第47話 真っ逆さまに
町長宅を出て行き、旅を再開することにしたライは身支度を整えてシュナイダーと共に町を出て行くことに。その際、町長が別れの挨拶と餞別わライに渡した。
「あの、これは?」
ライは渡された餞別の中にあった剣を見て町長を見た。町長にはライが聖剣の所持者だという事を教えている。だから、剣など必要ないことなど分かっているはず。それなのにどうして剣を渡してきたのかとライは疑問を抱いた。
「それはカモフラージュの為だよ」
「カモフラージュ?」
「君は何らかの事情で聖剣を隠しているのだろう? ならば、それを持っておけば誤魔化せるだろう」
そう言われたらライは何も言えない。今回の事件でもライは聖剣と魔剣を使ったが、あまり目立つようなことはしてはならないのだ。町長が善人だったからこそ大事にはならなかったが、下手をしていたらとんでもないことになっていたかもしれないのだ。聖剣の魅力に抗えずライを殺してでも奪い取ろうとする者が現れてもおかしくはない。
「そうですね……」
町長の気遣いにライは心が温まるが、同時に自身の不甲斐なさを痛感した。こういうことは自分で気付くものだろうと。
「では、君の旅路を祈っている」
「はい。ありがとうございます!」
別れを告げてライはシュナイダーを走らせた。遠ざかっていくライの姿が見えなくなるまで町長は彼の背中を見詰めている。勇者ではないと言っていた町の救世主を町長は忘れることはないだろう。
◇◇◇◇
シュナイダーに跨り、ライは北を目指して進んでいた。その腰には町長からもらった無骨な剣が差してある。
「う~ん、なんだか違和感があるな」
『今まで何の装備もしてなかったからな。慣れるまで時間がかかるだろう』
「そうだな~」
『でも、よかったではありませんか。これで精神世界だけでなく現実でも鍛錬用の剣が出来たんですから』
「え~、いつもブラドとエルを使ってるから良くないか?」
『そうですが、町長さんが言っていたように隠すことを覚えないといけませんよ』
「まあ、そうだけど……」
少し不満そうに呟くライ。彼は貰った剣が嫌という事はないのだが使いたいとは考えていない。あくまでも魔剣と聖剣の使い手だという事を隠すためのものとしか思っていない。
しばらく道を歩いているとシュナイダーが何かを感じ取ったのか怯えだす。それと同時に森にいた鳥たちが一斉に飛び出して、どこかへ行ってしまう。それを見たライはこれは何か異変が起きていると判断し、魔剣と聖剣を召還した。
ライが魔剣と聖剣を召還して周囲を警戒してから、すぐにそれは姿を現した。鳥人だ。ライの前に現れたのは鳥の羽を持ち、鋭い嘴と尖った爪を持つ鳥型の獣人である。
「なッ!? 魔族だと!」
『いけません、マスター! 敵は複数です! ここは撤退を!』
「(馬鹿言うな! あいつ等は敵だ! ここで殺しておかないと何をするか分からないんだぞ!)」
『落ち着くのだ、主! 奴等は主を狙っている! ここで逃げても問題はない。奴らは主を追ってくるだろう!』
その言葉は正しかった。ライの前に現れた鳥人達は彼を狙っている。だから、ここでライが逃げ出しても鳥人達は彼を追うだろう。
「(ぐッ……!)」
迷っている場合ではない。すぐそこまで鳥人達は迫っている。ライは逃げ出すことを選択した。シュナイダーを走らせてライは鳥人達から逃げ出す。鳥人達は逃げていくライを追いかける。
「待て、逃げるなッ!」
出来るならば戦いたいが二人の言う事も正しいのだ。ライはまだ一人で複数を相手にできるほど器用に戦えない。それも馬上となればまた変わってくるだろう。無理は禁物だと二人の指示に従ってライは全速力で逃げる。
「頼む、シュナイダー!」
頼れる相棒のライは全てを任せた。後ろから追いかけてくる鳥人達は速い。が、シュナイダーは負けてはいない。ぐんぐん加速していき、鳥人達を引き離していく。
これなら逃げ切れると思った束の間に鳥が羽ばたく音が聞こえた。ライが後ろを振り返って見ると、そこには空を飛んでいる鳥人達がいる。普通に走っては追いつけないだろうと判断した結果だろう。
鳥人達はどんどん距離を詰めてくる。シュナイダーも速いが鳥人達はさらに速い。このままでは追いつかれるのも時間の問題だ。
「くそッ! 一か八かだ!」
ライは弓矢を取り出して初めての馬上からの狙撃を試みる。しかも、シュナイダーが全速力を出しているからいつも以上にバランスがとりにくい。だが、ここで何もしなければ鳥人達に捕まってしまう。それだけはダメだとライは深く息を吐いて吸った。
「そこだッ!」
バシュッと空を切る矢。見事に鳥人達へ直撃するも防がれてしまう。当たり前だろう。真っすぐ飛んでくる矢など鳥人達にとってはどうという事はない。彼等は魔法でもなければ傷一つつかない。
「チッ! やっぱり普通の矢じゃダメか!」
『主! 大変だ! 前を見ろ!』
「ん? 嘘ぉっ!?」
ライの視線の先には深い谷とボロボロに廃れた吊り橋があった。運の悪いことに吊り橋を渡らなければ谷を越えることが出来ない。しかも、後方には鳥人達。回り道はなく真っすぐ進むしかない。
「ぐ……シュナイダー! 信じてるぞ!」
ライの言葉を聞いて、ぎゅんとさらに加速するシュナイダー。もはや、止まる気はない。このまま真っすぐ突き進むだけだとライとシュナイダーは覚悟を決めて吊り橋へ突入した。
ボロボロの吊り橋はガタガタと揺れて今にも壊れしまいそうだった。しかし、予想に反して吊り橋は壊れない。このまま行けるとライは希望を抱いたが、吊り橋を抜けるまであと少しという所で悲劇は起きた。
背後にいた鳥人達が吊り橋を壊したのだ。崩れ落ちる吊り橋にライとシュナイダーは成す術もない。
「うわああああああああッ!!!」
ライとシュナイダーは深い谷底へ真っ逆さま。それを見ていた鳥人達は、この高さから落ちれば脆弱な人間ならば死は免れないだろうと決め付けて、ライの死を確認することなくどこかへ飛んでいくのであった。
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