第46話 魔王軍定例会議
北の地。最果ての北に、それはあった。禍々しい雰囲気を放つ魔王城。魔界の門が開かれ、魔王が現れてすぐに作られた巨大な城だ。その城内の一室で円卓を囲み、仰々しい椅子に座っている三人の魔族。
一人は額から角を生やし、背中に蝙蝠の翼を持つ魔人族ヴィクター。
一人は美しく洗練された体毛を生やしているゴリラの獣人族サイフォス。
一人は紫紺のローブを身に纏い、青白い顔をしている死霊族スカーネル。
彼らは四天王と呼ばれる魔王軍最高幹部である。
そんな彼らが一堂に会する。が、四天王は四人。一人足りない。
その時、乱暴にドアが開かれて中に入ってくる者が一人。ライに敗北し、無様にも魔王城へ逃げ帰ったカーミラである。彼女は息を切らしており、空いていた自分の席へ座ると開口一番にヴィクターの名を叫んだ。
「ヴィクター! お主のせいで妾の美しい顔に傷がついた! どう責任を取ってくれる!」
「何を言っているか意味が分からんな。もっと詳しく話せ」
「お主が魔王様より下された命を真っ当に出来なかったとばっちりのせいじゃ!」
「なんだと? それはどういうことだ?」
「言葉の通りじゃ! お主が魔剣と聖剣の回収に失敗したせいで妾の顔に傷がついたと言っておる!」
とは言うものの既にカーミラの顔に傷はない。カーミラは吸血鬼の特性である自己再生能力で顔の傷を治している。しかし、顔に傷を負った事実は消えない。しかも、それが見下していた人間に傷つけられたとなれば、その怒りは計り知れないものだ。
「バカな。確かに俺は魔剣と聖剣の回収に失敗したが、誰の手にも渡らないよう埋めたはずだ」
「それが人間の手に渡っておるのじゃ! どう責任を取ってくれる! お主がきちんとしておれば妾が傷つくことはなかった!」
「待て。今、人間と言ったな? 生き残りがいたと言うのか?」
「そうじゃ。お主が殺し損ねた人間が魔剣と聖剣を持っておるわ」
「……どこにいる?」
「あの人間を殺すのは妾じゃ。お主ではない」
話がどんどんずれている事に気がついていない二人はヒートアップする。両者譲らず、殺し合いにまで発展しそうになった時、静観していたサイフォスが二人の間に割り込んだ。
「二人共、そこまでだ。今日集まったのは喧嘩をする為ではないだろう」
「妾の気が収まらんわ! サイフォス、お主が邪魔をすると言うのならヴィクター共々引き裂いてやろうぞ!」
「落ち着くんだ。いくら君が不死身に近い生命力を持っていようと、流石に私とヴィクターを相手にすれば無事では済まないだろう?」
「ふん。やりようなどいくらでもある!」
「サイフォス。こいつを説得しようとしても無駄だ。話を聞く気が全く無いらしい」
「ヴィクター、君も落ち着け。私達が争っても何の意味も無いだろう?」
言い争っていた二人を落ち着かせようとするも、カーミラの方は聞く耳を持たずサイフォスにまで歯牙を向ける。このままでは本当に殺し合いが始まってしまう。誰もがそう思った時、重圧が四人に
「待たせたな、諸君」
部屋に入ってきたのは四天王を束ねる唯一の人物、魔王である。此度の魔王は竜人族であり、頭部から角を生やし、背中には羽が生え、後ろには立派な尻尾が生えている。そして、魔王の名前はガイアラクス。魔王史上最強との呼び声も高い
言い争っていたカーミラとヴィクターも魔王の来訪には沈黙してしまう。先程までは殺し合いでも始まるのかと思われていたのに二人は大人しくなっていた。
「今日は定例会だ。まずは各自、戦果を聞こう」
中央の席に着いた魔王がグルリと四人へ顔を向けた。目を向けられた四人は順番に戦果を報告していく。それらの報告を静かに聞いて魔王は今後について話す。
「ふむ。では、今後も今まで通り進めよ。ところで先程言い争いをしている声が聞こえたが、何を喧嘩していたのだ?」
「陛下、お聞きください! このヴィクターは陛下から受けた命をまともに達成する事も出来なかったのです! そのせいで妾にまで迷惑がかかったのです!」
「ほう? ヴィクター、お前が任務に失敗するとは珍しい。何があったか詳しく話してみよ」
「はい。実は先程カーミラから耳にしたのですが、どうやら私が隠したはずの魔剣と聖剣が人間の手に渡ったそうです。彼女は恐らく魔剣と聖剣の所有者と戦闘をし、顔に傷を負ったとのことです」
「ほほう! それは面白い。カーミラよ。此度の件は私の顔に免じて許してやれ。私が調べた限り、魔剣は膨大な魔力の持ち主か魔力のない者しか持てないのだ。だから、ヴィクターを責めないでくれ。聖剣は言わずとも分かると思うが魔族には持つことは出来ん」
「わ、わかりました」
「すまぬな。カーミラよ。後で私の下へ来い。その失った魔力を補給せねばな」
「は、はい! ありがとうございます!」
これでカーミラの怒りも収まることだろう。彼女は魔剣によって多くの魔力を奪われたのだ。その魔力を回復するには本来であれば人間の血を大量に吸う必要があっただろう。しかし、今回は魔王ガイアラクスが補充してくれると言うのだ。願っても無いことにカーミラは天にも昇るような気分であった。
「して、カーミラよ。一つ聞きたいのだが魔剣と聖剣を持っているというのは本当か?」
「はい。この目でしかと見ました」
「ふむ……そうか。まさか魔剣と聖剣を同時に扱える者がこの世にいるとはな……」
「有りえない事なのですか?」
「うむ。本来、魔剣と聖剣は対極の存在だ。普通はあり得ん。しかし、その者は二つを操る事ができる。これは脅威になる前に潰しておく必要があるな」
「あの陛下。その事で一つ問題が……」
「なんだ、カーミラ。言ってみよ」
「妾は最初、その人間が魔族だと勘違いしてしまったのです。どうにも奇妙な魔力を持っていて、なんというか人間なのか魔族なのか区別が付けづらい感じでした」
「なるほど、そうか。つまり、それは探し出すのが困難という訳だな?」
「はい。そうかと思います……。しかし、奴はヴィクターに執着しているようですので向こうからこちらへやってくるかと」
「それでは遅いかもしれん。完全に魔剣と聖剣が扱えるようになる前に殺さねばどうなるか分からない。カーミラよ。お前はその者の顔を見たのだろう? ならば、探せ。探し出せ。必ず殺すのだ」
「はっ! お任せを!」
それから、カーミラはライの見た目を報告し、ガイアラクスは新たな命令を下した。
「ライと呼ばれる魔剣と聖剣を持つ人間を殺せ。奴が我等魔族の脅威となる前に!」
四天王は部下へ命令を出し、末端に至るまでライの情報を共有させた。これからライは知る事になる。自分が一体どのような存在なのかを。
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