第77話 恥ずべきことはない

 一向にカーミラへ近づけないライは苛立ちを感じていた。しかし、焦りはしなかった。焦って少しでも気が緩んでしまえば死に直結するからだ。霰のように降り注ぐカーミラの魔法。生と死の狭間にライはいる。


「(くッ! 全然近づけない!)」

『焦るな、主! それは相手も同じ事! 必ず勝機は訪れる!』


 ブラドの言うとおり、カーミラも苛立っていた。以前よりも成長しているライに中々上手く魔法が当たらない事に。


「(己! 以前は捨て身の戦法だったくせに! これでは埒があかん! お互いに魔力は削れているが、妾の方が消耗は早い。奴は身体強化と最低限の障壁のみ。このままでは先に魔力が尽きてしまうのは明白! ここは打って出る!)」


 カーミラの魔力は無尽蔵ではない。ライのように外部から取り込むことが出来るが、それはすぐには出来ない事。故にカーミラは自身の魔力が先に尽きることを恐れて、打って出る事に。

 地面を蹴ってライへ迫るカーミラ。先程とは打って変わって肉弾戦へ持ち込むつもりだ。


『好機です!』


 叫ぶエルレシオンの声と共にライは動いた。向かって来るカーミラに対して剣を振る。鋭い斬撃がカーミラを襲う。

 その時、信じられない光景がライの目に飛び込んだ。カーミラは剣をワザと受けて、懐へと飛び込んできたのだ。

 まさか、カーミラが自分と同じ捨て身の戦法を取るとは思わなかったライは驚愕に固まってしまう。


「そこじゃッ!」

「ちぃッ!」


 肩を切り裂かれながらもカーミラは確実にライを殺すべく頭に向かって貫手を放った。動揺していたライは障壁が間に合わず、間一髪のところで避けるも掠ってしまい頬に一筋の赤い線が出来上がった。


 すかさずカーミラは手を返して顔を抉りに向かうが、そうはさせないとライは手を掴んだ。

 それは想定済み。ニイッと笑ったカーミラは空いていた片方の手をライの心臓に突き刺した。


「ぐふッ……!」

「体内から燃やし尽くしてくれるわ!」


 斜め上からの攻撃方法にライは戦慄した。捨て身の戦法で懐に侵入したのは、直接体に魔法をぶつけるのが目的だったのだ。これにはブラドもエルレシオンも言葉が出てこなかった。


「弾けて死ぬがいいッ!」

「ぐ、あああああああああああッ!」


 魔法が発動する刹那の瞬間にライは体を縦に回してカーミラを弾き飛ばした。だが、カーミラは自身の腕を切り離しており、ライの体に忍ばせていた。

 片腕がないカーミラを見てライは震える。まさかと思い下を見てみると、そこにはカーミラの腕が突き刺さったままだった。


「もう遅いッ!」


 カーミラは自身の腕を触媒に爆発魔法を発動した。膨れ上がる腕はライごと大爆発を起こした。爆炎がライを包み込み、完全に勝利を確信したカーミラは高笑いを上げた。


 ヒュンッと風を切る音が聞こえると同時にカーミラの体が斜めに崩れ落ちる。


「なんじゃとッ!?」

「ごほッ……ごはッ! まだ終わっちゃいねえぞ!」

「何故、あれだけの魔法を受けて生きておる!」

「答える義理はねえだろうがッ!!!」


 ボロボロになったライは爆炎の中から血を吐きながら出てくる。悲しい事に真っ裸である。二人の戦いを見守っていたシエルは思わず顔を手で覆い隠したが、指の隙間からちゃっかりとライの息子を見ていた。顔を真っ赤にしているが食い入るように見ている。


「その姿……。まさか、お主首を切って!」


 カーミラの予想通り、ライは爆発が起きる瞬間に首を切って障壁で身を守ったのだ。勿論、賭けであった。首を切って即死はしないが魔剣を手放した状態になる。そうなれば、当然魔剣の再生能力は使えない。


 そこでライは一か八かであったが魔剣を呼び、口に咥えたのだ。そのおかげで魔剣の再生能力は発揮され、見事に再生したのだが体は木っ端微塵に吹き飛んでしまったので身につけていた服も一緒に消えてしまった。おかげでライは真っ裸である。


「お前を参考にするとは思ってもいなかった! だけど、そのおかげで死は免れた」

「ふっ、なんとも情けない格好じゃな」

「ぐ……」


 流石にライも今まで真っ裸のまま戦ったことが無かった為、顔を羞恥に染めている。それを指摘されてしまい、苦虫を潰したように顔を歪めた。


「一時休戦だ……」

「馬鹿か、お主はッ! 女子おなごでもあるまいし、何を恥ずがしかる!」

「くっ……!」


 当然、一時休戦など飲んでくれる訳はなく、カーミラは真っ裸で羞恥に顔を染めているライに襲いかかる。


 勿論、裸だからといって動きが鈍る訳も無いのでライはカーミラの攻撃を避ける。そして、当たり前のことなのだがライが激しく動けば股間のモノも揺れ動く。

 傍から見れば酷く滑稽な姿なのだが本人は至って真面目。それがかえって余計に可笑しく見えてしまう。


 カーミラとライの戦いは常人には到底目で追うことが出来ないのだが、二人が交差する時、一瞬だけ動きが止まる。その瞬間を彼女は決して見逃さない。

 シエルは手で顔を隠してはいるが、指の隙間からバッチリとライの股間を見ていた。彼女はライを応援しているのだが、どうしても股間に目がいってしまう。ダメだと分かっていながらも目が離せないのだ。


 同年代の、それも命の恩人であり、気になっている男性ひとのだ。彼女の目がそれに釘付けになってしまうのも無理は無い。ただ、まあ、時と場合は選んだ方がいいだろう。

 本人は死に物狂いで戦っている真っ最中なのだから。


「(はわわわ……ッ! アレが殿方の……! お父様以外で初めて見ました。アレが大きくなって私の中に……!)」


 このままではいけない。彼女が聖女から性女にジョブチェンジしてしまう。早く目を覚まさせないと。

 シエルの様子がおかしい事に気がついたのか、シュナイダーはライの尊厳を守る為にシエルの視界を塞ぐように体を動かした。


「ああッ!」


 何故、そこで苦悶に満ちた声を出すのだろうかとシュナイダーはシエルを見詰める。シエルもシュナイダーの曇りなき瞳に気圧けおされたようで自身の行為を恥て俯いた。


「う、うぅ……」


 恥ずかしい、穴があったら埋まりたいと思っているシエルだが、それはそれとしてもう一回だけ見たいと心の中で叫んでいた。

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