第85話 ヒロインは遅れてくるものだって言ったでしょう!

 三人が再びぶつかる。凄まじい衝撃に周囲の瓦礫は吹き飛び、町がどんどん破壊されていく。ほとんどの住民は避難しており、町の中心部あたりで繰り広げられている戦いを見守っていた。


 まるで嵐である。四人の激突は暴風のように周囲を吹き飛ばし、稲妻の如く轟音を鳴り渡らせている。

 これが四人の戦闘で起こっているというのだから、住民たちは信じられなかっただろう。目の前で見るまでは。


 踊るように戦うライは三人へ刃を向け、舞うように攻撃を避ける。


「(くぅッ!!! 三人相手はやっぱり厳しいな!)」


 奥歯を噛み締めて辛そうに顔を歪めるライだが、その瞳はまだ諦めていない。

 振るう剣の速度が増していく。ライの剣の速度が上がるたびに三人に傷が増えていく。傷が増える度にライは魔力を蓄え、自身を再生し強化していく。


 このままではジリ貧だと三人が距離を開けた。すかさず距離を詰めようとするライにサイフォスがぶつかり、後方にいるカーミラとヴィクターが魔法を放つ。

 射線上にいたサイフォスは寸前のところで飛んで避けると、魔法はライに直撃する。はずだった。

 なんとライは障壁も張らずに正面から魔法を切り裂いたのだ。これには三人も思わず声を荒らげて驚いてしまう。


「何ッ!?」

「なんじゃとッ!?」

「なんだと……ッ!」


 聖剣の能力である魔力切断だ。普通は魔力しか切れない。魔法を斬ることは出来ないのだが、ライは迫りくる魔法の中に核があるのを見た。それが魔力だと直感したライは真っ直ぐにそれを斬っただけ。

 本人は出来ると信じていたようで三人が驚いている一瞬の隙を見逃さず、懐へと侵入した。


 最大の失態に気が付いた三人だったが、もう遅い。既にライの間合いだ。地面を踏み砕いて渾身の一撃を放つ。

 風を切り、音を超えて、光へと至る最速最大の斬撃。ライが持てるすべてを注ぎ込んだ一閃。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」


 一条の光が戦場を駆け抜けた。残滓が残り、そこには何者も生きてはいない。

 だが、三人は生きていた。いいや、正確に言えば二人・・は無傷。残りの一人、カーミラが二人を突き飛ばして守ったのだ。


「ぐはぁッ……!」

「カーミラッ!?」


 驚く二人の声が重なる。まさか、カーミラが身を挺してライの攻撃から守ってくれるとは思わなかったのだ。基本、自由奔放で趣味を優先させる四天王の中でも問題人だったカーミラがだ。


「妾はお主等と違って再生できる。しかし、お主等は違うじゃろう……。ならば、妾が盾になるのは道理というものじゃ」

「……初めてお前の事を称賛するよ」

「私もだ」

「何をごちゃごちゃ言ってやがる。おままごとがしたいならウチに帰ってからやりな!」


 倒れ伏すカーミラに二人が称賛の言葉を送っている所にライは容赦なく斬撃を放った。


 瞬時に障壁を張って防いだ三人だが、その衝撃によって大きく後ろへ吹き飛んでいく。


 追いかけるライはこの絶好の機会に三人を倒してしまおうと剣を握る力を強くする。まずは二度に渡り死闘を繰り広げたカーミラを狙う。彼女は斬られた体を再生している所だ。今が好機チャンスだろう。迷うことなくライは剣を振るう。


「私達を忘れてもらっては困る!」

「流石に失礼だろう!」

「ぐッ……!」


 やはり、四天王。そう簡単には倒れてくれない。サイフォスとヴィクターがいつの間にか立ち上がり、カーミラを守るように立ち塞がった。傍から見ればどちらが悪役か分からないような構図だ。

 美女カーミラを守る美男子ヴィクターゴリラサイフォス。それと対峙しているのは禍々しい黒い剣を持ったライ。流石に勘違いはされないだろうが、あまりよろしくない光景である。


「ハッ。そんな悪趣味な女を守るとは正気じゃねえな」

「ふ、そうかもな。だが、彼女は仲間なのでね。君も同じだろう?」

「ああ、そうだな。俺もシエルをお前等に傷付けられて切れてるよ。彼女の献身があったからこそ俺はこうしてまた無事でいる。だから、その彼女を傷つけたお前等を生かしてはおけないッ!」


 復讐心もあるが、今はなによりも自分に寄り添ってくれて支えてくれたシエルを傷つけられたことが、ひたすらに許せなかったライは怒髪冠を衝く。

 迸る闘気は一本の柱になり天を衝く。それこそがライの怒りを表しているように見えた。


「これは……凄まじい闘気だな。聖槌の勇者ダリオスに匹敵するかもしれんぞ」

「所詮、借り物だと馬鹿にしたいが変質しているようだ。恐らく奴の体内では予測できないことが起こっているのだろう」

「呑気なことを言っている場合ではないぞ。このままでは妾達の負けじゃ。何か策を考えい」

「そうは言われてもな……」


 身体の再生を終えたカーミラが二人に並び立つ。再び三人と対峙するライ。


 正直言うとライは虚勢を張っていた。勿論、まだ余力は残っているが三人と戦って勝ち目があるかと言われたら無い。一対一ならば勝ち目はあるのだが、やはり数の差は大きい。

 いくら莫大な闘気と桁違いの魔力を吸収できても消費が同じくらい比例するので、長期戦になれば三人いる向こうが有利なのだ。


 出来れば撤退をして欲しかったがこうなってしまえば泥沼である。


 ライは剣を構えて三人へ向かって飛び出そうとした瞬間、懐かしい声が聞こえてくると、彼の横にアリサが空から降り立った。


「天才美少女勇者アリサ様、ここに参上! 待たせたわね、ライ!」

「アリサさん!」

「困ってるんでしょ! 見れば分かるわ! だって、私天才だから!」

「ハハッ! 流石!」

「てことで、行くわよ! ライ!」

「おう!」


 ド派手に登場したアリサと背中合わせにライは剣を構えるのだった。

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