第87話 ヒロインパワー上昇
魔剣と聖剣の能力をフルに使いライはヴィクターと激突する。あの日、奪われたものは帰ってこない。だから、けじめをつける。この胸の中に燻っている復讐の炎を激しく燃やしてライは剣を振るった。
「があああああああああああああッ!!!」
「ぬぅおおおおおおおおおおおおッ!!!」
お互いに負けないよう声を張り上げながらぶつかり合う。両者譲らず、退く気は一切ない。ただ目の前の敵を打倒せんと攻める手を緩めない。
◇◇◇◇
「向こうも頑張ってるみたいね」
肩で息をするアリサは頼もしい仲間達が奮闘しているの知って喜んだ。自分も負けていられないと彼女は重くなった剣を持ち上げる。
「どうした、先程までの威勢は? もう剣を持ち上げるのも億劫に見えるが?」
多少、手こずったサイフォスだがまだまだ余力は残っていた。アリサは間違いなく
恐らくダリオスならば互角であっただろうが、今のアリサではサイフォス相手は厳しかった。実力差もそうだが、なによりも経験の差が大きい。
サイフォスは魔界で獣人達を纏め上げるまで戦い続けて来たのだ。それも長い年月をかけて。
十数年しか生きていないアリサとは潜ってきた修羅場の数が違う。ここでアリサが負けても誰も彼女を責めることはない。相手が悪い、仕方がなかったと諦めても許されるだろう。
だが、アリサは許さない。自分が他の人と違うことに気が付き、自称天才と公言し、その名に相応しい働きをしてきた。
それなのにこの体たらく。ライに足を引っ張るなと言っておきながら、この有様。
他の誰が彼女を許そうとも彼女自身は決して自分を許さないだろう。己に厳しい彼女はきっとこう言うはずだ。
「甘ったれるんじゃない」と。
敵が強いからどうした。そんなものいつもの事じゃないか。ならば、この程度で諦めるものか。諦めてなるものか。届かないのなら届かせればいい。限界なら限界を超えればいい。答えはいつだって単純だ。
現実が甘くないことは自分が一番知っている。だからこそ、彼女は足掻いて藻掻いて前に進む。
「なに……?」
「ここで応えなきゃ女が廃るってもんよッ! 見せてやるわ! 天才美少女アリサ様の底力ってやつをね!!!」
とうに戦う力は尽きていたはず。それなのにアリサは止まることを知らない。止まろうとしない。それが己の生き様なのだと示すかのように彼女はサイフォスへ力強い歩みで迫る。
「馬鹿な……! まさか、それは……!」
銀色の闘気がキラキラと光り輝く。その光はどんどん眩しくなっていく。やがて、彼女を世界に轟かせんと銀色は金色へと昇華する。
その闘気は歴代最高と言われ、原初にして至高の領域に足を踏み込んだ初代勇者しか扱えなかったとされる黄金の闘気。
「もう戦う力は残っていなかったはず! 一体なぜ!?」
「言ったでしょ。これが私の本当の力よ!!!」
ブワッとアリサの周囲に戦塵が舞う。それは新たな黄金闘気の使い手を祝福するかのように彼女の周囲を螺旋状に舞い、天へと昇っていく。
「く……! だが、所詮搾りかすだろう! お前の闘気はほとんど残っていなかった! つまり、それが限界だ!」
「なら、試してあげるわ! あんたの体でね!!!」
聖剣イグニスレイドを構えたアリサは黄金闘気を身に纏い、サイフォスへ向かって地面を蹴る。
すると、彼女の姿は掻き消えて金色の軌跡だけが残った。
「ッ……!?」
目を離していなかったサイフォスは大きく目を見開いた。銀色の闘気を纏っていた時は目で追うことも捉えることも出来た。
しかし、今はどうだ。まるで彼女の姿が捉えれない。金色の軌跡だけは目に映っているがアリサの姿はどこにもない。
衝撃の事実に固まっているサイフォスの後ろにアリサが現れる。イグニスレイドを振りかぶり、サイフォス目掛けて振り下ろした。
その事に気が付いたサイフォスだが、気づくのが遅かった。振り向いた時には肩口から腰に掛けてまで斬られた。
「ガハ……ッ!?」
「燃えなさい」
「ぬぐああああああああ!?」
傷口から発火する。炎に包まれるサイフォスは瓦礫の上を転げ回って炎をかき消したが、そのダメージは相当なものだった。白く美しかったサイフォスの体毛は所々焼け焦げており、禿になっている。
「侮っていたのは私の方だったか……」
「次は首を刎ねるわ。必ずね」
「図に乗るなよ、小娘!」
「調子に乗るわけないでしょ! あんたが強いことは私が一番知ってるわよ! だから、私の全てを出し尽くす! たとえ、ここで死ぬことになろうともあんたは倒してみせる!」
「敵ながら見事な口上! ならば、私も最大の礼儀として全力を尽くそう! ぬおおおおおおおおおおッ!!!」
咆哮するサイフォスの体毛が一部白色から赤色に変色すると赤黒い稲妻を纏った。それを見てアリサは言葉を失ったが、同時に笑みを浮かべた。
「いざ尋常に!」
「勝負!」
黄金の闘気を纏ったアリサと赤黒い稲妻を纏ったサイフォスが激突する。
その激突で生まれた衝撃が周囲の瓦礫を吹き飛ばして町を破壊する。クレーターのようになった戦場でアリサとサイフォスは激しい攻防を繰り広げる。
火の粉が舞い散り、咆哮が轟く。イグニスレイドの炎とサイフォスの雄叫びだ。常人には見る事さえ叶わない速度でぶつかり合う二人。唯一見えるのは黄金の軌跡と赤黒い稲妻の閃光だけ。
その二つがぶつかっては離れて、またぶつかる。爆発音が鳴り渡り、戦場を轟かせていた。
避難して町の外へと逃げ出した住民たちにまで、その音は届いている。遠くで戦っている二人に住民達は固唾を飲んで見守っていた。まあ、どっちが勝っても町は滅茶苦茶なので後が大変なのは間違いない。
「はああああああああッ!」
「ぜやあああああああッ!」
イグニスレイドとサイフォスの拳がぶつかる。普通の剣なら容易く折ってしまうであろうサイフォスの拳をイグニスレイドは、まるで岩にでも当たったような音を響かせて弾き飛ばした。
すかさず返す刀でアリサはサイフォスを斬る。だが、そう簡単には斬らせてくれない。サイフォスは身を捻ってイグニスレイドを避けた。
そのままサイフォスは回し蹴りをアリサへ放つ。迫り来る巨大な足にアリサは怯えることもなくイグニスレイドを防御に回して受ける。とてつもない衝撃にアリサの全身に電流が走ったかのように震えたが、彼女は耐え切った。
そして、全身に力を込めてサイフォスの足を弾き飛ばすと、体勢を崩している所へアリサは地面を砕くほど力強く踏み込んで斬撃を放つ。咄嗟に両腕を盾にしてサイフォスはアリサの一撃を防いだが、イグニスレイドの炎までは防げなかった。
「ぐぅッ……!」
両腕に炎が踊り回り、焼き尽くさんとしている。このまま塵と化すかと思われたがサイフォスは両腕を振るっただけで炎をかき消した。
「そんな簡単に消えるものじゃないんだけどね」
「生憎、それはこちらも同じでね。そう簡単に灰となるような体をしてはいないさ」
「そうね。何度も切ってるから知ってるわ」
お互いに満身創痍となっていた。サイフォスは火傷が絶えず、アリサは青痣が痛々しいほどに出来ており、額からは血を流している。
「(しかし、このままでは勝てたとしても無事ではすまないか……)」
「(肉体の方は向こうが上。しかも、こっちは流血が酷い。正直、勝ち目は薄い……。まあ、だからといって諦めるなんてごめんだけどね!)」
二人とも考えは違っていた。サイフォスは撤退を視野に入れているがアリサは当たって砕ける気満々だ。どう転ぶか分からなくなってきた。アリサが勝つか、サイフォスが逃げるか。
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