第78話 万事休す
シエルが聖女から性女にジョブチェンジしかけている中、ライとカーミラの戦いは熾烈を極めていた。両者互いに捨て身の戦法へ切り替えており、ライもカーミラも血を撒き散らし、何度も肉体を再生をしながら戦っている。
カーミラは強い。四天王に選ばれているのは伊達ではない。相対しているライは理解していた。このままでは勝てないと。
魔法も強力、加えて身体能力まで高い。肉薄しているライは限界を感じていた。今まで培ってきた全てをぶつけているが、まだ届かない。
再生を繰り返し、身体強化を持続させ、障壁を展開しており、ライの魔力はゴリゴリと削られていた。それと同じくカーミラも魔力の消耗が激しい事に気がついていたが、それよりも目の前のライが相当魔力を消費していることを知っていた。
魔族である彼女は魔力を見ることが出来る。ゆえにライの歪な魔力が最初と比べてかなり減っている事に気がついたのだ。
このまま戦えば必ず勝てる。だが、自分も無事では済まないだろうということも理解している。されど、退くわけにはいかない。魔王からの命令でもあるが、何よりも傷つけられた自信のプライドを取り戻す戦いなのだ。決して退いていいはずがない。
あの時は油断していた。たかが人間。自分の相手ではないと慢心していた。
しかし、蓋を開けてみればどうだ。自分は遥か格下である
許せるはずが無い。許していいはずがない。誇り高き吸血鬼の女王である自分が人間如きに遅れをとったのだ。何が何でもこの事実だけは許してはおけない。
ならば、どうするか。
答えは簡単である。己の手で
カーミラは自らの手でライを殺すことによって、ようやく
「ぬぅあああああああああッ!!!」
「(力と速さが増した! ここに来てまだ強くなるのか!)」
『なんという執念! よほど主に負けたことが悔しかったらしいな!』
『敵ながら尊敬すべき覚悟ですね!』
「(褒めてる場合じゃないだろ! このままじゃ負ける!)」
敵ながら賞賛に値する二人は褒めちぎるが、肝心の契約主であるライは完全の押され気味であった。ライの言うとおり、このままでは間違いなく負けるだろう。
「がああああああああああッ!!!」
負けじとライも吼えて障壁に回していた魔力を身体強化へと回した。これで互角になるかと思いきや、カーミラの力はさらに上回った。連続でライの体に彼女の爪や足が当たり、大きく後ろへ吹っ飛んだ。
「ぐはぁッ!」
大木を何本もへし折ってライはようやく止まる。立ち上がり、前を向くとそこにはすでにカーミラの姿が。彼女は手の平をライに向けて極大の雷撃を放つ。
青白い閃光がライの視界いっぱいに広がり埋め尽くされた。咄嗟に腕を交差させて障壁を張り防いだが、ライは閃光に飲み込まれてしまう。
その光景を見たシエルが悲痛な叫びを上げてしまうが、閃光が晴れた場所には抉られた大地と所々火傷を負っているライが片膝をついていた。無事だった事に喜んだシエルだが、ライが力尽きたように両膝を地面について四つん這いになったのを見て息を呑む。
先程の一撃は誰が見てもかなり強力なものであった。それを五体満足でライは防いだのだ。しかし、代償は大きい。ほとんどの魔力を障壁に回してしまい、今やライの魔力は底を尽きかけている。
「(万事休すか……)」
「どうやら、先の一撃でほとんどの魔力を防御に回したようじゃな。魔力が底を尽き掛けているのが見て分かる」
「だから、どうした……」
たとえ、万策尽きたとしてもライは諦めない。魔剣と聖剣を地面に突き刺して杖代わりに立ち上がると真っ直ぐカーミラを見据えた。その瞳はまだ死んではいない。燃え尽きぬ闘志が宿っていた。
「ふッ。強がりはよすのじゃな。もう限界なのじゃろう? 足も震えて立っているのもやっと。その状態でどうやって妾に勝つと言うのじゃ?」
とカーミラは勝利を確信しているが油断はしない。そのせいで前回負けたのだ。今回は確実に止めを刺すまでは決して警戒を解かないカーミラは、今だ自分を睨み付けてくるライに鋭い目を向ける。
「ハッ! お前がよく知ってるだろ! 俺が諦めの悪い男だって言う事を!!!」
「クハッ! そうじゃの! 妾が一番知っておるわ! お主がどれだけ執念深い男かをなぁッ!」
ライは震えていた足に鞭を打って地面に突き刺していた魔剣と聖剣を抜いて、カーミラへと立ち向かう。対するカーミラはまだ余力を残している。今度こそ確実にライの息の根を止める為、彼女は魔力を迸らせた。
「があああああああああああああああああああッ!」
「はあああああああああああああああああああッ!」
両者は譲れない願いの為、交差する。
燃え盛る森の中、ブシュウッと血の噴出す音が鳴った。片膝を着いたのはカーミラである。二人の行く末を見守っていたシエルはライに向かって駆け出そうとした瞬間、彼は口から血反吐を撒き散らして血溜まりの海に沈んだ。
「妾の勝ちじゃ……」
魔力を相当失ってしまったがカーミラは傷ついた体を再生して倒れたライの方へと向かう。完全に意識を失っているライにカーミラは止めを刺そうと手の平を向けた。魔力を収束させて後は放つのみ。
だが、そこへ邪魔が入る。シエルが聖杖ルナリスを掲げ、ライの周囲に結界を張ったのだ。
「己、邪魔を! ガレオン! 聖女を殺せ! 妾はライを殺す!」
「御意!」
上空に待機していたガレオンにカーミラは指示を出した。ガレオンは指示に従い、鷲獅子の背中から飛び降りてシエルの前に着地する。
「ッ……!」
「久しぶりだな。聖女よ。今度は邪魔も入ら――ぬぅッ!?」
喋っている途中でシュナイダーがガレオンに襲い掛かった。予想外の出来事にガレオンも虚を突かれたが、そう簡単には倒れない。
「フハッ! 実に
前足でガレオンを踏み潰そうとしたシュナイダーはガレオンによって投げ飛ばされてしまう。
しかし、時間は稼ぐ事が出来た。シュナイダーがガレオンの相手をしている間にシエルはカーミラとライの間に割り込んだのだ。
「ぬッ!? どこまでも邪魔を!」
ライを庇うように立ち塞がるシエルに激昂したカーミラは魔法を放つが、彼女は結界を張っており魔法は防がれる。その事に苛立ちを感じたカーミラだが残り少ない魔力を無駄に消費するわけにもいかず、ガレオンを呼んだ。
「何をしておる、ガレオン! さっさと聖女を殺さぬか!」
ガレオンはシュナイダーに止めを刺そうとしていたがカーミラに呼ばれて、すぐにそちらへ向かった。シュナイダーは死にはしなかったが足を折られてしまい動けなかった。助けに行くことも出来ず、シュナイダーは嘆くように鳴いたのだった。
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