第96話 未来を馳せて
二手に分かれたライ達一行はそれぞれの役目を終えて合流した。宿泊先の宿で五人は今後について話し合う。
「今後と言ってもこのまま真っすぐ帝都へ向かうだけだ」
「そうですね。今回のように食料や水が無くなり次第、町に寄りますが基本は真っ直ぐに帝都へ向かいます」
「私は特に何もないわ」
「私もです」
「…………なんでアリサとシエルは俺の腕掴んでるんだ?」
宿の食堂で会話していた一同なのだがライを真ん中にしてシエルとアリサが両側からがっちりと腕を掴んでいた。縄を外してあるから確かに拘束という意味では納得できる。しかし、両腕を掴まれては食事も満足に取れない。
「(どうしたんだ?)」
『うーむ……』
『これは……』
「(え? 分かるのか、二人とも!)」
『憶測であるがな』
『マスターには教えませんよ』
「(なんでだよ! そこは教えてくれよ!)」
『ククク。まあ、悪い気はしないだろう?』
『二人とも可愛いですからね』
「(…………)」
その事については否定することの出来ないライは沈黙を選んだ。それが正しいのか間違っているかは分からないが、兎に角コメントしない方がいいと判断しての事だった。
「見て分からないの?」
「分からないから聞いたんだけど……」
「簡単ですよ! ライさんを逃がさない為です!」
「何故に……?」
一体全体どうしてどうなったのかさっぱり理解できないライはただただ困惑するばかりであった。そもそも逃げ出すつもりなど毛頭ない。むしろ、逃げ出せば色々と面倒になるのは百も承知である。
なにせ、自分は人類の裏切り者、魔族の手先として指名手配されている身だから、一人で町を歩いていれば間違いなく捕まるだろうと分かっているライは、二人の考えが全く分からなかった。
『重症だな』
『人とはこうしてすれ違うものですよ』
「(二人だけ分かった風な口聞かないでくれる?)」
結局、ライは訳も分からず二人に両腕を掴まれていたので食事を食べさせてもらう。その際、食堂にいた他の客から殺意の篭った目で見られ、非常に心穏やかではなかった。
◇◇◇◇
翌日、馬車に荷物を乗せたライ達一行は町を出る事に。
町を出てからライはシュナイダーに跨り、続いてシエルもいつものように彼の前に座ろうとしたらアリサに首を絞められる。
「ぐえッ……!」
「何、平然とライの前に座ろうとしてんのよ!」
「そ、そのつい癖で……」
「あら、そう。それなら私が直してあげるわ。力技でね!」
朝から仲のよろしい事だと二人以外の三人は生暖かい目で見守っている。帝都を目指してライ達一行は先へ進む。馬車の中で何やらアリサとシエルが騒がしいが、旅は順調である。
シュナイダーの背に乗って揺られていたライはふと思い出した。勇者になった幼馴染の事を。
御者を務めているエドガーにライは声を掛ける。アルとミクのことについて質問するのだった。
「すいません。エドガーさん。俺の幼馴染のアルとミクのことについて聞きたいことがあるんですけど」
「む? なんだ? 俺が知っていることならいくらでも答えよう」
「二人も帝都にいるんですか?」
「ああ、いるぞ。アル殿は雷槍の勇者として前線にも行かれている。ミク殿はアル殿を支える為に前線へ赴くが基本は支援部隊だ」
「そうなんですね……」
二人が元気そうにしていることを聞いてライは安心した。
「他にはないのか?」
「う~ん。特にないですね。とりあえず、久しぶりに会えるのを楽しみにしてます」
「そうか。幼馴染に会えるのは嬉しい事だな」
「はい」
かつてはコンプレックスを抱いていたが今はもうない。確かに失恋もしたし、特別な才能があって何度も嫉妬した。だけど、今はそのようなことはもうどうでもいい。
あと一歩の所まで来ているのだ。
この旅の終着点が。
復讐という名の旅路が終わろうとしている。
ようやく終わらせられる。この長いようで短かった旅が。
恐らく帝都に着けば自分は最前線に向かい、魔王のいる所まで一直線に駆けることになるだろう。全ての元凶にして始まりの原因である魔王を討つ為に。
悲しみの連鎖を止めるとか、この世界を救うとか、そのような崇高な理由など全くない。ただ己の復讐の為にライは走るだけだ。
この戦いが終わった後、何が残るかなど分からない。
でも、この旅が終わったらシュナイダーに乗って
出来たらお嫁さんとか欲しいけど、村人の自分と結婚してくれるような人がいればいいなくらいにしか考えていない。すぐ傍にシエルやアリサといった美少女もいるが彼女達は戦争が終わった後もきっと色んな人達を助ける為に駆け回るために忙しいに違いない。
そもそも、ライが聖剣と魔剣に選ばれず魔族も来なくて平穏に村で過ごしていたら一生出会う事はなかった二人だ。こうして一緒に旅が出来ているだけでも幸せなのだとライは思っている。
それは大きな間違いである。その事にライが気づくのはもっと先の話であった。
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