第48話 幸運にも

「ん、んう……? あれ、生きてる……? はっ! そうだ、シュナイダーは!?」


 目を覚ましたライはすぐに相棒であるシュナイダーを探すと、すぐ目の前にいた。ライを心配そうに見つめており、ずっと近くで見守ってくれていたようだ。


「ああ、よかった。シュナイダーも無事だったんだな……」


 幸運なことにライとシュナイダーが落ちた先は川だった。そのおかげで死ぬことはなかったが、怪我をしている。しかも、全身ずぶ濡れでビショビショ。


「しかし、良く生きてたな……」


 落ちてきた谷を見上げるライ。あまりの高さに驚くライは、本当に良く生きていたものだと感心してしまう。

 しかし、同時に自分は川に落ちたはずなのにどうして岸にいるのだろうかと首を傾げた。何か知っていそうなシュナイダーに顔を向けると何かを伝えるように鳴いた。


『主、シュナイダーに感謝しなければな。川に落ちた主をシュナイダーが岸まで引っ張りあげてくれたのだぞ』

「え、ホント!? そうか、そうだったのか。俺が生きてるのもお前のおかげだったんだな、シュナイダー。ありがとう」


 ブラドから事の顛末を聞いたライは恩人であるシュナイダーに頭を下げる。すると、シュナイダーは「気にするな」と言わんばかりに鳴き声を上げた。もう一度ライはお礼を言ってシュナイダーの鼻先を撫でるのであった。


 川から上がり、岸辺を歩こうとしたライだったがシュナイダーが立ち上がらないことに気が付いた。一体どうしたのだろうかとシュナイダーに近づくと足を怪我しているようで動けないらしい。


「ブラド! シュナイダーの足を治せるか?」

『可能だと思うぞ』

「どうすればいい?」

『シュナイダーに触れてくれ。そうすれば主を通して再生能力を使えるはずだ』

「わかった」


 早速、シュナイダーの足を治すためにライは軽く触れる。一応、シュナイダーに怪我を治すことを伝えると、ライの言葉を理解したように鳴いて頷いた。


「痛いかもしれないが我慢してくれ……」

『では、やるぞ!』


 魔力が減っていくのを感じるライ。その時、シュナイダーの足からバキボキと聞いているだけで痛々しい音が鳴る。それを聞いているだけなのにライが痛そうにして目を背けると、その先にシュナイダーと目が合う。シュナイダーは痛がる素振りなど全く見せずに平然としている。


 むしろ、何故か目を背けているライを心配そうに見詰めている。真っすぐにつぶらな瞳を向けているシュナイダーにライはいたたまれなくなった。痛いのはシュナイダーなのに、どうして自分の心配をしてくれているのだろうと。


「(うぅ……泣きそう)」

『ま、まあ、馬は主人の感情を読むと言いますから』


 そして、ようやく足の怪我が治ったようでシュナイダーは立ち上がった。少しだけライを置いて走り、脚の様子を確かめるシュナイダー。心なしか以前よりも走りに力があるように見える。恐らくだが、ライと同じように魔剣の影響を受けたのかもしれない。


『うむ。完治しているな』

『よかったですね、シュナイダー』


 シュナイダーの足も治ったことなので、川を下ることにしたのだがここで問題が一つ発生した。食料がないのだ。シュナイダーに背負わせていた鞄は見当たらない。川に落ちた際に流されてしまったのだろう。


「まあ、水はあるから少しくらいは平気か……」


 すぐ傍を流れる川を見詰めながらため息を零すライ。その悲しそうにしている背中を鼻で押すシュナイダー。背中を押されたライは振り返ってシュナイダーと目が合うと、クスリと笑った。


「そうだな。落ち込んでる暇はないよな。ありがとう、シュナイダー。元気出たよ」


 ライが笑うとシュナイダーも嬉しかったようですりすりと頭をこすりつけた。くすぐったいとライは笑い、それからシュナイダーに跨り川を下り始める。


 それからしばらくして、谷を抜けたライの前に待っていたのはジャングルであった。まだ川が続いているので、この先に人が住んでいるかもしれないとライは川に沿いながら進んでいく。


 そうして、夕暮れになった。休憩を挟むか、このまま突き進むか迷ったライはシュナイダーに意見を訊くことにした。


「なあ、シュナイダー。このまま進んだ方がいいかな?」


 その問いに対してシュナイダーは「当然だ」と言わんばかりに力強く鳴くと走り出した。いきなりシュナイダーが走り出したのでライは慌てて手綱を握り締めてしがみついた。


「うおおおおおおッ!?」


 まるで風のように疾走するシュナイダーにライは叫び声をあげてしまう。しかし、シュナイダーは気にする様子はない。走るのが楽しいのか、ぐんぐんと速度を上げている。このまま走れば明け方には人が住んでいる場所まで辿り着くかもしれない。


「よっしゃあ! 行けーッ! シュナイダー!」


 風のように走るシュナイダーの背に乗っているライは興奮して焚きつけるように叫んだ。その声に従うようにシュナイダーもさらに加速した。二人を止めるものはなにもない。ただ真っすぐにシュナイダーは駆けていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る