第107話 賢者タイムなどありはしない
「やばい! 早くお城に戻らないと!」
「本当ですよ! 何やってるんですか!」
起きた二人は慌てて着替え始める。下着を着けている途中でアリサの発言にシエルが呆れたように返すがどっちもどっちである。
しかし、シエルの言葉にアリサがムッとしたのか眉を顰めてシエルに言い返した。
「アンタだって終始ノリノリだったじゃない! この淫乱聖女!」
「あーッ! それ言うならアリサだって同じじゃないですか! 自分の事を棚に上げるなんて卑怯ですよ!」
「う、うっさい! 私はまだ比較的マシよ! アンタなんてあの、その……!」
「なんですか? 声が小さくて聞こえません」
「う、うぅ……この変態!」
昨晩のシエルの行動にアリサは恥ずかしくて口にする事が出来ず、顔を真っ赤にして罵るのが限界だった。
シエルは変態と言われて心外だと怒る。大体、アリサも人の事が言えないくらいのことは一緒にしているのだ。自分だけ変態ではないということが腹立たしい。
「アリサだって人の事言えないじゃないですか! 昨日だってあんなに激しく――」
「わーッ!!! 何口にしようとしてんのよ!」
「もがッ!?」
ベッドの上で言い争っていたアリサは昨日の事を口にしようとしたので、慌てて枕でシエルの顔を埋める。
いきなり顔に枕を押し付けられたシエルは喋ることが出来ずに苦しんでいる。流石にこれは我慢が出来なかったのかシエルは枕を剝ぎ取ってアリサに掴みかかった。
「何するんですか、このアマーッ!」
「きゃあッ! 何すんのよ!」
「先に手を出したのはそっちでしょう?」
「だからって掴みかかることないじゃない!」
「窒息死させようとしたくせに何言ってるんですか!」
「それはアンタが変な事を口走りそうだったからじゃない!」
「別に変じゃないですか! そもそも私達は姉妹になったんですよ!」
そう、シエルの言う通り、二人は姉妹になった。勿論、義姉妹とかいう綺麗なものではない。姉妹の前に竿がつく下品な方である。シエルの方なんとも思っていないようで軽々しくくちにしているが、アリサの方はまだ恥ずかしいのか顔を赤くしていた。
「ちょッ!? アンタどこでそんな知識仕入れてんのよ!」
「勿論、本からです! 私、同年代のお友達とかいませんでしたし、そう言う事は誰も教えてくれなかったので、こっそり本で調べてました!」
「妙に知識だけはあると思ったら、そう言う事だったのね! やっぱり、あんた聖女じゃなくて
「それはライさんの前でだけです!」
「何自信満々に宣言してんのよ!」
「だって、昨日知られちゃいましたし! 今更カマトトぶっても手遅れですよ!」
「うぐ……! そう言われるとそうなんだけど! でも、少しは隠しなさいよ!」
「穴という穴を見られたというのに今更何を隠す必要があるんですか!?」
「アンタ、はっちゃけすぎよ! 聖女云々の前に女としてどうなの!?」
「いいでんす! ライさんはこんな私でも愛してくれるって言ったんです!」
シエルの言う通り、三人は行為の最中にそう言う事は沢山口走っているのだ。覚えてないなどとは言わせない。責任を取らなければいけないのだ。それこそ、二人の両親に土下座するレベルで。もっとも、二人の方が酷いレベルだが。
「(……止めた方がいいかな)」
『いや、自然に収まるまで放置した方がいい』
『下手に口を出すと巻き込まれますからね』
『フッ、それにしても愛されてるではないか、主よ』
『ふふふ、そうですね。とっても愛し合いましたもんね』
「(うっせ……)」
二人の本心を知ってライは嬉しいやら恥ずかしいやらで耳まで真っ赤にしていた。
昨日は二人の言葉通り心身ともに教えられた。どれだけ自分が愛されているかを。故郷を失い、家族を失ってしまったが、手に入れたものも多くあった。
聖剣に魔剣、頼もしい相棒のシュナイダー。そして、目の前の二人。本来であれば決して知り合うこともなかった二人。人生何が起きるか分からない。
ただ、一つだけ言えるのは今が幸せだと言うことだ。
だからこそ、ライは更なる決意する。仇を討ち、皆と幸せに暮らすのだと。ライは新たな誓いを胸に刻んだのだった。
「(それはそれとして俺殺されないかな?)」
『二人の両親にか?』
「(うん。ホラ、襲われたのは俺の方だけど最終的には俺もその理性飛んでたし……)」
思い返せば沢山した。それこそ、数えきれないくらい。それも仕方がないだろう。今のライは普通の人間ではない。精力も強化されていたのだ。当然、一般男性とは比べ物にならないくらい。まあ、そんなライに余裕で付いていけるアリサとシエルも大概であるが。
それはそれとして、最初こそ一方的に攻められていたライだったが途中から攻勢に打って出て二人と激しく交わったのだ。彼女達の両親が聞けば傷物にされたと激怒するのは確実だ。
『大丈夫ではないでしょうか? 二人が味方してくれるのは確かですから、特に心配するようなことはないかと』
「(ほ、ほんと?)」
『確実とは言えませんが、確率は高いと思いますよ。というか、もし結婚を反対されたら駆け落ちくらいはすると思いますよ、あの二人なら』
エルレシオンの言う事ももっともだろう。実際、シエルは聖国に嫌気が差しているのは間違いない。命の恩人であるライを迫害したのだ。シエルでなくても聖国に嫌気が差すだろう。
「(それは……ちょっと嬉しいかな。俺を選んでくれて)」
『昨晩の事を思い出せば主を選ぶのは当然だろうよ』
「(うッ……!)」
昨晩、お互いに口にした数々の愛の言葉を思い出してしまいライは顔を真っ赤に染める。大好きだとか、愛してるとか、一生離さないだとか、恥ずかしい事を沢山口にしていた。もう逃げることは絶対にできないだろう。
それにしても、二人の喧嘩は中々収まらない。ここで長い時間を過ごせば過ごすほど、城の方では三人を探そうと躍起になっているというのに。まあ、三人は知らないが既に三人の捜索隊は任を解かれている。
ダリオスが皇帝ノアに全てを話してしまったから。一応、三人に配慮しているが残念なことにノアには全てお見通しであった。ただ、そのせいでノアは今頃頭を抱えているが。
しかし、ある意味先に知れてよかっただろう。これが戦後に発覚していたらノアの計画は全て水泡に帰すのだから。
「こんにゃろーッ!」
「おたんこなすーッ!」
下着姿でぽかぽかと殴り合っている二人。一体いつ終わるのだろうかとライは呆れて溜息を吐いたが、その後すぐに笑った。この楽しくて愛おしい時間がいつまでも続くようにと。
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