第76話 森の中の襲撃

 数日が経過し、ライとシエルは帝国に向かう為、国境沿いの森深くへと足を踏み入れていた。鬱蒼とした森にシエルはいつもよりライに引っ付いていた。

 そして、ライの方は感覚が麻痺しているのか、それとも慣れたのか、シエルがいつも以上に引っ付いていても動揺することなくシュナイダーに跨っていた。


 道なき道を進み、帝国へ向かう二人。木々を避けながらシュナイダーが進んでいく。


 時折、飛び出してくる兎や小鳥に驚くシエルは何度も小さな悲鳴を上げてはライにしがみ付いていた。やはり、まだこのような場所は鳴れていないシエルには少しだけ厳しかった。とはいえ、ここを通らなければならないのでシエルは辛抱強く耐えるしかない。


 深い森の中、太陽の光も届かない場所にライ達が来た時、不穏な気配を感じる。小鳥やリスが一斉に逃げ出したのだ。ライはすぐに魔剣と聖剣を召喚して上を見た。

 木々が生い茂っており、太陽の光を遮っている所にそれはやってきた。


「ハハハハハハッ! 遂に見つけたぞ! ライッ!」

「お前はカーミラッ!!!」

「ようやくあの時の恨みを晴らせるわ! 死ねぃッ!!!」


 上空から現れたカーミラは開幕一番に炎の魔法を放った。真っ赤な炎がライ達を包み込む。

 近くに着地したカーミラはつまらなそうに鼻を鳴らすと叫んだ。


「出て来い! 死んでいないのは分かっているぞ!」


 ヒュンッと炎の中から刃が飛んで来た。カーミラは飛んで来た刃を目を閉じたまま首を傾けて避ける。カーミラの顔すれすれを刃は飛んでいき、彼女の後ろにあった大木を切り裂いた。


「ほう。このような芸当が出来るとは。随分と成長したものじゃな、ライ!」

「ちッ。さっきので死ななかったか」


 ゆっくりと炎の中から現れるライ。シュナイダーとシエルは邪魔にならないように避難していた。シエルはカーミラが放った炎が木々を燃やし、森林火災から身を守るようにシュナイダーと一緒に結界の中に閉じこもっている。

 しかし、ライだけはカーミラと戦う為に周囲が炎に包まれている中、二人の側から離れていた。


「ククク。そうでなくてはな。殺し甲斐がないというものよ」

「言っておくが俺も前と同じじゃない。今度は逃がしはしない。覚悟しろ」


 剣を構えるライと不敵な笑みを浮かべるカーミラ。


 先に動いたのはライだった。ライは身体強化を行い、爆発的な加速でカーミラへと迫る。カーミラは以前対峙した時よりも遥かに速くなっているライに目を見開いたが、対応できない速度ではないと口元を歪めた。


「ハハハ! そこそこ速くなったではないか! しかし、その程度ならば妾には通用せんぞ!」


 迫り来るライに向かってカーミラは魔法を放つ。前回と同じく避ける素振りを見せないライにカーミラはまたしても笑う。


「芸がないな! 何も成長しておらんではないか!」

「だと思うか?」


 突如として背後から聞こえてくるライの声にカーミラは勢い良く振り返った。すると、そこには剣を振りかぶっているライの姿が。これは一体どういうことだとカーミラが喚く。


「馬鹿な! 一体いつの間に!」

「アレは残像だよ。お前なら馬鹿正直に引っかかってくれると思ってた。それじゃあ、死ね!」


 ブオンッと風を切る音と共にカーミラの首が宙を舞う。まるで信じられないといった表情のカーミラ。


『マスター! 首を切っても彼女は死にません! 油断は禁物です!」


 普通の魔族であれば首を切った時点で勝利は確定なのだが、カーミラは不死に近い吸血鬼だ。魔力が尽きない限りはライと同じように再生能力で蘇る。そして、カーミラは吸血鬼の女王。その生命力はライを遥かに上回っていた。


「己! 妾の顔に傷つけるに飽き足らず首まで! 許さんぞ、ライッ!」


 宙を舞っていた首だけのカーミラが怒りの形相で叫んだ。その後、すぐに首を失った彼女の体が動き出してライに回し蹴りを放った。まさか、首が離れても体が動くとは思っていなかったライは回し蹴りを受けてしまう。咄嗟に防いだが、やはり四天王の名は伊達ではない。


 肋骨が砕け、内臓が破裂してしまった。血を吐くライはすぐに再生を行う。


「ぐ……。トカゲかよ、テメエ!」


 悪態を吐くライに負けじとカーミラも文句を言う。


「お主も似たようなものじゃろうが!」


 いつの間にか首がくっついているカーミラ。それを見てライは剣を強く握り締める。やはり、一筋縄ではいかないと。


 ここから先は根比べである。お互いに驚異的な再生能力を誇り、不死に近い存在だ。ライは今まで溜めてきた魔力がカーミラは彼を殺すために蓄えてきた魔力が。双方、譲れない戦いが始まる。


 かつては使わなかった魔法をカーミラは惜しげもなく使う。相手は魔剣の能力で致命傷を与えても再生する化け物ライ。ならば、一切の手加減はいらず持てる力の全てを出す。

 対してライは前回よりも成長している。無茶な特攻は控えて、出来るだけ魔力の消耗を抑えるために回避に専念していた。


「ちょこまかと!」

「くそが! どれだけ魔法あるんだよ!」


 炎、氷、風、土、雷、といった複数の魔法を展開するカーミラは容赦なくライへ向けて魔法を放つ。そんどれもが一撃でもまともに直撃すれば体の原型を留めてはいられないものばかり。もっと言えば塵と化すような魔法だ。


 それら全てをライは障壁と使い、紙一重で避けている。とはいえ、本当にギリギリだ。ブラドとエルレシオンの修行のおかげでライは敵の動きを良く見るようになっていた。そのおかげでカーミラがどこに向けて魔法を放つか予測して避ける事が出来るようになっていた。


 それでようやく紙一重なのだ。一瞬でも気を抜けば忽ちライはカーミラの魔法攻撃を浴びて塵と化すだろう。流石にそうなってしまえば、いくら魔剣の再生能力が凄かろうと死んでしまうだろう。

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