第64話 お星さまになってしまえーっ!

 ライがガレオンと戦う少し前、聖都の正面口で獣魔部隊と兵士達が戦っていた。獣魔部隊を率いるのは虎の獣人ジーガ。ジーガは聖女の結界を真正面から破壊した後、そのままの勢いで正面の門をこじ開けた。


 街の中へ一気に流れ込み、ガレオンの聖女襲撃班が動きやすいように正面口で暴れるのであった。


 応戦する兵士達だが、陽動とはいえジーガはサイフォスの部下の中ではガレオンに次ぐ実力者。そう簡単には倒せない。

 今も暴れているジーガは既に十数名ほどの兵士を倒している。暴れるジーガに恐れをなして、中々近づくことが出来ないでいる兵士達。


 すると、そこへ希望の光が現れる。


 帝国から聖女を護衛する為に派遣された聖槌の勇者ダリオスである。彼は肩に土の聖槌ベルグボルドを担いでいた。


「助太刀いたすッ!」


 聖槌を担いで現れたダリオスは天高く跳躍すると丸太のように太い腕を振りかぶって聖槌を地面に叩きつけた。


「爆砕ッ!!!」


 ドゴンッと音が爆ぜて地面が吹き飛ぶ。その衝撃に多くの獣人が巻き込まれて吹き飛んだ。


「ぬうッ! 聖槌の勇者ダリオスか!」

「いかにも! 俺がダリオスだ!」

「ハッ! 最強と謳われる勇者ダリオス! お前が相手なら不足なし! 我が名はジーガ! いざ、尋常に勝負!」

「ハハハハッ! そう言われては無視をするわけにはいかぬな! かかって来い!」


 ダリオスとジーガが地面を蹴って駆け出すと、お互いに剣と聖槌を突き出してぶつかる。轟音が鳴り響き、衝撃波が発生して周囲の地面を吹き飛ばした。


「中々の強者とみた!」

「これでも俺は獣魔部隊ナンバースリーだ! そう簡単に勝てると思ったら大間違いだぞ!」

「ガハハハハハ! そうか! では、お前を倒せば魔王軍に打撃を与えることが出来るな! ぬぅんッ!」

「ぬおッ!?」


 尋常ではない腕力でダリオスは聖槌を振りぬき、ジーガを吹き飛ばした。宙を舞うジーガは身を翻して着地する。

 着地したジーガはすぐにダリオスへ目を向けるが、すでに彼の姿はどこにもない。一体どこへ消えたのかとジーガが周囲をくまなく探していると背後にダリオスが現れた。


「ここだ!」

「なに!? いつの間に!」

「砕け散れいッ!」

「ぐわーッ!!!」


 背中を思い切り叩かれたジーガは地面に沈む。誰もがダリオスの勝利を確信した瞬間だった。地面に倒れたはずのジーガが再び立ち上がったと同時にダリオスから距離を取った。勿論、ダリオスが手加減していたという事はない。間違いなくダリオスは殺すつもりで放った一撃だった。

 それを受けてなお倒しきれなかったのだ。ジーガの生命力にダリオスは思わず脱帽してしまいそうだった。


「ぐふッ……! 流石は最強の勇者か。ここまで差があるとは……」


 とはいえ、やはり先程の一撃はかなり響いたようでジーガは口から血を吐いた。


「ふん。よく言うわ。俺の一撃を受けて立ち上がったくせに」

「獣人は人間より遥かに頑丈だからな! 身体強化していれば尚更なッ!」


 常人では到底捉えることの出来ない速さでジーガが駆ける。狙うは首。正面からダリオスとぶつかっても勝てないことは十分に理解した。ならば、圧倒的な速さで死角へ潜り込み、一撃で急所を穿つ以外に勝ち目はないとジーガは悟った。


「カアッ!!!」


 背後へ回り込んだジーガは剣をダリオスの首へ振り下ろした。ダリオスは反応できていない。殺ったとジーガが確信した瞬間、彼の剣がダリオスの二本指に止められる。


「中々のスピードだ。恐らく勇者にも通じるだろう。だが――俺には通じん」

「バ、バカなッ! 間違いなくお前は反応出来ていなかった! なのに、何故!?」

「何故も何もない。見えていた。それだけよ」

「くッ! ふざけるなぁッ!」


 掴まれている剣を強引に振りぬこうとしたが微動だにしない。たった二本の指に掴まれているだけなのに。ジーガはその事実に血の気が引いた。まさか、これ程とは思ってもいなかったのだ。

 自分も魔王軍獣魔部隊でナンバーⅢの実力者。いくら人類最強の勇者と言えどもそこまでではないだろうと思っていた結果がこれだ。


「ぬぅううあああああああああッ!!!」

「無駄だ。お前では俺に勝てん」

「お、おおおおおおッ!?」


 ダリオスは掴んでいる剣ごとジーガを持ち上げる。ジーガは虎の獣人だけあって体重はそれなりにある。それをいとも容易く持ち上げるダリオスには驚かされるばかりだ。

 剣を離せばいいものをジーガは頑なに離さなかった。そのせいで空へ放り投げられてしまう。


 ジーガを空中に放り上げたダリオスは聖槌を前に置いて、コキコキと首を鳴らす。そして、ジーガが落ちてくるタイミングを見計らって聖槌を構えて片足を上げた。丁度、ダリオスの前に落ちてきたジーガに聖槌を横から叩きつける。


「ゴ、ハッ……ッ!」


 身体をくの字に曲げて吹き飛んだジーガは星になった。それを見てダリオスはニッと笑い、残った獣人たちへ顔を向ける。獣人達はジーガを赤子扱いしたダリオスに怯えてしまい尻尾を巻いて逃げ出した。

 逃げ出した獣人達に追撃を行う兵士達。ダリオスはここは兵士達に任せて大丈夫だろうと判断して大聖堂へ向かう。

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