第51話 ふにゃり
残った魔族は全員がライよりも強い。今、戦えてるのは魔剣と聖剣の力によるものが大きい。もしも、片方でも失えば均衡が崩れてライは敗北してしまうだろう。
「しぶといッ!」
ライの四方を囲んでいる魔族達は一撃与えては距離を空けてと戦法を変えていた。先程までは真正面からやりあっていたのだが、ライの再生能力が非常に厄介だと認識した結果だ。
そのおかげでライは体力と神経の両方を削られている。傷はすぐに塞がるが、魔力は無限ではない。このままジリジリと攻められれば殺されてしまう。そう判断したライは打って出る。
目の前にいた魔族へ距離を詰めると剣を振るう。そう簡単には当たらないが、その隙を突いて背後から忍び寄ってくる別の魔族に視線を移し、捨て身の戦法で相打ちのような形で魔族を倒した。
「がはッ……!」
「ごほッ……どうだ、見たか! この野郎!」
「一人倒したからって調子に乗ってんじゃねえ!」
「ぶげぇッ!?」
やっと一人倒したとライは声高らかに叫んだが、そこを他の魔族に狙われて宙を舞い、ゴロゴロと地面を転がる。咳き込んで血を吐いたライは仰向けに倒れる。と、そこへ別の魔族がライを踏み砕かんとばかりに跳躍してきた。
視界に魔族の足が映り、不味いと焦ったライは横に転がって避けるが魔族の凄まじい力で地面が吹き飛び、その余波を受けてしまう。再び宙を舞うライ。そこへ魔族が飛び掛り手をハンマーのようにしてライを地面に叩き付けた。
背中から地面にぶつかるライは、その激しい衝撃に一瞬意識が飛んだ。すかさず別の魔族が追撃を仕掛けてライを仕留めに掛かる。
「ごッ!?」
顔をサッカーボールのように蹴られたライだが障壁を張った事で致命傷は免れた。が、衝撃で脳震盪を起こしてしまった。立ち上がろうにも立ち上がれず焦点の合わない目で魔族達を見据えていた。
「好機!」
ここぞとばかりに魔族達は一斉にライへ襲い掛かる。いまだに立ち上がることの出来ないライだが防御は出来る。襲い掛かってくる魔族達に対してライは体を丸めて障壁を張った。まるで亀のように不恰好であったが、もっとも身を守れるのはそれしかない。
「くッ! 悪あがきを!」
丸まったライを囲った魔族達は全力で障壁を壊しに掛かるが、そう簡単に壊れるものではない。聖剣が作り出した障壁は闘気が十分にあればどのような攻撃だろうと防ぐ事が出来るのだ。
しかし、その代償として闘気はゴリゴリと減っていく。
つまりはライが溜め込んだ魔力も減っていく。豊富にあった魔力も今や底が見え始めていた。先程、一人殺したが回収した魔力は障壁で消費していく。このままだとライは嬲り殺しにされてしまうだろう。
どうにかしなければとライは必死に考えたが、やはり方法は一つしかない。
「ああああああああああッ!!!」
「な、にッ!?」
障壁を自ら解いて、死を覚悟で魔族達に肉薄する。それしかライには出来なかった。障壁を破壊しようとしていた魔族の尋常ではない破壊力を持った攻撃を受けて、腹を抉られ、太ももが割かれ、片腕を失う。それでも即死だけは免れるように身を守り、魔族を殺した。
また一人魔族を殺したライは太腿と腕だけを再生させて、次の魔族へ襲い掛かる。
「一体、どうなっている! お前は本当に人間なのか!?」
「があああああああああッ!!!」
驚愕している魔族へライは飛び掛り、魔剣と聖剣を叩き付ける。もはや、それは剣技とは呼べない代物だった。ただ殺すことだけを考えたものだ。殺意が形となった技で魔族を切り裂き、ライは興奮した様子で次の標的を定める。
「フウ、フウ……!」
「化け物め……!」
「お前らを殺せるなら化け物だろうとなんだろうとなってやるよ!」
「くッ! うおおおおおおッ!」
勇ましく雄叫びを上げて魔族はライへ立ち向かう。それに対してライも砕けんばかりに奥歯を噛み締めて魔族とぶつかる。ライが聖剣と魔剣を振るい、魔族が爪と牙を振るった。
切り裂き、切り裂かれ、噛み付かれ、雄叫びを上げ、ライは戦う。臆すれば死ぬ、引いたら負ける。だから、引かない、下がらない。痛みを我慢し、怒りを爆発させてライは果敢に攻めた。
「ぐあああああああッ!!!」
敵の腕を切り落としたライはここが好機だと踏み込んだが、そこへ別の魔族が突っ込んできた。
「思い出したぞ! 聖剣と魔剣を操りし人間! お前がライだな! 魔王様の命によりここで殺す!」
そう叫んだ魔族は槍を握り締めて突貫する。ライは目の前の魔族を殺そうとしていたが、横目に槍を持って突っ込んでくる魔族を捉えた。このまま目の前の魔族を殺すか、槍を避けるために後ろへ下がるかの選択を迫られた。
答えは決まっている。最初から決まっていた。
「ぎぃッ!!!」
「バカな! そうまでして我等を殺したいか!?」
ライの体を槍で貫いた魔族の方が驚いていた。脇腹から反対側に貫通していながらもライは歯を食い縛り、目の前の魔族を殺したのだ。
「どうかしている! お前は!」
「それが遺言かッ! お前の!」
「ッ!」
脇腹に刺さった槍をライは聖剣を捨てて握り締めた。魔力は回収した。今出来る最大の身体強化で腕力を底上げしたライは槍を掴んだまま離さない。槍を抜こうとした魔族はその強靭な精神と尋常ではない腕力に戦慄した。
「死ねぇッ!!!」
手を伸ばして魔族の首を刎ねようとしたライ。だが、魔族は寸前のところで槍から手を離して逃げた。そこへすかさずライは槍から手を離して聖剣を呼び戻して魔族の退路を塞ぐように障壁を張った。
いきなり目の前に出てきた障壁にぶつかった魔族が後ろへ振り返ると聖剣が飛んできていた。慌てて飛んで来る聖剣を両手で防ぐが、それと同時にライも駆けていた。聖剣を防いだ魔族の前には魔剣を振り上げるライの姿があった。
「これで最後だあああああああッ!!!」
縦に真っ二つ。ライは最後の魔族を殺し、生き残っている魔族がいないかを確かめる。町へ向かっていた魔族が全員死んだのを確認したライは一気に疲れが襲ってきたように息を荒げ、肩を上下させていた。
「ハア……ハア……。勝った……のか……?」
『ああ! 主の勝ちだ!』
『よくぞ、よくぞご無事で……!」
「そう……か……! 終わったのか……」
張り詰めていた糸が切れたようにライは膝をつく。へたり込んだライは空を見上げて、自分は守りきったのだと片腕を空に突き上げてふにゃりとした笑顔を浮かべるのであった。
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