第86話 チートは貴女にこそ相応しい

 アリサという心強い味方が現れてライは勝機を見た。恐らく彼女は以前会った時よりも遥かに成長しているだろう。それこそ、もしかしたら今の自分以上に強いかもしれない。


「フフ……」

「何? 何か可笑しかったかしら?」

「いいや、ただ嬉しくて」

「何がそんなに嬉しかったの?」

「こうして誰かと一緒に肩を並べて戦えることがだよ」

「そう? まあ、私天才だからちゃんとついてきてね」

「ハハ、そっちこそ」

「あら、言うようになったじゃない! フフッ! それでこそ白黒の勇者ね!」

「大層な肩書きだよ、全く。でも、今はその名前に負けないくらい頑張るさ!」

「良く言ったわ! さあ、それじゃあ、行くわよッ!」


 ゴウッとアリサの闘気が膨れ上がった。かつては赤色であった彼女の闘気は美しい銀色に染まっている。人類でも数えるくらいしか存在しない銀色の闘気だ。その上には金色しかいない。そして、まだ金色は存在していない。

 もっとも近いのがアリサとダリオスの二人と言われている。銀色の闘気は他にもいるのだが、金色に上がれると期待されているのはその二人だけだ。


 隣から凄まじい闘気を感じてライは負けてられないと口角を吊り上げる。アリサにも引けを取らないようにライは闘気を高めた。

 その闘気を感じ取ったアリサは横に立っているライを見つめると笑った。ダリオス以外に自分の隣に立ってくれる者がいる。それがどれだけ心強い事か。


 孤独ではない。一人で戦うのではない。互いに手を取り合い、高め合う存在。


 それだけで心が軽くなる。胸が熱くなる。隣に誰かがいてくれるだけで強くなれるのだ。


 同時に二人は地面を蹴って三人へ向かって跳躍した。ライがヴィクターとカーミラに、アリサはサイフォスにそれぞれ剣を振るう。

 四天王である三人も二人が闘気を迸らせたからといって怯むことはない。二人と激突する三人。


「こっちは任せなさい!」

「任せた!」


 サイフォスと切り結ぶアリサはライから引き離すように戦い始める。それを横目で確認したライは二人と激しい攻防を繰り広げる。

 やはり、片手剣だけでは少々手数が足りないのかライは本調子とはいえなかった。今まで双剣で戦ってきていたのだから仕方がないことだった。


「(やっぱり、エルがいてほしいな!)」

『確かにバランスが悪いな! しかし、贅沢は言えないだろう!』

「(まあな! エルにはシエルを助けてもらってるんだからな!)」


 巧みに剣で二人の攻撃を捌いているが、双剣ほど上手くはいっていない。ライの体に傷が増えていくのがその証拠だ。

 右腕が吹き飛び、剣を手放してしまうがすぐに左手で掴むと右腕を吹き飛ばしたヴィクターへ斬りかかる。

 剣が届くか届かないかの所でカーミラにより右腕が輪切りにされてしまう。だが、既に左腕は再生している。落ちそうになった剣を左手で掴むと、そのままカーミラの喉を突く。


 しかし、邪魔が入る。ライの攻撃は魔力を奪い削ぐ。そして、自身のものへ変換するのだから厄介極まりない。ゆえにヴィクターはカーミラに迫る魔剣を弾いて軌道をずらした。


「(チッ! さっきからずっとこれだ!)」

『仕方ないだろう。向こうはこちらの能力を知っている。警戒するのは当然だ』

「(だとしても。やっぱり鬱陶しいな~!)」


 瓦礫を蹴って二人の視界を塞ぐとライは距離を取った。先程よりも遥かに戦いやすくはなったが、まだまだ勝ち目は薄い。せめて、あと一手欲しいところだ。

 その願いが通じたのか、美しい白の剣がライの傍に突き刺さった。思わず、そちらを向くと遠くにシエルの姿が見えた。


「シエル! よかった! 助かったんだね!」

「はい! おかげさまで無事に生き返る事が出来ました!」


 手を振るシエルに喜ぶライだったがすぐに目を逸らすことになる。胸を撃たれた彼女は服を着替えていないせいでぽっかりと胸の部分に大きな穴が開いている。そこから覗くのは彼女の豊満な胸。そう、おっぱいである。

 戦闘中の際にとんでもないものを見てしまったライは赤面する。

 シエルの方はどうしてライが顔を背けたのか、よくわかっていない。とりあえず、自分は大丈夫だという事を知らせるために元気よく手を振っている。それと一緒に揺れるおっぱい。実に、実に素晴らしい光景である。


「余所見とは随分と余裕だな!」

「ッ……!」


 おっぱいに気を取られていたせいでヴィクターの接近を許してしまったライは己の失態に後悔する。まあ、眼福だったのでプラマイゼロでもある。が、それはそれとしてヴィクターの攻撃をまともに受けてしまう。


 ヴィクターの攻撃を受けながらもライはシエルが投げてきた聖剣を手に取った。脇腹を抉られたが、結果オーライである。ついに両手に魔剣と聖剣の二つが揃い、いつもの戦闘形態になったのだから脇腹くらい安いものだ。


「ハッハー!」


 最高にテンションが上がっている。シエルも無事で心強い味方のアリサまでいるのだ。そして、両手にはブラドとエルレシオン。勝ち筋が見えているわけではないが、今のライはかつてないほどに滾っていた。


「気でも狂ったか!?」

「かもなぁッ!!!」

「ぬぅッ!」


 肉薄していたヴィクターはライの剣を振るう速度が増したことに驚いた。まさか、ここに来てさらに力を増すとは思いもしなかっただろう。


「妾を忘れてもらっては困るなァッ!」

「させません!」

「ぬぐわぁッ!?」


 強烈な拳を頬に受けて吹き飛ぶカーミラ。吹き飛んだ彼女が見つめる先にはふんすと鼻を鳴らしてギュッと拳を握り締めているシエルの姿が映っていた。

 シエルは聖剣エルレシオンと仮契約したことでとある力を手に入れたのだ。それは過去の聖剣使い達の記憶。そう、今の彼女には過去の英霊達が培った力と技が宿っているのだ。


 とはいっても、これは借り物に過ぎない。そして、今回だけの限定である。聖剣をライに返してしまった以上、シエルに聖剣の力は宿っていない。時間制限の反則技チートである。

 だが、それだけで十分だろう。今のシエルは正真正銘最強の存在だ。


 過去の英霊の力に当代最高峰の闘気を持ち、尚且つライと一緒に進化した聖剣から取り込んだ魔力も加わっているのだ。カーミラに勝ち目はない。


「ぐ、おおおお!? なんじゃ、これは再生が阻害される……ッ!?」

「先程の拳には貴女の再生を封じるように闘気を含ませました! とびっきりの神聖な奴です!」

「馬鹿な! 神聖な闘気じゃと! そんなものあるはずがない!」

「私にはあるんです! というか、なんか出来ました!」

「ふざけるなぁッ! そんな出鱈目がそう簡単に出来てたまるかッ!」

「出来るったら出来るんです! えーいッ!!!」


 駄々っ子のような理屈ではあるが過去の英霊達の培った技術の賜物である。彼女は理屈は分かっていないが出来るのだから出来るのだと強く信じている。それも相まってシエルの拳には神聖な闘気が宿っていた。


 戦うのは怖いシエルは目をギュッと閉じながら正拳突きを放つ。なんとも可愛らしい掛け声で繰り出す正拳突きだが、その威力は彼女から放たれたとは思えないほどに凄まじい。


 彼女の周囲に旋風が巻き起こり、空気の大砲となってカーミラを襲う。


「む、無茶苦茶じゃああああああああッ!?」


 飛んでくる空気の大砲に吹き飛ばされるカーミラはいくつもの建物を破壊していく。


 その光景を横目で見たいたライとヴィクター。荒唐無稽な出来事に二人して同じような顔をしている。


「……ククク、ハハハハハハハハ! サイッコーだぜ、シエル!」

「く! お前だけでも厄介だと言うのに聖女まで出鱈目な力を!」

「ここでお前等全員死ね! 今日ここで家族の仇を討つ!」

「やれるものならやってみろ!」

「上等! 死ね、ヴィクターアアアアアアアッ!」

「死ぬのはお前だ、ライ!!!」


 二人がぶつかる度に爆発音のような轟音が鳴り渡るのだった。



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