第55話 聖都

「うわ……。すごい大きい街だな」

『アレが聖都ではないか?』

『話に聞いていた大聖堂とお城がここからでも見えますからそうでしょう』

「そろそろ服と食料が無くなるから補充しておきたいんだよな……」

『では、街へ行かないといけませんね』

「はあ……。ブラドの再生能力で服も再生してくれたらよかったのに……」

『すまぬな。無生物は再生できなくて』

「どっかにいくら破れても再生する服ないかな~」


 あるとすればそれは呪いの装備だろう。ライはぶつくさと文句を垂れながら聖都へ向かう。シュナイダーに跨っているライは懐にしまっていた革袋の中身を確かめた。かつてはぎっしりと詰まっていたお金も今や残り僅か。

 寂しくなった革袋の中身を見てライは溜息を吐く。街への入場料に宿泊費、それから替えの服の購入。考えるだけで鬱になってしまうとライはがっくりと肩を落とした。


 聖都の正面口に着いたライは、その堅牢そうな城壁と巨大な扉に圧倒される。


「ひえ~、すっごいな~」

『おお、立派な門だな』

『凄い城壁ですね。これなら魔族の容易く侵入は出来ないでしょうね』

「ハッハッハッハ! なんだい、兄ちゃん。聖都は初めてかい?」


 聖都へ入るために長蛇の列が出来ており、ライはその列に並んでいる時に思ったことを口にしたら前にいた男が話しかけてきた。


「ええ、まあそうです」

「ハハハ、そうかそうか! 兄ちゃんは聖都に何しに来たんだい? まさか、聖女様に会いに来たとかか?」

「いえ、食料の調達と服の購入です」

「ん? 旅人か、兄ちゃんは?」

「見れば分かるかと」


 とは言うがライの格好は襤褸ボロの布を被っており、立派な馬シュナイダーに跨っている怪しげな風貌だ。旅人に見えなくもないが、はっきり言って怪しい。兵士が目にすれば間違いなく呼び止めるレベルだ。


「んん~? 兄ちゃんのその恰好……。もしかして白黒の勇者様か?」

「はい? なんですか、それ?」

「あ、知らないのか? 今、白黒の勇者様ってのが有名なんだよ。なんでも白と黒の聖剣を手に魔族を倒し回ってるって話だ。その勇者様は今の兄ちゃんみたいに襤褸の布で顔を隠しているらしいぜ」

『我は聖剣ではないッ! 魔剣だ!!!』

「へえ、そうなんですか。でも、よく見てくださいよ。俺は剣なんて持ってませんよ。護身用に短剣があるくらいです」


 そう言ってライが腰の後ろに持っていた短剣を見せた。その他には何も持っていませんとワザとらしい手振りを見せるライに男も納得して頷いた。


「なるほどな。兄ちゃん。勇者様に憧れてんだな」

「え……。そんなことはないですけど」

「いや、いい! 俺には分かるぜ。そんな格好してるってことはそういうことなんだろ?」

「いや、だからそういうわけでは」


 それから何度ライが説明しようとも男は全く聞く耳を持たなかった。正確に言えば、聞こうとしなかった。男はライが白黒の勇者に憧れている田舎者の夢見る若者だと決め付けてしまったのだ。


『我は魔剣だッ!』

「(分かってるって! そんなに怒鳴らないでよ)」

『む~! 納得いかんぞ! 主よ、ここで我を召還して周りに説明するのだ!』

『何、バカなこと言ってるんですか。そんなことしたら隠してる意味がないじゃないですか』

『お前はいいだろう! 聖剣なのだから! 我は魔剣なのだぞ。それを聖剣と間違えられて何も言わずにはおられん!』

「(他の人に何を言われてもいいじゃないか。俺だけ知ってたらそれでいいじゃん)」

『ぐ、む……。そうだが……。いや、そうだな。すまぬ、少し熱くなりすぎた』

「(いいよ、別に。珍しいもの見れたからラッキーて感じ)」

『ふふ、そうですね。面白いものがみれました』

『……主よ。かつてゼンデスと話した時のことを覚えているか?』

「(ん? ぼんやりとはだけど。それがなに?)」

『実はエルレシオンにもきちんとした名前があるのだぞ』

「(え、ホント!? どんな名前なの?)」

『わーッ! わーッ! やめてください! そんなのどうでもいいじゃないですか!』

『フッフッフ……。エルレシオンの名前はだな――』

「おい、次の者。こちらへ」


 後少しというところでライは自分の番が来てしまった。名残惜しいが今は手続きを済ませて街の中へ入る方が大事だとライは兵士の案内に従って手続きを済ませる。その際、先程の男と同じように白黒の勇者について聞かれたが男の時と同じようにしてやり過ごした。


 ただ、何故か可哀そうなものを見る目で見られたのだけが理解できなかったライは首を傾げた。


 今までライが訪れた街の中で一番の賑わいを見せる聖都リンネジア。行きかう人々も活気に満ち溢れており、ライは圧倒されるばかり。これが本物の都会というものかとライは驚きの連続であった。


「おい、お前!」


 誰かが叫んでいるがライは自分の事ではないだろうと無視して先へ進もうとしたら、肩を掴まれて無理矢理止められる。


「お前だ! 襤褸の布を纏った不審者め!」

「え? 俺の事ですか?」

「お前以外誰がいる!」


 そう言われてライは周囲を見回す。その仕草に腹を立てたのか、ライを呼び止めた兵士が怒鳴り散らした。


「馬鹿にしているのか、お前はッ!」

「いえ、そいうことではないんですけど……」

「こっちへ来い!」

「えっと、なんでですか?」

「いいから黙ってついてこい!」

「いや、理由を教えていただかないと」

「お前、俺に逆らう気か!」

「さっきも言いましたけど、まずは理由をですね」

「ええいッ! うるさい! 黙ってついてこいと言ったら黙ってついてくるんだ!」


 いきなり街中で剣を抜いた兵士はライに剣先を向けた。その光景に周囲にいた人達がざわめく。一体何事だと。


「さ、流石にそれは不味いんじゃないですか!?」

「何度言えば分かるんだ。俺についてくればいいと言ってるだろう!」

「何をやっているのですか!!!」


 言う事を聞かないライに痺れを切らした兵士が剣を振り上げた時、凛とした声が鳴り響いた。その場にいたすべての人間が声の主に釘付けになる。当然、ライも同じだった。声の聞こえた方向に目を向けると、そこには白い法衣に身を包み、金色に輝く髪を靡かせる美少女が立っていた。


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