第103話 街へお出かけ!
シュナイダーという世界最高の名馬がハーレムを築いているらしいのでライはアリサとシエルの三人で用意された馬車に乗って街へ行く事に決まった。
馬車で街へ行くと聞いてライは嫌そうな顔を浮かべるが、シュナイダーがいないので仕方なく諦めた。やはり、まだ馬車には慣れそうにないライである。
少しの間、馬車に揺られていたライは街へとやってきた。ようやく、あの不愉快な空間から開放されてライは喜び、凝り固まった筋肉を解すように背筋を伸ばした。
その後ろからアリサとシエルが続き、彼女達は御者にいつ頃迎えに来ればいいのかを教えてライと合流するのだった。
「それでライはどこに行きたいの?」
「う~ん。飯屋かな」
「はあ? まだ昼前なのに飯屋って……アンタ、それはないでしょ!」
「そ、そう怒らなくても……」
『今のは主が悪いな』
『ですね。デリカシーがなさすぎます』
どうしてここまで言われなければならないのだろうかとライは納得がいかない。大体、どこへ行きたいのかと問われて正直に答えただけなのに、自分は何も悪くないはずだとライは腹を立てた。
「(じゃあ、なんて言えばよかったんだよ!)」
『それは自分で考えるべきだ』
「(そんなこと言われても分かるか!)」
『マスターはもっと女の子の事について勉強するべきです』
「(なんだよ、それ……! そんな余裕、俺にはなかった! 二人なら分かるはずだろ!)」
その一言でブラドとエルレシオンも自身の失態に気付いた。ライの身近にいた女性はミクだけであり、彼が他の女性について学ぶ前に村は滅び、それからは復讐だけを糧に生きてきたのだ。
過酷な運命に翻弄されながら必死で足掻いて来たライに女心を理解しろなどとは難しいにも程があるだろう。そもそも、そういったことに現を抜かしている時間など彼には一切なかったのだ。
『すまぬ。どうやら浮かれていたようだ』
『申し訳ありません。私もです……』
「(いいよ、別に。二人が俺のことを思って言ってるって事は分かってるから)」
怒りはしたが二人を責めるつもりは一切ないとライは矛を収める。今まで何度も二人には助けられているのだ。今回もきっとそうなのだろうとライは怒りを静めるのであった。
「アリサ……。ライさん、怒ったんじゃないですか? ずっと下向いて黙ってますよ?」
「え、え~。私そこまで言ったつもりないんだけど……。どうしよう!」
ライが難しい顔をして俯き黙ってから、アリサとシエルの二人は焦っていた。もしかして、何か不味いことでもしたのではないだろうかと。そのようなことはないのだが、少しだけタイミングが悪かった。
アリサの言葉でブラドとエルレシオンがライを嗜めたのだが、それが良くなかっただけのこと。アリサとシエルは被害者と言ってもいいくらいだ。
なんとも気まずい雰囲気に一同沈黙してしまう。街に来たばかりだと言うのに、これはあまりにも酷い。誰か間に入って助けるべきなのだろうが、残念ながらそのような勇気ある人間はいない。
このまま気まずい状態でデートに向かうのかと思われた時、俯いていたライが顔を上げた。
ライが顔を上げたことに二人がビクリと肩を揺らして驚く。もしかして、このまま帰るとか言わないだろうかと心配になる二人はお互いの手を取ってライが口を開くのを待った。
「ごめん。二人とも。もう大丈夫だから行こうか」
「あの、ライ……怒ってない?」
「ん? 怒ってないよ。ちょっと、色々と考えてただけだから」
「ホントに?」
「うん。まあ、
「そ、そう? それなら、いいんだけど……。もし、私の所為で気分が悪くなったなら私は別行動するけど……」
「そんなことしなくていいよ。ただ、まあ、さっきのように言われると俺もちょっと思う所がある」
「そ、それはごめんなさい。ただ、その……折角こうして一緒に街に遊びに来たんだから、ご飯じゃなくてまずはライと一緒に遊びたいと思ったの」
なんとなくアリサは理解した。恐らくライは察しの良い人間ではないことを。
なら、話は簡単だ。自分が合わせればいい。ライが分かるようにきちんと言葉にすればいいだけ。出来ればこちらの意図を理解して欲しいという気持ちもあるが、今はいいだろう。これからゆっくり分かってもらえばいいとアリサは考えるのであった。
「そっか……。俺の方こそごめん。確かにアリサの言う通りだな。まずはご飯よりも街を案内してもらおうか。悪いんだけど、二人に頼んでもいいかな?」
素直なアリサのおかげでライもなんとなくだが理解できた。彼女は一緒に遊びたかったのにライが無神経な事を言ったから怒ったのだと。
確かにこうして折角街へ遊びに来たというのに、いきなり飯屋というのは無粋だっただろうとライは反省した。
一言詫びてからライは二人に街を案内してもらおうとする。これだけ大きな街なのだ。きっと一日では回り切れないだろう。それなら、二人のお勧めの場所を見て回るのが賢い選択だ。
二人はライの言葉を聞いて花が咲いたように笑みを浮かべるとトンと胸を叩いて――
「私達に任せなさい!」
「私達に任せてください!」
と、自信満々に宣言するのであった。
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