第84話 三対一
「このタイミングで起き上がるとは……」
「悠長なことを言っている場合ではないぞ。構えろ」
「今度こそ殺してやるわ!」
空に佇んでいた三人は起き上がり、こちらへ向かって駆け出したライを見て戦闘態勢に入る。
「(ブラド! 簡単でいいから何が変わったかを教えてくれ!)」
『まず我もエルレシオンと同様の力を手に入れた! 闘気でも魔力でも操ることが出来る!』
「(じゃあ、障壁出せるんだな?)」
『うむ!』
「(よし! それじゃあ、頼んだぜ!)」
『任せよ!』
宙に浮いている三人に剣を届かせるには空中を移動する方法が必要不可欠。本来で得あればエルレシオンがその役目を担っていたのだが、ライと同様に進化し成長したブラドは聖剣と同じ能力を有していた。
これなら敵が空を飛んでいようと十分に戦えるとライは獰猛に笑った。
それに何よりも嬉しい誤算はシエルが毎日のように治癒を行ってくれたおかげで闘気が潤沢にあること。全身に今まで以上の力を感じるライはぐっと足に力を込めて跳躍する。
空へ舞い上がるライはブラドに障壁を宙に張ってもらい、それを足場にしてもう一度跳躍した。
「おおおおおおおおおおッ!!!」
矢の如く空を駆けるライは三人へ迫る。
空を駆け、こちらへと迫ってくるライに三人はそれぞれ構えた。
誰を狙うかなど決めてはいないライは、ただ力の限り剣を振るった。放たれた斬撃にはかつてカーミラが見た飛ぶ斬撃を大きく上回る大きさの斬撃が生まれる。
三人はライから放たれた斬撃を見て目を見開き、本能が警告を出した。アレを受けると不味い。そう感じた三人は散り散りに分かれる。
ライが放った斬撃は虚しくも空気を切り裂いただけだった。
しかし、今のでライは一つの確信を得た。今の自分ならあの三人にも届くかもしれないと。
「……先程の一撃は、まさか聖剣のものか?」
「馬鹿な! 奴が今持っている剣は
「あり得ないことはないだろう。そもそも奴の存在自体があり得ないのだぞ。魔剣が聖剣の能力を使っても不思議ではない」
「厄介だな。陛下が我等三人を差し向けた事が理解できる」
先程の斬撃は聖剣が持つ魔力切断を含んでいた。もしも、防御に回っていれば間違いなく切り裂かれていただろう。
「全力で行くぞ」
「久しぶりに血が騒ぐな」
「八つ裂きにしてやろうぞ!」
散り散りになっていた三人は
三人が自分に向かってくるのを確認したライは闘気を迸らせる。全力全開で身体強化を行い、障壁を足場にして三人とぶつかった。
双剣ではなくなってしまったが三人に引けを取らないライ。超高速の空中戦闘であろうともライは見事に三人と渡り合っている。ように見えるが、やはり数の不利に加えて相手は四天王の三人。
いくら、進化し成長したライといえども戦いは厳しかった。一瞬で腹を抉られ、腕を斬られ、脚を吹き飛ばされた。
されど、ライは負けていない。再生能力を駆使して三人と肉薄している。何十、何百と切り結び、火花が舞い散り、青空の下で歪な花が咲いている。
地上でそれを見ていた人達は呑気そうに見え上げていたが、ライが叩き落されて建物が破壊されると蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
よそ見をする余裕などないライは町がどのような状況になっているかなど気にしてはいられない。異常事態に兵士がライの近くへ歩み寄るのだが、上空にいた三人の攻撃によって肉片と化した。
勿論、その攻撃はライにも直撃している。しかし、ライは障壁で防いでおり無傷でいた。もっとも、既に服はズタボロであり、原形を留めていない。
最早、裸で戦った方がいいかもしれない。が、やはり羞恥心がまだ残っているライに全裸戦闘はキツイ。
「(ブラド。闘気の残量はどれだけだ)」
『まだまだ余裕があるぞ。しかし、このままでは厳しいのも確かだ。相手は恐らく四天王だろう。いく闘気が莫大にあっても相手が悪い。ここはシエルとシュナイダーを連れて撤退をしてもいいのではないか?』
「(……最悪それしかないか)」
流石にライも理解していた。全てを守ることは出来ないと。そして、救うものを選ばなければならないと。善人寄りの思考をしているライだが、今までの事を考えると救うものを選択することは間違いはないと決断したのだった。
地上に降りてくる三人。瓦礫の中に埋もれているライに向かって魔法を放つ。吹き飛ぶ瓦礫の中からライが飛び出して、障壁を蹴り、三人に向かって跳躍する。
闘気を込めた魔剣を振り抜き、斬撃を飛ばす。青白い三日月上の斬撃が三人を襲う。
どのような効果をしているか理解している三人は防御せずに飛んで避ける。すると、そこへライは突っ込み、直接剣を振るう。当たらないように気を付けているが、ライの身体能力に剣技は尋常ではない速度だ。
どれだけ回避に専念しようとも掠ってしまう。その度にライへ魔力が奪われると同時に魔力を削られる。はっきり言って厄介どころか災厄でしかない。
互角で戦いが長引くほどライは強くなる。しかも、今回はカーミラ、ヴィクター、サイフォスの三人だ。四天王である三人はそこらにいる魔族と違い、桁違いの魔力を有している。
そのせいもあって余計にライが強化される。魔王の考えは間違っていなかったが計算を間違えていた。ライの成長速度を見誤っていたのだ。
「くッ!!!」
「よもや、ここまでとは!」
「これじゃ! これが鬱陶しいのじゃ! どれだけ肉を削ごうとも奴は再生して立ち向かってくる! こちらは消費する一方じゃというのにライは妾達の魔力で回復していく! これがどれだけ厄介か、お主達も痛感したじゃろう!」
「ああ。まさかこれほどまでに腹立たしく感じるとは思わなかった!」
「カーミラよ。お前がライに固執する理由がようやくわかった。アレはなんとしてでも排除しなければならない!」
激昂する三人だが、ライも同じく激昂しており怒号を放った。
「鬱陶しいのはこっちもだよ! こっちの攻撃は掠るのがやっとだって言うのに、ボコスカ攻撃してきやがって……! お前等から魔力を吸収しても全部再生で使うから大して意味はないんだよ、くそが!」
ライは自分で言っている通り、吸収した魔力は即座に再生へ回してしまうのであまり意味がないのだ。とはいえ、敵の魔力のおかげで再生出来るので便利でもある。
対峙する四人は睨み合う。まだまだお互いに力を残している。果たしてどちらが先に力尽きるか。
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