第102話 ハーレム展開

 翌日、ライはメイドに案内されてダリオス達と一緒に朝食を取っていた。


「美味い!」

『美味い!』

『美味いです!』


 何度か領主や町長といった権力者達に朝食をご馳走になったことがあるが、申し訳ない事にその数倍は美味しかったとライは喜んでいた。

 その無邪気そうな顔を見たダリオス達はほっこりする。すかさずシエルとアリサは自身の好物をライにお裾分けした。

 二人の思惑は丸分かりである。同じものが好きだったら嬉しいのだ。


「ホラ、ライ。これも食べなさいよ」

「ライさん。こっちも美味しいですよ」

「おお! いいのか!? じゃあ、いただきます!」


 二人の思惑など何も分かっていないライは喜んで差し出された料理を食べる。パクリ、パクリと美味しそうに食べていく。純粋な笑顔にアリサとシエルもニッコリである。

 それを傍で見ていたヴィクトリアは餌付けされている雛鳥を見ているような気分であると同時に自分もダリオスにやってみたいと思っていた。


 何を隠そう、この褐色銀髪美女ことヴィクトリアはダリオスが好きなのである。すでにアリサ、シエルにはバレているがまだライとダリオスにはバレていない。とはいえ、ヴィクトリアのダリオスに対する態度を見れば丸分かりであるのでライが気が付くのも時間の問題であろう。


「美味いな~。あ、そうだ。ダリオスさん。今日は暇だったりしますか?」

「俺か? ん~、そうだな。鍛錬をしようと考えているがどうかしたか?」

「あ~、実は街に行ってみたくて。それでダリオスさんのおすすめ――」


 と、ライが喋っている途中でアリサとシエルが勢いよく立ち上がった。


「ライ、街に行きたいのね! 安心しなさい! この私が案内してあげるわ!」

「わ、私も一緒に行きます! ね、いいですよね、ライさん!」

「え、あ、はい」

『ククク……』

『フフフ、可愛らしいですね』


 二人の言葉にライは意味不明であったが、とりあえず案内役をアリサとシエルがかって出てくれたので安心した。


「ふむ。なら、俺も――」


 と、ダリオスが途中まで喋っているところでアリサが大きな声を出した。


「あ~~~! そういえば、ヴィクトリア姐さんがダリオスさんと行きたいところがあるって言ってたわーッ!」

「む? そうなのか、ヴィクトリア?」

「はひッ!?」


 口にしたことなど一度もないことを突然アリサに言われてヴィクトリアはフォークを落としそうになる。

 アリサの言葉を疑うことなくダリオスはヴィクトリアへ顔を向けると、どこへ行きたいのかと尋ねた。


「そうなのか? ヴィクトリア、どこへ行きたいんだ? 俺でよければいくらでも付き合うぞ」

「は、ひ、いや、その……」


 タジタジである。初対面でライに喧嘩を売っていたとは思えないような姿だ。恋する乙女なのだから仕方がないが、アリサとシエルを見習った方がいい。もっとも二人は肉食獣のように獰猛であるので参考にするのも程々がいいだろう。


 ガチガチになっているヴィクトリアは恨みのこもった眼差しをアリサに送ると、彼女は可愛らしくウインクを返す。まるで、私っていい女でしょと言わんばかりな笑顔であった。

 そんな事微塵も思ってないヴィクトリアはとにかくどう返答しようかと考えている。あまり待たせるのも良くないし、かといって適当に言うのも嫌だとヴィクトリアは悩んでいた。

 アリサのことを恨みはしたが、ダリオスと一緒に出かける切っ掛けを作ってくれたのも確かだ。ならば、この機会を活かさずしてどうするか。


「え、え、えっと、そのアタシ行ってみたいカフェがあって……その一緒にどうですか?」

「うむ、いいぞ。朝食を終えたらすぐにでも行くか? それとも午前は鍛錬して午後から行くか?」

「じゃ、じゃあ、鍛錬後でお願いします……」

「よし、分かった。では、また午後にだな!」


 机の下でヴィクトリアは握り拳を作って小さな声で喜んだ。それを見ていたのはアリサとシエル。二人はニヤリと口の角を吊り上げてヴィクトリアを見る。二人と目が合ったヴィクリアは苦々しい表情を浮かべた。

 後で玩具にされるのは間違いない。勿論、夜に帰ってきてからも玩具にされるのは当然の事だ。


 各自、朝食を取り終えるとそれぞれの部屋へ戻る。ライはアリサとシエルと三人で街へ出かける為に着替えてから部屋を出た。

 一度シュナイダーの下へ向かおうと使用人に声を掛けてどこにいるのかと尋ねたら、城内にある馬小屋にいるとのこと。


 二人を待つ間、シュナイダーの所へライは向かう。


 シュナイダーがいると言われている馬小屋にやってきたライだが、そこにシュナイダーの姿はなかった。

 はて、これは一体どういうことだろうかと案内してくれたメイドに尋ねてみる。


「あの、シュナイダーはどこに?」

「申し訳ありません。少々お待ちください」


 メイドも不測の事態だったらしくライに頭を下げると、慌しく走り去る。

 どこへ行ったのだろうかとライが待っていたら、メイドが戻ってきた。とても急いでいたのだろう。息を切らしているがそこはプロである。メイドはすぐに呼吸を整えた。


「お待たせしてしまい申し訳ありません。現在、シュナイダーはその……種付けの真っ最中にございます」

「ほあッ!?」


 予想もしていなかった単語にライは驚きを隠せない。いない理由がまさか種付けとは思わなかった。

 しかし、よくよく考えてみればシュナイダーほどの名馬は恐らくこの世界にいないだろう。ならば、その種を残さんとするのは正しいことだ。


「俺、何も聞いてないんですけど……?」

「その、それは……シュナイダーの正式な飼い主はグレアム領のゼンデス様とお聞きしておりまして……」

「あッ……」


 そういえばそうだったと思い出すライは間の抜けた顔をする。つまり、本来の主であるゼンデスが皇帝から謝礼金でも貰ってシュナイダーの種を分けることにしたのだろう。考えられるとしたら、それしかない。

 その考えも分からなくはないが、せめて一言くらい伝えて欲しかったなと思うライは複雑な気持ちであった。とはいえ、シュナイダーも子孫を残す事が出来たので喜ばしい事である。


 だが、困った事になる。街までは遠いのでシュナイダーに乗って移動しようと考えていたのに、それが出来なくなってしまった。

 どうしようかとライが困っていたら、アリサとシエルが現れた。二人とも目一杯お洒落をしている。いつもと雰囲気が違う事にライは驚いたが、それ以上に二人が可愛く思えて仕方がなかった。


「(二人とも凄い綺麗だ)」

『……何故、口に出さぬ』

『そうですよ。お二人はマスターの口からその言葉が出るのを待ってますよ」

「(そうなのか? でも、言われ慣れてるんじゃないかな?)」

『はあ……』

『駄目ですね、マスターは……」


 どうして二人が呆れ果てているのだろうかと考えるライだったが最後まで分からなかった。

 とりあえず、二人が来たのでどうやって街まで行こうかと相談するライであった。

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