第65話 ハートキャッチ
ダリオスが大聖堂へ向かっている途中、星になったはずのジーガが道端に転がっていた。先程の一撃で瀕死らしくかろうじて息をしている。それにしても獣人の生命力は侮れないなと思いながらダリオスはジーガへ近付いた。
「まだ喋れるか……?」
「……息をするのがやっとだ」
「十分だ」
そう言ってダリオスはしゃがんでジーガの頭を掴んで持ち上げた。
「お前達の狙いは聖女か?」
「誰が言うものか……」
「まあ、そうだろうな。だが、お前達の動きを見れば大体見当はつく。大方、お前は陽動なのだろう。本隊は別にいる。違うか?」
「……」
「沈黙は肯定だと受け取っておこう」
ダリオスはジーガを離して止めの一撃を放った。最期の瞬間、ジーガは大声で叫んだ。
「魔王陛下に栄光あれ!」
「ふんッ!」
グチャとジーガの頭は聖槌によって潰れた。聖槌についた血を払ってからダリオスは大聖堂へ向かって駆け出した。先日、ゲイルに聖女の護衛を依頼はしたが万が一があってはいけないとダリオスは全速力で走った。
◇◇◇◇
「があああああああああああッ!!!」
「ぬぅううああああああああッ!!!」
超高速の斬撃と爪の応酬が繰り広げられている。ライの頬を肩を脇腹を太腿が切り裂かれる。対してガレオンはライ程ではないが同じように身体中が傷だらけになっていた。
血飛沫が舞い散り、血を垂れ流す二人。互いに一歩も引かず、ただ目の前の敵を打倒しようと剣を爪を振るっていた。その様子をずっと見ているシエルは気が気ではない。
言いにくいがシエルの目から見てもライの方が劣っている。明らかにガレオンの方が優れているのだ。どう見てもライに勝ち目はない。実際、傷を負い血を流している量はライの方が多い。
だが、それでもライは、ライだけは勝つことを疑っていない。
「恐れ入ったぞ! 俺とここまで渡り合えるとはな!」
ガレオンの方も全力を出しているが喋る余裕があった。称賛の言葉を送るガレオンにライは答えるように剣を振る。全力の身体強化で加速させた斬撃はまともに当たりさえすればガレオンが身体強化をしていようとも切り裂くことが出来よう。
しかし、ガレオンは獣魔部隊でナンバー
ガレオンの武器はその鍛え上げられた肉体と鍛錬を重ねて積み上げてきた体術。どれだけ魔剣と聖剣の切れ味が凄かろうと当たらなければどうという事はない。事実、先程からガレオンはライの斬撃のほとんどを捌いている。
「そこだぁッ!」
「ぐがぁッ!!!」
針の穴に糸を通すようにライの攻撃の隙間を縫ってガレオンは強力な一撃を叩き込んだ。ライは障壁を張っていない部分にとてつもない衝撃を受けて吹っ飛ぶ。
剣を地面に突き刺してライは勢いを殺して止まった。が、さっきの一撃はかなりのダメージが入っておりゴポリと血の塊を吐いた。
血を吐いているライの下へガレオンが飛ぶ。体勢を崩しているライに向かってガレオンは足を大きく振り上げて踵落としを放つ。
「シャアッ!!!」
「ぐ……ッ!」
未だに動けないライはガレオンの踵落としを障壁で軌道を逸らした。だが、その威力は凄まじいもので逸らした踵落としは横の地面を打ち砕いて、すぐ横にいたライは衝撃で転がってしまう。
ゴロゴロと地面を転がったライはガレオンが襲い来る前に再生して、すぐに立ち上がった。
素早く剣を構えてガレオンを見据えるが、すでに彼の姿はどこにもない。どこへ消えたのかと目を動かすライの背後に影が差す。それに気が付いたライは後ろに振り返ると、そこには片腕を引いているガレオンがいた。
咄嗟に障壁を張ってガレオンの拳を防ごうとするが間に合わず、ライは両腕を交差してガレオンの拳を防いだ。その代償は大きく両腕からバキボキと嫌な音が鳴り響いた。
ガレオンが拳を振りぬくとライは大きく後ろへと吹き飛び、大聖堂の壁に激突する。ガラガラと音を立てて崩れる壁に埋もれるライの両腕はあらぬ方向に曲がっており、骨が飛び出して、血が噴き出していた。
「が……あ……」
「これで終わりだ……ッ!」
飛びそうになる意識の中、ガレオンが迫ってきているのを見たライは飛びそうだった意識を気合で繋ぎ止めて障壁を展開した。
しかし、強度が足りずにガレオンの攻撃を防ぐことは出来なかった。障壁を突き破り、ガレオンの爪がライの胸部を貫いた。
「フフフ……! お前が死ぬまでこの腕は抜かんぞ!」
ガレオンが腕を抜かないせいでライは再生が出来ずに本当に死んでしまいそうだった。意識が混濁してきて最早ここまでかと思われた時、ライはあの日の怒りを思い出して腕を再生した。
再び剣を振るいガレオンを引き離そうとしたが、片手で魔剣を止められ、片足で聖剣を弾き飛ばされてしまう。
「これでもう何も出来まい! 死ね、ライッ!!!」
「勉強不足だったな……ッ!」
全ての手を潰したと確信していたガレオンに対してライは嘲笑った。弾き飛ばされた聖剣を再び手元に呼び寄せて、ガレオンが驚愕に硬直した瞬間にライは彼の腕を斬り飛ばそうとした。
「ガアアアッ!」
「ぬぐぅッ!?」
後少しという所でガレオンは首を曲げてライの片腕に噛み付いた。これでライは両腕を封じられてしまった。万事休すかと誰もが思った時、ライは最後の力を振り絞ってガレオンに噛み付かれた腕を自ら引き千切った。
もう視界も霞み、焦点も合わなくなってきたライはすぐに再生を行って魔剣を召喚し、ガレオンの脇腹に突き刺した。
「ぐむぅ……ッ!」
それでもガレオンは腕を離さなかった。まだ、ライの胸部に腕を刺したままだ。
ほとんどライの意識はなくなっていた。もう死んでいるようなものだったが、魔剣をガレオンの脇腹に突き刺している。魔剣の能力である魔力の吸収が始まり、物凄い勢いでガレオンの魔力を吸い上げる。
これは不味いと思ったガレオンは腕を引き抜きライから離れようとしたが、ここでライを殺しておかねばならないと死ぬ覚悟を決めた。
「ぬおおおおおりゃあああああああッ!!!」
我慢比べがこれから始まろうとした時、ゲイルが二人の間に割り込んできた。ゲイルは自身の持っていた槌でガレオンを思い切り叩いて吹き飛ばした。魔力も吸われて碌に身体強化も出来ていなかったガレオンは大打撃を受けてしまう。
「ライ! しっかりせいッ!」
「…………」
「シエル様ッ!!!」
倒れたライを抱き起したゲイルは彼の名前を叫ぶが既に意識はない。再生こそ始まっているがライの意識は完全に途絶えており、見るからに死んでいる。ゲイルは焦った表情で
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