第41話 力の差
吸血鬼に肉薄するライ。魔剣と聖剣を振るい、その命を刈り取ろうとするも彼女は強かった。ライが放つ斬撃の悉くを避け、受け流し、弾いた。勿論、ライが手加減をしているわけでもなく、彼は魔力の残量を気にすることなく全開で燃やしていた。
「(くっ……!)」
「ほほほッ! どうした、お主の力はその程度か?」
涼しい顔をしている吸血鬼に対してライの表情は優れない。放つ攻撃のすべてが彼女には届かないのだ。間違いなくライの実力は上がっているはず。なのに、吸血鬼には及ばない。
「ほれ。そこじゃ」
「ぷげっ……!」
僅かな隙を突いて吸血鬼が軽くライの脇を蹴った。たったそれだけでライの肋骨は粉砕し内臓が破裂した。情けない悲鳴を上げたライは口からドバドバと血を吐いた。あまりにも力に差がありすぎる。
「脆い、脆いのう……。それでは妾を楽しませることが出来んぞ?」
「だ、まれェッ!」
飛びそうになる意識を必死に繋ぎとめてライは剣を振るった。しかし、吸血鬼には当たらない。ヒョイと軽く剣を避けた吸血鬼は笑いながらライの胸部に掌底を放った。
「ぐぷッ……!?」
メキメキと骨が折れる音が響き渡るとライは後ろへ勢いよく吹き飛んだ。弾丸のように吹き飛んだライは、その勢いのまま壁を突き破って隣の部屋に転がって倒れる。立ち上がろうとライが体を持ち上げるがドシャと倒れてしまう。
『主! 今、再生する!』
ジュウジュウと体から煙を上げるライ。その姿を見た吸血鬼が驚きの声を上げた。
「なんじゃ、それは!? お主、本当に人間か? その力は魔族に近いものがあるぞ」
「だったら、どうしたよ。俺はお前等を殺せるならどんな力だろうと構わない! たとえそれが忌み嫌われていようとも! 憎い相手の力だろうと! お前等を殺せるなら些細なことだッ!」
「カカッ! よう吠えるではないか! ならば、妾を殺してみるがいい! 魔王軍が四天王であるこの吸血女王のカーミラを!」
今度、驚いたのはライの方だった。強いとは思っていたがまさか魔王軍の四天王だとは予想の遥か上をいっていた。だが、同時に気が付いた。目の前の吸血女王カーミラならば自分が求めてやまない魔族の情報を知っているのではないかと。
「おい、一つ聞かせろ……。額から角を生やして背中に蝙蝠のような翼、そして銀髪の魔族をお前は知っているか!」
「ん? その特徴は魔人族か……。む、そういえば確か奴は陛下の命で聖剣と魔剣を探していたな……! ああ、そうか。お主の剣で理解したぞ。ヴィクターが滅ぼした町か村の生き残りか~」
カーミラは同僚であるヴィクターの事を思い出した。ヴィクターは魔王の命令で人間の領地に眠っている聖剣と魔剣の回収に出向いていた。そして、恐らく目の前にいるライはヴィクターの手によって故郷を滅ぼされたのだろうとカーミラは推測したのだ。
それが可笑しくて仕方がないのかカーミラはニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべている。ライはその反応を見て殺意が高まっていくが、それよりも遂にあの日の魔族の名前を知ることが出来たと喜んだ。今まで何の手掛かりもなかったが、これでようやく一歩進むことが出来る。
「そのヴィクターってのはどこにいる……!」
「なんじゃ? 質問は一つだけではなかったのか?」
「いいから答えろ!」
「おお、怖い怖い。そう怒鳴らずとも教えてやろう。妾を倒すことが出来たらな」
瞬間、詰め寄ってくるカーミラにライは反応できなかった。腹を蹴られて体をくの字に曲げたライが宙を舞い、天井に激突する。腹を蹴られた衝撃と背中をぶつけた衝撃で肺の中の空気を大量に吐き出した。
「カハッ……!」
「ほれほれ、どうした? その体たらくでは妾を倒すなぞ夢のまた夢じゃぞ?」
ライが激突した天井が崩れ落ちて、瓦礫と一緒に彼が床へ落ちた。瓦礫の中に埋まるライは苦しそうにうめき声を上げる。そこへカーミラが近づき、瓦礫の下に埋もれていたライの頭を鷲掴みにして持ち上げた。
「くふふ、このまま頭蓋を砕いてやろうか?」
「がッ、ああああああああ!!!」
ミシミシと嫌な音がライの頭から鳴る。万力の如くカーミラがライの頭を潰そうとしているのだ。ただ簡単には潰さない。ライが悲鳴を上げて藻掻き苦しむ姿が見たいがためにカーミラは絶妙な力加減で彼の頭を握っているのだ。
「ほれ、どうした? 早く抜け出さんと死ぬぞ?」
「ぐぅ、あああああああッ!!!」
絶叫を上げながらもライは手を動かした。カーミラの腕に魔剣が迫る。しかし、寸前でライの腕は止められてしまい剣が届くことはなかった。
「くっくっく、残念じゃったな」
くつくつと笑ったカーミラは口を三日月のように釣り上げると、掴んだライの腕を強引に引き千切った。ブチブチと人体から鳴ってはいけない音がライの耳に届き、音のした方へ目を向けると肩から先が歪な形で無くなっていた。
「ぎぃやああああああああああああッ!!!」
理解した途端、襲ってくる激痛にライは苦悶の悲鳴を上げる。耳をつんざくほどの悲鳴であるのにカーミラは心地よさそうに聞いていた。まるでクラシックを聴いているかのように彼女は晴れやかな顔をしている。
「いいぞ。その悲鳴。実に心地いい」
「あああッ、ぐぅううううう……!」
痛みに悶えるライは聖剣を落としてなくなった腕を庇うように肩を押さえた。その姿がカーミラの嗜虐心を刺激した。カーミラはもう一本の腕も同じように引き千切ってやろうと手を伸ばした。
その時、痛みに悶えギュッと目を閉じていたライが大きく目を開いて腕と一緒に落ちた魔剣を呼び戻した。完全に油断していたカーミラにライは呼び戻した魔剣で自身の頭を掴んでいる彼女の腕を切り裂いた。
「があああああああッ!? わ、妾の腕がッ! 己、小僧ッ!」
カーミラは腕を切り裂かれた怒りでライを思い切り蹴り飛ばした。くの字に体を曲げてライは壁を何枚も貫いて吹き飛んでいく。そして、やっと止まったところでライは大量に血を吐いたが同時に笑みを浮かべた。
「へッ、ざまあみやがれ……」
してやったりと笑ったライだが体はボロボロで死にかけていた。しかし、先程カーミラの腕を魔剣で切り裂いたおかげで魔力は大量に補充されたのだ。だから、すぐさまライの体は再生される。
「小癪なッ!」
ギリッと歯軋りをするカーミラは再生したライの体を睨んでいた。それと同時に分析していた。何故、腕を千切られた時にすぐ再生をしなかったのかと。そのかげですぐに気が付いた。ライの魔力が上昇しているのを。
「(魔力が上がっておる。一体、何故……。そうか! あの魔剣の能力か! 魔力を吸収して再生能力もあるとはなんと厄介な! だが、種が分かればどうという事はない! 魔法で近づけないようにして嬲り殺しにしてやろう!)」
カーミラはライの持つ魔剣の能力を見抜き、瞬時に対策を立てた。魔剣が他者の魔力を吸収するならば近づかなければいいだけの話。だから、カーミラは遠く離れた場所からライを魔法で嵌め殺しにしようとした。
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