第95話 女三人寄れば姦しいが三人寄れば文殊の知恵
男性陣と別れて女性陣は買い物へ来ていた。小さな町なので大通りくらいにしか店はないが、それでも十分だろう。それに三人もいれば退屈はしない。ただ問題があるとすればアリサとシエルの二人が世間知らずのお嬢様だという事。
基本、ベルニカといった使用人が買い物を担当しているので二人は買い物の交渉といったものには慣れていない。
実際、シエルも一度騙されかけている。その時は、運よくシュナイダーがいたから難を逃れたが、一つ間違えていれば今頃シエルはカモにされていただろう。
というわけで食料や水の調達はベルニカに任せっきりで二人は後ろで彼女が値切りしているのをただ見ていたる。鮮やかな手腕というよりは有無を言わせないベルニカに二人は尊敬の眼差しを向けていた。これが仕事の出来る女だ。
「では、次にライ様の衣類を購入しに行きましょうか」
大量の食料と水を持っているベルニカに二人は荷物を自分達も持つように提案する。
「私たちも持つわ。ベル、一人じゃキツイでしょ?」
「何の役にも立ちませんでしたけど、荷物持ちくらいなら出来ますよ」
「いえ、お二人にそのようなことをさせるわけには……」
自身の主であるアリサと聖女であるシエルに使用人のような真似はさせられないと思いベルニカは遠慮した。
しかし、二人は素直に返事をしなかった。
「私達の事を気遣ってくれるのは分かるけど、貴女ばかりに負担をかけるわけにはいかないわ」
「そうですよ。いくらベルニカさんがこういうことに慣れてるからと言って一人で四人分の荷物は重いでしょう?」
「そのようなことはないですよ。闘気で強化していますのでこれくらいなら平気です」
ベルニカの言う通り、彼女は闘気で身体強化を行っているので四人分の食料と水を持っていても特に負担はない。むしろ、まだまだ持てると余裕を見せつけるくらいだ。二人もその余裕にしている姿を見せられては閉口してしまう。
しょんぼりとしている二人を見てベルニカは少しだけ考える。まるで小さい子が背伸びをして母親のお手伝いをしているかのような二人。そんな二人をどう納得させようかと考えたベルニカは手に持っている荷物を分けることにした。それしかないだろうと思って。
「今更このようなことを言うのはどうかと思いますが、荷物持っていただけますか?」
「ま、任せなさい!」
「任せてください!」
パアッと花が咲いたように笑顔になる二人。頼られるのが相当嬉しかったようだ。それを見てベルニカはクスリと笑い、両手に持っていた荷物を二人に分けた。
ライの衣服を買いに向かう道中、アリサが口を開いた。
「それにしてもベルは凄いわね~。いつもこんなことしてるんでしょ?」
「ええ、まあ、そうですね。私はお嬢様の護衛兼お世話係ですから。お嬢様の身の回りのことは私がしてますよ」
「ホント、ありがとね~。でも、これからは私もやらないとね」
「それはどうしてなんです?」
「どういう意味でしょうか、お嬢様?」
「どうしてって、ホラ、私とライが結婚したら買い者とか奥さんの仕事でしょ?」
「は、はあああーーーーッ!?」
素っ頓狂な声を上げるシエルはベルニカの横を歩いて、とんでもないことを言うアリサの方へ詰め寄る。
「い、今なんて言ったんですか!」
「え? 聞こえなかったの? ライと結婚したら――」
「な、何を言ってるんですか! 貴女は!?」
「そんなにおかしい事言ったかしら?」
「い、いいい言ってますよ! なんでライさんと結婚するとか言ってるんですか!」
「だって、ライが私の求める相手に一番近いもの」
「求めるって……。一体どういうことなんですか!」
「まあ、そうね。私って勇者でしょう? しかも、天才美少女だし。だから、私隣に立って戦ってくれるような男がいいなって思ってたのよ」
「そ、それならダリオスさんとかでいいじゃないですか!」
「歳が離れすぎてるのあるし、そもそもダリオスさんにはねえ……」
どこか意味深な発言をしているアリサにシエルは首を傾げるが、それよりも重要なのはライと結婚するとかいう爆弾発言をしたことだ。
「だ、だからっていきなり結婚とか早すぎると思うんです!」
「何言ってるのよ。私達の状況忘れたの? 今、魔王軍と戦争しているのよ? いつ死ぬかもわからないんだから、好きな人と結ばれたいと思うのはおかしな事かしら?」
「す、すすす好きって! アリサ、ライさんのこと好きだったんですか!?」
「それはまだ分かんないわ。でも、一番良い男なのは間違いないわね」
「ライさんのことほとんど知らないくせに、何が一番いい男ですか!」
「別にそう言うのは後々知っていけばいいわ」
「ダメそうだったらどうするんですか!」
「どうもこうもないわ。まるごと愛してやるだけよ。長所も短所も良い所も悪い所も全部全部ね」
「な、なななッ……!」
「だって結婚てずっと一緒にいることになるんだから、嫌な所なんていくらでも出てくるに決まってるじゃない。好きだけで一緒にいられるわけないじゃないの」
「う……」
こればかりは何も言い返せないシエルは唇を噛んで黙り込む。アリサも別に意地悪しているわけではない。ただ彼女は自身の結婚観について語ってるだけに過ぎない。
「それであんたはどうなの、シエル?」
「わ、私は……」
「好きなんでしょ? 見ればわかるもの」
「うぅ……」
ライに二度も命を救われ、強さも弱さも知っているシエルはアリサに指摘された通り、ライの事を好きになっていた。出来る事ならば結ばれたいとも。
だが、ライが復讐を終わらせるまでは決して止まらないことを知っている。だから、この気持ちは押し殺すべきだと思っていた。
しかし、目の前のアリサはどうだ。堂々と言い切ったのだ。恐らく彼女は先程の言葉通り、実行するだろう。ライの目的を聞いてもきっと躊躇しないはずだ。
たとえ、ライが復讐を終えるまでは誰ともそのような関係にならないと断言してもアリサは迷わず突き進むだろう。立ち塞がる壁があるなら打ち砕く。それがアリサという女の信念だった。
「わ、私だってライさんと結ばれたいです!!!」
「ふふん。よく言ったわ。それじゃ、あんたと私は
「望むところです!」
「あの……一夫多妻でもいいのではないでしょうか?」
二人の会話をずっと横で聞いていたベルニカは思った。そんなに好きなら二人とも伴侶にしてもらえばいいのではないかと。
「……言われてみたら別に一夫一妻てわけじゃないものね」
「……でも、ライさんはどう思うんでしょうか?」
ライは村人であった為、一夫一妻が常識だと思っている。だから、いきなり二人から求婚されれば混乱してしまうだろう。
「あー、そう言えば忘れてたけどライって二文字の名前だから村人だったわね」
実は村人は基本二文字の名前だ。これは領主が村人の名簿を作る際に面倒だからという理由で村人は名前が二文字のみとなったのだ。一応、三文字も許されているがそれは村長だけである。
「はい。ですから、一夫多妻についてどう思うかですね」
「ん~~~。まあ、なんとかなるんじゃない?」
「え~、そんな適当でいいんですか?」
「こういうのはね、勢いよ勢い。有無を言わせない勢いで迫ればいいの。混乱している時がいいわ、特に。まともに頭が働いてないときに畳み掛ければ落ちるのは間違いなしね」
「おお~」
感心している場合ではない。詐欺に近い手口だ。それでいいのかと止めたくなるがベルニカは何も言わない。何故ならば、下手をしたら一生結婚しないと思われていたアリサがここまで積極的なのだ。彼女のお世話係であるベルニカはむしろ応援しているのであった。
「お嬢様。もし、私に何か手伝えることがあるならお任せください」
「ええ。その時は任せるわ!」
「私からもお願いします!」
魔王軍とは別のライ包囲網が生まれた瞬間であった。
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