第104話 ギルティ! ジャッジメント!
気持ちを切り替えてライはアリサとシエルの二人と一緒に街を見て回る事になった。
まずはアリサが帝都の街でおススメの場所に連れて行く事に。ライとシエルはアリサの案内に従ってついて行くと、辿り着いたのは鍛冶屋だった。
「どういうことですか!?」
普通、こういう場合はもっとお洒落な喫茶店とか服屋だろう。何故、聖剣を持っているライを鍛冶屋に連れてきたのだとシエルは疑問に声を荒げていた。
「え? ワクワクしない?」
「するわけないでしょ! もっと、こう男女が行くような場所はなかったんですか!?」
「ここ、結構人気だけど……」
鍛冶屋を指差して怒鳴っているシエルにアリサは反論する。この鍛冶屋はアリサの言うとおり、男女共に人気のお店だ。もっとも、お客は基本戦士や兵士といった武人なのでシエルの言っているような意味とはかけ離れている。
しかし、忘れてはいけない。
ライも男の子なのだ。
目の前にある鍛冶屋に目を輝かせている。当然だろう。男の子であるライは武具の類には心躍るのだ。聖剣と魔剣を所持しているが、憧れるくらいは許されるだろう。ただし、
『我等の方が見た目も性能も段違いなのだが?』
『浮気ですか? 浮気するんですか?』
当たり前のように怒っていた。それも仕方がない。契約者であるライが幼子のようにはしゃいでおり、目を輝かせているのだから二人が不愉快に思ってしまうのも当然のことだった。
「ほら、ライを見なさいよ。すっごく喜んでるわよ?」
「え?」
新しい玩具を買いに来た子供くらい喜んでいるライはまだ入らないのかと二人を見ている。その様子をシエルは目撃して意見を変える事にした。
最優先されるべきはライの機嫌である。シエルにとってライが喜んでいるなら、鍛冶屋でもいいと判断したのだった。
「何してるんですか、アリサ。早く中へ入りましょう!」
「……分かりやすいわね、アンタ」
シエルの身代わりの早さに呆れて肩を落とすアリサだったが、彼女の気持ちが分からないでもない訳ではなかった。
街へ来た途端、気まずい空気になったのは間違いなくライの所為であった。今でこそご機嫌であるが、ライは子供のように複雑だ。どのようなことで、また不機嫌になるか分からない。
それも仕方がない。ライは村という狭い世界で生きてきたのだ。失恋した上に両親がヴィクターに殺されてしまい、情操教育が中途半端な形で終わってしまったのも原因の一つである。
それゆえにライの心は未熟なのだ。中途半端に大人で中途半端に子供。彼女達が苦労するのは仕方ない事だ。
「ま、お姉さんの私が頑張るしかないか」
三人の中で年功序列一位のアリサが肩を竦めて、困った
鍛冶屋の中へ入った三人は一緒に店内を見て回る。三人の中でも一番興奮しているライは楽しそうに見て回っていた。
その様子を見て嬉しそうにしているアリサとシエル。やはりここを選んで正解だったとアリサはドヤ顔でシエルの顔を覗きこんだ。
突然、ドヤ顔してくるアリサにシエルは悔しそうに拳を握り締めたが、今回は彼女の方が正しいので素直に負けを認めるのであった。別に勝負をしてるわけではないのだが。
その頃、ライは防具の類に夢中になっていた。なにせ、ライの唯一の悩みは戦う度に装備が無くなる事。そう、常に真っ裸になってしまうのだ。
激しい戦闘であればあるほど服は欠片も残らない。捨て身の特攻ばかりだから仕方ないとは言え、やはり全裸の戦闘は恥ずかしい。
実を言うと最近はそうでもないのだが、終わった後が一番不味いのだ。戦っているときは無我夢中で忘れるのだが、戦い終わった後に仲間と合流する際、裸だと恥ずかしくて堪らないのだ。一応、ライも年頃の男なので異性であるアリサやシエルにアソコを凝視されるのは耐えられないのである。
だからこそ、防具には目がいってしまう。どうしても欲しいのだ。どれだけ破れても再生するようなズボンが。
しかし、そのようなものなどありはしない。ライの前にあるのは頑丈そうな鉄の鎧といったものばかり。
匠が作り上げた精巧な鎧の数々。お値段もそうだが見た目も派手であり、何よりもカッコいい。ライの子供心を刺激するには十分だった。
ただ、悲しいかな。ライが装備することは出来ても戦場で役に立つことはない。ライが相手にするのはヴィクターといった四天王だ。彼の攻撃に耐えられる防具など、そうそうあるものではない。
それにライの戦法は捨て身の特攻。ならば、防具など不要。いるのは勇気と度胸だけである。つまり、全裸でも戦える鋼の精神があればいいだけ。魔剣と聖剣があれば体は何度破壊されても再生するのだから戦闘に支障はない。
「(カッコいい……)」
『言っておくが今の主には無用のものだぞ』
『マスターの動きが制限されますからね』
『それにヴィクターやカーミラの攻撃はこのような鉄の鎧は簡単に破壊できるだろう』
『残念ですがマスターの最適解は何も装備せずに戦うことです』
「(うお~~~……)」
魂の咆哮を轟かせるライ。彼がどれだけ強くなれば全裸スタイルから逃れられるのだろうか。それはきっと魔王を倒すまで永遠に来ないだろう。
可哀想だがライはこの先も素っ裸で戦わなければならない運命なのだ。
「どうしたんでしょうか、ライさん。ずっと甲冑の前で止まってますけど」
「多分、着たいんでしょ。ほら、ライって基本何の装備もしてないじゃない? だから、ああいうのに憧れてるのよ」
「ああ、なるほど」
違う、違うのだ。ライは悲しんでいるのだ。これから先も全裸で戦う運命にある自分を嘆いているだけに過ぎない。
その後、鍛冶屋を後にするライは何度も振り返る。名残惜しそうにしているライの姿を見て二人は勘違いした。
そんなに鎧が欲しかったのかと。残念ながらそれは違う。もう二度と自分は鍛冶屋に行く事がないのだとライは悲観しているだけだ。武器は世界最高の聖剣と魔剣があり、防具は己の肉体。最早、鍛冶屋に訪れる事はないだろう。
鍛冶屋を後にしたライ達は次にシエルのおススメの場所へと向かう事になったのだが、そもそも彼女は聖都から出たことがないのでお勧めなどない。
ならば、一体どこへ行こうというのか。
彼女が案内した場所はまさかの歓楽街だった。欲望の詰まった街。聖女がおススメするとは思えない街である。
「ちょ、ちょっと、何考えてんのよ!」
「え、でも、ここなら男女でも楽しめるって昔治療しに来た患者さんが言ってましたよ?」
「た、確かに間違ってないけど、ここはないでしょ!」
「え~、そこまで言いますか?」
「あのね、アンタが思っている以上に帝都の歓楽街は危険なのよ?」
「そうなんですか? でも、とっても楽しいって聞きましたけど……」
二人がコソコソ話している時、ライは二人からあまり離れないように歓楽街の方を覗いていたら、妙に艶かしい服装をした女性達を発見する。
「(アレは?)」
『む? もしや……娼婦か?』
『娼婦ですね。この時間帯からでも……あー、そういうことですか』
「(え? なに、どういこと?)」
『恐らく彼女達は連合軍の溜まった欲求を発散する為にいるのでしょう。この時間帯からでも働いているということは、交代で戻ってきた兵士達の相手をしているのだと思います』
『なるほど、そういうことか。確かに人間はどこかで性欲を発散させないと何を仕出かすか分からない者も多いと聞くからな』
「(……アレが娼婦)」
『どうかしましたか、マスター?』
どこか様子のおかしいライにエルレシオンが話しかけるが彼は答えることなく、ジッと娼婦達を見詰めていた。
ライは昔行商人から聞いたことがある。お金を払えば女性と寝ることが出来る店の事を。その時は村で狩人をやっていた事もあり、何度か妄想したこともある。が、見ることはないだろうと思っていた。
しかし、今目の前には話に聞いていた娼婦がいる。目を奪われてしまうのも仕方がないことだろう。ライも男なのだ。それもまだ若く活気溢れる年頃の。
そんな彼の前に艶かしい服装をした見目麗しい女性達がいれば、目が釘付けになってしまうのは仕方のないことだった。
この後、どのような悲劇が襲うかも知らずに。
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