第54話 謎の双剣士

 魔族から町を守り通して、一ヶ月が経っていた。ライは自分が魔族に狙われている事を知ったので町へは服の購入以外では寄らなかった。ここ最近、ライはずっと魔族と戦いっぱなしなのだ。


 毎日という訳ではないが定期的に襲ってくる魔族と戦い、その度に怪我をして服が無くなる。それも仕方がないだろう。ライの戦い方は決してスマートなものではない。自身の命を対価にして敵へ喰らいつく捨て身の戦法なのだ。


 そのせいで腕や足は何度も切断された。おかげで服もボロボロ。だから、服が何枚あっても足りないのだ。


 しかし、実戦で鍛えられ魔力も吸収出来るのでそう悪いことばかりではない。ただ、やはり魔族が定期的に襲ってくるのでまともに休息も出来ず、ライは心身ともに疲れ果てている。


 一応、変装も覚え、魔力を隠蔽する技術もブラドに教わり、身を隠す事に成功した。やっと町でゆっくり休む事が出来ると喜んだライは久しぶりに柔らかいベッドの上で眠ることが出来た。


 ◇◇◇◇


 ここは聖国の首都である聖都リンネジア。その中央に聳え立つ建物は聖王がいる城だ。その城で今、一人の文官が聖王にある報告を行っていた。


「新たな勇者だと……?」

「はっ! ここの所、聖国内に魔族の出没が頻繁に報告されているのですが、それと同時にある噂が出回っています」

「ふむ……。それが勇者だとでも?」

「詳しくは分かりませんが調査したところ、魔族を狩る白と黒の双剣士がいるとのことです。ただ、同時にその双剣士が魔族を率いているという噂も聞いております」

「なるほど……。では、真相を知るにはその件の双剣士に聞くしかないと言うことだな?」

「恐らくはそうなります……」

「その者の特徴は分かるのか?」

「それがフラリと突然現れては魔族を討伐してすぐに姿を消すらしく、誰も詳細を知らないそうです。唯一分かるのは、襤褸の布を纏って顔を隠しているということだけですね」

「そうか……。ならば、仕方がない。捜索隊を編成し、その双剣士を探し出すのだ」

「はっ! 承知しました!」


 報告を終えた文官に聖王は双剣士ことライを探し出すように命じた。聖王の命を受けた文官はすぐさま捜索部隊の編成に取り掛かるために部屋を出て行く。


「敵か味方か。少なくとも魔族を討伐しているということは敵ではなさそうだが……。なんにせよ、その双剣士に会ってみねばわからないか」


 溜息を吐いた聖王は祈る。願わくば、その双剣士が味方であるようにと。


 聖王が祈っている頃、聖都リンネジアにある大聖堂で一人の少女が負傷した兵士の傷を癒していた。


「聖なる光よ」


 彼女がそう告げると、彼女の手に握られていた光の聖杖ルナリスが光り輝くと、目の前のベッドで苦しんでいた兵士が静かになる。兵士は治った自身の体を見て涙を流し、傷を治してくれた少女へ祈りを捧げるかのように手を合わせてお礼を述べた。


「ああ、聖女様! ありがとうございます!」

「いえ、お礼は結構です。貴方は多くの人たち守る為に戦ってくれたのですから、これくらいは当然です」

「おお……おおッ! ありがたきお言葉です。聖女様!」

「またお怪我をしたらいつでもいらしてください。私には戦う力はありませんが、人を癒す力はあります。生きているのなら何度だって助けます」


 感激している兵士は神々しいものを見るかのように拝んだ。


 それから聖女は負傷兵の治療に回り、すべての負傷兵の治療を終えた。多くの人に見送られて彼女は大聖堂の奥へと姿を消した。

 聖女の個室となっている部屋に着いた彼女はガクリと両膝を着いてしまう。付き人が慌てて聖女へ駆け寄り、肩を支える。


「聖女様! あまりご無理をなされては!」

「構いません! これくらいで倒れていては彼等に合わす顔がありません。兵士達は私以上にずっと辛い思いをしているのです。それなのに私は安全圏で怪我を治すだけ。彼等に比べれば楽な仕事ですから、この程度で倒れては聖女の名折れです」

「何を言いますか! 聖女様はご立派でございます。聖杖ルナリスは奇跡の御業を使うことが出来ますが使用者の闘気を大量に奪うのです! それを負傷兵の怪我を治すだけでなく、聖都を包み込む結界まで張られてるのですから! いったい、どれだけの人が貴女に救われていると思っているのですか!」


 付き人の彼女が言っている通り、聖杖ルナリスには二つの能力が備わっている。一つは他者を癒すことが出来る治癒能力。もう一つは魔を拒む結界を張ることの出来る能力。どちらも強力ではあるが万能ではない。


 治癒能力は怪我の度合いで消費する闘気が変化するのだ。だから、重傷者を治癒すれば聖女の闘気はごっそり削られる。それが手足の欠損になれば更に増す。

 そして、結界は聖都を覆うほどの範囲だが尋常ではない闘気を消費している。聖女が人類最大の闘気量を保持しているおかげで聖都は守られているのだ。


 しかし、結界も万能というほどではない。並大抵の魔族ならば侵入を防ぎ、魔法を弾くが幹部クラスになれば話は変わってくる。結界を破壊し、侵入することが出来るのだ。勿論、その分だけ闘気を消費すれば硬度は変化するが聖女の負担は途轍もないことになるだろう。


「ありがとうございます。ですが、まだ休むわけにはいきません。午後から別の負傷兵が運ばれてきますから」

「聖女様……ッ!」

「心配をかけてしまい申し訳ありません」


 そう言って微笑む彼女はまさに聖女に相応しかった。付き人の彼女はこのどこまでも慈悲深い聖女がいつの日か、その務めから解放されて年相応の少女らしい幸せが訪れることを祈ることしか出来なった。











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