第49話 魔族襲来
シュナイダーが全速力で走ってくれたおかげで明け方になる頃には町が見えた。しかも、大きい。ここならば色々と情報も手に入るだろうとライは喜んだ。その喜びがシュナイダーにも伝わったのか、飛び跳ねるように加速した。
「うおっ!? ハハッ! いいぞ、シュナイダー!」
『なあ、主よ。興奮するのはいいが、このままだと不味くないか?』
『明け方に猛スピードで駆けてくる馬がいれば町は騒ぎになるかもしれませんね』
「……うおおおおッ!!! シュナイダー、止まってえええええ!」
二人の言葉にライは顔を真っ青にしてシュナイダーを止めた。危うく町に入ることが出来なかった。
なんとかシュナイダーを落ち着かせて、ゆっくり町へ向かうことが出来たライは門の前で止められる。まだ朝早かったようで門は閉じられている。ライに声を掛けたのは門兵だ。門兵は町を囲っている壁の上からライへ弓矢を向けている。
「止まれ、何者だ!」
「えっと、俺は旅をしているライっていう者です」
「少し、そこで待ってろ!」
そう言われてライが門の前で待っていると剣と盾を装備した門兵が二人出てくる。門兵はライへ近寄り、シュナイダーから降りるように命じる。シュナイダーから降りたライは両手を上げて敵ではないことをアピールしたが、まだ門兵は彼のことを信用していない。
「装備は剣だけか……。どこの出身だ?」
「ランギルス王国のアルバ村というところです」
「ランギルス王国のアルバ村だと? 確か、そこは勇者アルが生まれた場所だったか?」
「あ、はい。そうです」
「それでここには何をしに来たんだ?」
「えっと、俺は帝国を目指してまして」
「帝国? ここはリンシア聖国だぞ?」
「え? リンシア聖国!? どういうことですか!」
「いや、それはこちらのセリフなのだが……とりあえずもう少し詳しい話を聞きたい。どうして帝国に向かっていたはずの君がここに来たのかを」
「実は帝国へ向かう途中の道で魔族に襲われまして、なんとか逃げ出したのですが無我夢中だったもので道に迷ってしまったのです」
「なんと……そういうことだったのか! 事情はわかった。町へ案内しよう」
「あ、ありがとうございます!」
事情を説明したらすんなりと信じてくれた門兵にライは頭を下げる。シュナイダーと共に町の中へ入ると、門兵の案内で馬小屋がある宿屋へ連れていかれた。とても親切な門兵にライは何度も頭を下げた。
「なに、気にするな。困ったときはお互い様だ」
「ありがとうございます!」
心優しい門兵と別れたライは宿屋で宿泊の手続きを行う。幸いな事にお金と剣だけは無事だった。そのおかげで金銭面について困ることは当分はないだろう。
ひとまず情報を集めたいライは二泊することに決めた。一旦、シュナイダーを預けて部屋に向かうライ。
「ふう……」
ずっとシュナイダーに乗っていたが不眠不休で走り続けていたライは疲れが溜まっていたらしく、ベッドに転ぶとそのまま寝てしまった。
ライが眠っていた時、部屋の扉を叩く音がした。その音で目を覚ましたライは目を擦ってから返事をする。
「はい」
「あ、お客さん。お昼はどうしますか? うちで食べますか? それとも外食にしますか?」
「すいません。ここで食べます」
「でしたら、一階の食堂にお越しください。お昼を用意してますので」
「分かりました」
まだ少し眠たかったライは欠伸をする。欠伸と一緒に出てきた涙を拭きながらライは食堂へやってきた。他の宿泊客がご飯を食べているのを見てライは食欲を刺激され、昼食を貰うことにした。
「いただきます」
パンと両手を合わせて感謝の意を込めるとライはスプーンを手に取ってスープを飲む。一口スープを飲んだライは少し動きが止まる。
「(ちょっと、薄いな)」
『うむ。美味いが塩っ気が足りん』
『地域ごとに味付けが違うのでしょう。私は好きですよ』
「(俺はもう少し味が濃くてもよかったな)」
などと味付けに対して小言を言うライとブラド。それに対してエルレシオンだけは満足そうにしていた。
昼食を済ませたライは情報集めのために町へ出ようとした時、カンカンと鐘を鳴らす音が町全体に響き渡った。何も知らないライはこの鐘はの音はなんなのだろうかと困惑していたら周囲が騒がしくなる。
「た、大変だ! 町に魔族の集団が向かってきてるぞ!」
「早く逃げないと!」
「どうして魔族がこんな場所に!?」
「兵士は何やってるんだ!」
どうやら、先程の鐘は魔族が来たことを知らせるものだったらしい。ライは大通りへ飛び出して避難する人とは真逆の方向へ駆け出す。辿り着いた場所は門の前。そこには武器を持った兵士たちが待機していた。
「すいません! 何があったんですか?」
「ん? まだ逃げていないのか! 今、魔族の集団がこの町に向かってきてるんだ! 早く逃げるんだ!」
「あの、俺も俺も戦います!」
「何を馬鹿なことを言っている。武器も持たない君がどうやって戦うと言うんだ!」
そう言われてライは剣を宿の置いてきたことを思い出した。これでは戦うことなど出来はしないだろう。そもそもライは魔剣と聖剣が無ければ無力に等しい。魔力も闘気もないライは目の前にいる兵士にすら勝てない。
「さあ、早く逃げるんだ。これからここは戦場になる!」
「……わ、わかりました」
引き返すライだったが逃げる気はさらさら無かった。
「(ブラド、エル、ちょっと無茶するよ)」
『集団戦はいつもと訳が違うぞ』
『逃げるのも一つの手ですよ』
「(この前は俺だけだったから逃げたけど、今回はそうじゃない。この町には沢山の人が住んでいる。魔族達の好きになんてさせるものか……ッ!)」
『ふっ、分かった。我等は主の剣』
『ならばこそ、マスターの為にこの身を捧げましょう』
「(ありがとう、二人とも!)」
宿へ戻ったライは馬小屋にいるシュナイダーと共に再び兵士達が集まっている門の方へ向かう。
門の前に辿り着くと兵士達が驚いた顔でライを見る。彼は何をしにここへ来たのだろうかと兵士達が考えている時、ライはシュナイダーを走らせた。兵士達の横を抜けて階段を駆け上がり、壁を飛び越えた。
「あっ、おい!!!」
兵士達の制止を振り切り、ライは魔族の集団へ突撃する。
「誰一人奪わせるものか! お前等はここで殺す! 一匹残らずここで殺してやるよッ!」
殺意を高め、復讐の刃を研ぎ澄ませる。聖剣と魔剣を召還してライはシュナイダーと共に魔族の集団とぶつかった。
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