述べようとしただけなんですから」
「その事実が悪いのよ! たとえ、出来るからと言って絶対にするんじゃないわよ!」
「でも、あの痛みはもう一度経験してみたいと思いません?」
「……ふん!」
「あいたッ! 何するんですか、このーッ!」
突然、始まる喧嘩にヴィクトリアは唖然として固まっていたが、すぐに間へ割り込んで仲裁する。
「はいはい、そこまで。はあ……。シエル、アンタがもう色々と凄い女だってのは理解したよ。でも、アリサの気持ちも考えてやんな」
「すいません。何分、生まれた時から聖都で育ち、俗世からかけ離れた生活をしておりましたので」
「だからって、反動が大きすぎるのよ! 聖女って皆そうなの!?」
確かにシエルはその闘気を見込まれて次代の聖女として俗世からかけ離れた生活を強いられていたのだ。だから、あまりコミュニケーションが上手くないのだろう。本来ならば言わなくてもいいことを言ったりしてしまう。それこそ、先程の発言のように。
「はあ……。まあ、シエルの境遇なら仕方ないだろうけど、少しは言葉を選びなよ?」
「……すいません。反省します」
「う……。まあ、そのあんまりにも変な言動じゃなければ別にいいわ」
流石に注意されて落ち込んでいるシエルにアリサも強く言えずにいた。とにかく、妙な発言だけは勘弁して欲しいと釘を刺すだけだった。
つまり、ある程度なら許されたとシエルは嬉しそうに笑ってアリサに抱き着いた。
「これからも竿姉妹として仲良くしましょうね!」
「だから、そういうのを止めなさいって言ってんのよーッ!」
「いったーーーッ!!!」
シエルの脳天にアリサのチョップが炸裂する。その様子を見てヴィクトリアはやれやれと肩を竦めるのであった。
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