第43話 膨れ上がる噂
洋館に戻ったライは体に刺さっている氷柱を引っこ抜いてブラドに再生してもらった。相変わらずとてつもない痛みが襲い来る。慣れたものではないと顔を歪めるライだが、最後には苦笑いをしていた。
「ふう……っと、あれ?」
傷が治り、万全の状態になったはずのライだがふらついてしまい壁にぶつかる。血が足りないのかと思ったライだが、今までも大量の血を流しているのでそんなことはない。つまり、これはアドレナリンが切れてしまい、一気に疲れが襲ってきたという事だろう。
これは不味いとライはふらつきながらも洋館にいる男達の下へ急いだ。二階の廊下で全裸の男達が眠っており、ライは彼等に近づいて揺さぶって起こした。
「んん……? あれ、ここは?」
「あ、起きたか?」
「き、君は?」
「俺はライ。それよりもまず服をどうにかしないと」
「え? うわっ!? なんで裸なんだ!」
「(魅了されていた時の記憶はないのかな?)」
『恐らくそうでしょうね。この反応を見る限り、彼等は覚えていないでしょう』
「(カーミラはなんで男達を集めてたんだ? しかも、恋人や既婚者ばかり)」
『ううむ。考えたくはないがカーミラは他人の物が好きなのだろう』
「(なるほど……)」
『あとは血でしょうね。カーミラの眷属になってないようですから彼女は血だけを欲していたんでしょう』
「(え? その話、詳しく聞きたいんだけど……)」
『その前に彼に何か着るものを渡したらどうだ?』
というわけでライは洋館に残っていたベッドのシーツやカーテンを魅了されていた男達に渡した。それから一緒に彼らの服を探したのだがどこにもなかった。恐らくだがカーミラに処分されてしまったのだろうと結論づけた。
それから、男達はライに事情を訊いた。どうして、自分達はこんなところに裸で寝ていたのかを。とりあえず、ライは彼等が吸血鬼に魅了されていたことを教え、吸血鬼が留守の間に助けたと嘘を交えて話した。
「そ、そうだったのか! ありがとう! 君は命の恩人だ!」
「いえ、お礼はいいですから早く家族の下へ帰った方がいいですよ。皆さん、とても心配してましたから」
「そうだな! 早く帰ろう!」
「あ、それとすいません。俺とても疲れてるんで少し眠ります……」
と言うとライはそのままドサリト倒れた。疲労がピークに達していたのだ。男達に説明している時も意識が飛びそうだったのだ。それを必死に抑えていたが我慢の限界だったようだ。ライは死んだように眠ってしまった。男達は慌てたがライの寝息を聞いて一安心してホッと息を吐いた。
その後、男達はライを背負って町へ帰ることにした。男達が帰ると町の人達は大層驚いた。なにせ、布っ切れしか身に纏ってない上に行方不明になった者達ばかりであったからだ。
町は歓喜に包まれる。いなくなったはずの恋人が旦那が帰って来たと涙を流す女性陣が多くいる。
「あら、この子は?」
「ああ、彼が俺達を助けてくれたんだよ!」
「どういうこと?」
男達はライの事を説明した。自分達が吸血鬼に魅了されて囚われていたことを。そして、彼が助けてくれたことを。その話を聞いた町の住民たちはライを英雄扱いすることに。
人から人へその話は広まり、おかしな形に歪んでいく。何故か、ライが吸血鬼を倒したことになったのだ。真実は退けただけだが、人と言うものは都合のいい方を信じるものだ。
◇◇◇◇
「どうなってるんだ……?」
『実は主が眠っている間に――』
目を覚ましたライは自分が泊まっていた宿よりも豪勢な部屋になっていることに驚いていると、ブラドが眠っている間にあったことを説明してくれた。
どうやら、自分は行方不明になっていた男達を吸血鬼から救った英雄になっているらしいと。
「いや、確かに助けたけど、なんでそんな話に?」
『どうやら色々と話が膨れ上がってしまったようだ』
『まあ、誇張するのはよくあることですから』
「そういう問題じゃないだろ……! 変に目立つと不味いって……」
『何がどう不味いのかは分からんが、それよりも主。実は悪い知らせと良い知らせががるんだ。どちらから聞きたい?』
「えー、なにその二択。とりあえず、悪い方からで」
『うむ。では悪い方からだな。主、心して聞いて欲しい。カーミラによって破壊された主の肉体が変質し始めた。我の再生能力で主は人間をやめていると言って良い」
「はあッ!? なんッ……いや、いい。覚悟してたしな……。それで良い知らせってのは?」
『肉体の強度が上がった』
「それだけかよッ! てか、それさっきのやつを良いように言ってるだけじゃん!」
『うむ。まあいいではないか。これで今まで以上に強くなれるのだから』
「そう言われればそうなんだけどさ~……」
と言うもののライは特に怒ってはいなかった。肉体が変質して人間ではなくなっても当初の目的である復讐さえ果たせればいいと考えたからだ。ただ、もしもライがこの先別の目的を見つけた時、その考えは変わるかもしれない。もしもの話だが。
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