第50話 バーサーカ―

 シュナイダーに跨ったままライは魔族の集団へ突っ込み、聖剣と魔剣を振り回した。シュナイダーに吹き飛ばされ、ライの剣に切り刻まれて、いくらかの魔族が死んだ。しかし、ほとんど減っていない。


 ライは魔族の集団から抜け出すとシュナイダーから降りた。


「ありがとう、シュナイダー。後は俺一人でやるから隠れててくれ」


 その言葉を聞いたシュナイダーは軽くライの背中に頭を擦ると、猛スピードで遠くへ逃げていく。シュナイダーが逃げたのを見てライは魔族の集団に矛先を向けて叫んだ。


「来いよ、くそったれども! お前等全員殺してやるからよッ!」


 町へ向かっていたはずの魔族達はライの挑発を受けて激昂した。標的を町からライへ変更し襲い掛かる。

 今までにない数の敵がライへ向かってくる。ライは両手の剣を握り締めて、大きく息を吸い吐いた。そして、己を鼓舞するように咆哮を上げる。


「があああああああああああああッ!!!」


 一人と魔族の群れが激突する。

 まず先頭にいた魔族をライが横一文字に切り裂き、次に返す刀で後ろにいた魔族を袈裟斬りに。そこへさらに踏み込んで聖剣と魔剣を狂ったように振り回した。次々と魔族を斬っていくが、敵もかかしではない。

 当然、反撃をする。剣が槍が棍棒がライに降り注ぐ。ドスッと槍で脇腹突かれると血を吐き、刺してきた相手を睨みつけて切り裂く。


 だが、息を吐くのも束の間に剣で切られ、前のめりに倒れそうになるのを堪えて背後にいた敵を切り裂く。一匹倒してもまだ敵はいる。囲まれているライは次々に魔族を相手にするが、それと同時に絶え間なく傷を負っていく。


 捨て身の戦法だがライには魔剣の再生能力がある。そのおかげで傷を負ってもすぐに再生することが出来る。しかも、魔力の源である敵は大量にいる。もはや、ライを止めることなど不可能。

 一撃で殺すしかないが、それも聖剣の障壁で首や頭などの致命傷だけは必ず防ぐことが出来る。つまり、今のライを殺すには相応の一撃が必要となる。それこそ並みの魔族では到底無理だろう。


「あああああああああああッッッ!!!」


 もはや、人ではなく獣の如くライは戦場に吠えた。襲い来る敵を切り裂き、反撃を受けても止まることなく敵を葬り、逃げ出そうとする魔族を容赦なく踏み潰す。


 悪鬼羅刹の如くライは血飛沫の舞う戦場で暴れていた。


 それを遠くから見ていた兵士達。彼らの目は尊敬というよりも恐怖が映っていた。魔族の集団にたった一人で突っ込み、己の身を省みず、敵を殺す、その姿に兵士達は震えが止まらなかった。


「あれは、本当に人間なのか……?」


 分からない。それは誰にも。


 恐らく戦っている本人でさえも。


「(殺す、殺す、殺す! 一匹残らず殺してやる!)」

『まさかこのような戦法を取るとは……』

『肉を切らせて骨を断つ。いいえ、これはそのような次元ではありません……』


 特別でも何でもない自分が差し出せるものなど限られている。命しかない。ちっぽけな自分一人の命だが、魔族を殺せるならいくらでも差し出そう。だから、お前達の命を寄越せとライは胸の内で叫んだ。


 戦いの最中、ライの体に変化が起こる。それに気が付いたのはブラドとエルレシオンの二人だけだった。


『これは……! 度重なる再生に肉体が変質を始めたか。今までの比ではない』

『魔力と闘気が混ざり合っていく? このような事が起こるなんて……!』


 戦闘に集中しているライは二人の言葉さえ聞こえていない。今は一匹でも多く魔族を殺すことに全ての意識を回しているのだ。


「(死ねッ! 死ねッ!! 死ねッ!!!)」


 殺意以外を削ぎ落した思考でライは魔族を殺していく。殺戮マシーンと化したライは次々と魔族を切り裂いた。その度に反撃を受けて傷を負うが、魔剣の再生能力で傷を癒した。


 再生と破壊が何度も繰り返され、ライの肉体はより強靭なものになっていき、より魔力が馴染みやすくなっていく。


 肉体が強化され、戦いの最中に研ぎ澄まされていく技術。どんどん強くなるライだが、まだ足りない。彼が殺したい相手であるヴィクターは四天王。いくら並みの魔族を相手に無双できると言っても四天王が相手ならば、まだ足りないのだ。


 それに今、ライが戦えているのは魔剣の再生能力と聖剣の障壁のおかげ。さらに言えば普段は節約している魔力も相手が大量にいるおかげでいくらでも使うことが出来るから。


 この二つの要素があるからこそ、ライは今戦えているのだ。


『しかし、凄まじいな。ずっと戦い続けているが主は疲れを知らないのか?』

『恐らくですが一種の狂戦士バーサーカー状態ですから敵を殲滅するまでは止まらないかと……』

『ふむ……。終わった後が大変なことになりそうだな』

『多分、疲労が限界突破するので倒れるでしょうね』


 二人の心配をよそにライは戦い続ける。


 やがて、魔族の数が目に見えて減り、残り僅かとなった。残った魔族は運よく生き残ったわけではない。ライが無意識に避けていたのだ。アレは強敵だと直感で感じ取っていたのだ、ライは。


「お前等で最後だ」

「図に乗るなよ、人間!」

「待て、アイツ、どこかで見たことがあるぞ!」


 残った魔族がライに向かって怒号を放ち、その傍にいた魔族が何かを思い出そうとしていた。しかし、思い出す前に怒号を放った魔族がライに突撃し、戦闘が始まってしまう。


「ええいッ! もう知るか!」


 後少しで思い出せそうだったが、目の前で繰り広げられる戦闘を見て魔族は二人の間に割り込んだ。

 ライの直感は当たっていた。残った魔族達は先程まで相手をしていた魔族達よりも遥かに強かった。


 ライの攻撃は悉く受け止められ、魔族の攻撃は的確に彼の命を削っていく。


「ぐッ、がッ……!」

「多少はやるようだが、これで終わりだ!」

「ぐぎぃッ!?」


 魔族の放った斬撃がライの肩から腰まで切り裂いた。普通ならば絶命する一撃であったがライには再生能力がある。激痛にさえ耐えることが出来るなら、たとえ肩から腰を切り裂かれてもライは死なない。


「ぐがあああああああッ!」

「くっ! 厄介な能力だ!」


 まだ完全に再生していない状態でライは剣を振り、魔族を切り裂こうと試みたが避けられてしまう。お互いに一筋縄ではいかない相手だと認識した。

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