第38話 すすり泣く声
町へ出たライは毎度お馴染みとなっている酒場へ情報を集めに向かった。しかし、まだ朝早かったため酒場には客が少なかった。一応、いるにはいるが酒を飲んでいるよりも朝食を食べている方が多い。これでは話が聞けないと思ったら、気になることを言っている客がいるのをライは見つけた。
「おい、知ってるか? ここから外れたところに森があるだろう?」
「ああ、知ってるぞ。それがどうした?」
「その森に今は誰も住んでない洋館があることは知ってるか?」
「ああ、勿論だ。昔、金持ちが住んでたってデカい洋館だろ」
「そうだ。実はな、今その洋館で奇妙なことが起こってるらしい」
「へ~。それは気になるな。どんな話なんだ?」
「俺も人から聞いた話なんだがな、その洋館から女のすすり泣く声が聞こえるらしい」
「なんだよ、それ。悪霊の類か?」
「噂じゃ、元の持ち主の変な趣味なんじゃねえかって話だ」
「ああ、なるほど。まあ、金持ちならあり得る話か」
「で、だ。まだ続きがあってよ。その女のすすり泣く声を聞いた若い男が帰ってこなくなったらしい。しかも、どうやら全員恋人や妻がいるって話だぜ」
「ほ~。それは面白いな。女達はどうしてるんだ?」
「それなんだが、兵士達に捜索をお願いしてるらしいが相手にされないらしい」
「まあ、そりゃそうだろ。ただ愛想つかして出てたってだけの話なんだしな」
「俺達からすればな!」
その後、豪快に笑った男達は朝食を食べ終えて酒場から出て行った。近くでその話を盗み聞きしていたライは男達と同じように外へ出て行く。
『どうする、主? 先程の話だが』
「(ん~、気になるから聞いてみる?)」
質問に対して疑問形で返すライ。しかし、ライには判断が出来ないのだ。先程の男達が言っていたように痴話喧嘩から始まったことかもしれない。そうだとしたら余計なお節介でしかいないのだ。だから、ライは手を出していいか困っている。
『でしたら、その洋館を調べてみたらどうです?』
「(あ~、確かにそっちの方がいいか。じゃあ、昼食を済ませたら行ってみようか)」
話を聞くよりも噂の洋館を調べた方が早いという事でライは昼食を済ませたら、早速向かうことにした。
◇◇◇◇
昼食を終えたライは町の外れにある森の中へやってきた。まだ昼間なので視界も良好である。
「鳥もいるし、動物の気配があるから魔族じゃないのかも」
『いや、そうでもないぞ』
「え? まさか魔力を感じるのか?」
『はい。森の奥から禍々しいものを感じます』
「もしかして、魔族の仕業なのか?」
『その可能性は大きいな』
「そうか。なら、噂の洋館とやらに潜んでいるかもな」
二人が禍々しい魔力を感じ取ったという森の奥を目指してライは進んでいく。しかし、魔族がこの森にいるかもしれないというのに鳥や動物が逃げた様子がない。だから、違和感を感じるライ。
本来なら動物は怯えて逃げ出すはず。だが、ここの動物は逃げ出した跡がない。これは異常なことだ。この先に潜んでいるのは本当に魔族なのかとライは額に汗を浮かべる。
それからライは歩き続けて森を抜けた先に大きな洋館を見つけた。長い間、誰も住んでいなかったせいで門は壊れており、洋館の壁には苔が生えていた。
「(何か感じるか?)」
『これは……』
『魔力の気配が消えた?』
「(えっ!? どういうことだ!)」
『魔族の中には気配を隠すものが上手い者もいる。そして、魔力を隠し実力を低く見せる者もな』
『それに姿を変え偽る者もいます。だから、気を付けた方がいいかもしれません』
「(それってこの中にいる魔族はかなりやばいってこと?)」
『うむ』
『はい』
二人の返事を聞いて思わず頭を抱えそうになるライ。つい先日にはアルの事で荒れたばかりなのに今度は二人が警戒を促すほどの魔族。
しかし、ここで引き返しても問題はない。そもそもライの目的は復讐なのだ。別に人助けが彼の旅の目的ではない。だから、二人は何も言わないのだ。ライがどのような答えを出そうとも二人はただ従うだけ。
「(……行こう)」
悩んだ末にライは進むことを決めた。ここで退いてしまえば復讐など出来はしないと思ったのだ。あの日の魔族はブラドとエルレシオンが推測している限りでは今のライでは天地がひっくり返っても勝てない相手。ここで退くようであれば復讐など到底叶いはしないだろう。
洋館の中へ足を踏み入れるライ。まだ昼間ではあるが洋館の中は薄暗い。経年劣化しており壁や床はボロボロだ。その様子にライは顔を顰めるがまずは洋館の一階をくまなく調べていく。
「(特に何もないな……)」
『そうだな。消えた男達も見えないな』
『二階でしょうか?』
「(まあ、そこしかないか)」
一階には何もなかった。後は二階だけとなる。さあ、二階を調べに行こうとライが階段を登っていた時、女の笑い声が聞こえてきた。噂とは違うことに驚いたライは魔剣と聖剣を召還して周囲を警戒する。
「(すすり泣く声じゃなかったのか!)」
「うふふふふ……」
「(くそ! こっちを見てるのか?)」
階段を駆け上がって二階に飛び出たライは廊下を見回した。が、女の姿はどこにもない。だが、女の姿はなくとも笑い声は今も洋館の中に響いている。気色の悪い声にライは苛立ちを覚えて二階にある部屋を調べていく。
「(ここも違う……!)」
一つ二つとしらみつぶしに部屋を調べるライはますます不機嫌になっていく。ずっと響いている笑い声のせいだ。まるでこちらを馬鹿にしているかのように笑っている。それが酷くライの神経を逆なでているのだ。
「チッ……」
『落ち着くのだ、主』
『罠かもしれません。冷静になってください、マスター』
「…………」
二人に注意されてライは大きく息を吸い込んで吐いた。少しは落ち着いたのようでライは最後に残った部屋をゆっくりと開けた。
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