第31話 出会い
獣人を倒したライはその場にドサリと倒れた。満身創痍なのもそうだが、すでに体力も限界だったのだ。先程までは興奮状態でいたから立っていられたが、脳内麻薬も切れてしまった今、立っていられなくなったのだ。
「ふぅ……。ブラド、腕再生できる?」
『無論、可能だ。ただし、今回吸収した魔力は無くなるがな』
「それでいいよ。腕がないよりマシだ」
『では、治すぞ』
そうブラドが言うと魔剣の再生能力が発動する。ジュウと音を立てて煙を上げながらライの腕が再生されていく。その際、とてつもない痛みにライは顔を歪め、歯を食いしばって耐えていた。
「ふぐぅぅうううう……ッ!」
痛いと分かっていても何度も経験はしたくないとライは思うのであった。
ほどなくして腕が完全に再生し、元の状態に戻った。手を何度か閉じたり開いたりを繰り返して完治したかをライは確かめる。若干、いつもと違う感じがしながらも完全に治ったとライは喜んだ。
「よし!」
『主よ。我の能力を疑うのか?』
「いや、そういうわけじゃないけど、なんだかいつもと違う感じがしてさ」
『む? それは恐らく強化されたのかもしれぬ』
「どういうこと?」
『肉体を鍛えるのと同じだ。何度も破壊と再生を繰り返せば強くなるのは当然だろう?』
「いや、そうかもしれないけど……」
『まあいいではないか。身体がより強靭になるのだから悪い事ではないだろう?』
「ん~、まあその通りか」
首を傾げていたライだったがブラドの話を聞いて、その通りかと納得してしまった。彼の言うことは間違っていないが、もう少し疑問を持つべきだろう。自身の体の事なのだから。
「あ、忘れてた」
ライは噛み千切られた腕と聖剣のことすっかり忘れていた。落ちている自分の腕を拾うのはなんとも不思議な気分だとライは複雑な表情を浮かべながら、聖剣を手に取った。
『やりましたね、マスター! 初勝利です!』
「うっ、まあ勝ったには勝ったけど、なんだかな~」
『いいではありませんか。勝ちは勝ちです。たとえ、それがどのような方法だろうと関係ありません。勝った方が正しいのですから』
「それはそうなんだろうけど……。まあいいか。もっと強くなればいいだけなんだし」
『はい! その意気です!』
正直なんとも言えない結果にライは少しだけ不満を抱いていた。しかし、エルレシオンの言うことも間違っていないので、ライは改めて強くなることを決意した。
「それより、これどうしよう……」
目下の問題は千切れた腕の処理だった。流石に持って帰ることは出来ないのでライは非常に悩んだ。埋めて帰るか、切り刻んで分からないようにするかを。魔剣と聖剣を使えば分からないように細切れには出来るだろう。
しかし、千切れたとはいえ自分の腕だ。あまりいい気分ではない。かといって放置するわけにもいかない。
埋めるか、切り刻むか。
『切り刻めばよかろう』
『埋めるのが無難なのでは?』
「う~~ん……」
三人仲良くうんうんと唸り頭を悩ませる。そして、最終的に脳内で多数決を取ることにしたのだが、そもそもエルとブラドは決まっているので後はライだけである。
「……切り刻んで埋めよう!」
悩んだ末に出たのはそれだった。結局、それが一番良かったのだ。聖剣と魔剣で細切れにして地面に埋めれば、掘り返されても腕だとはバレないだろう。それに獣に食べられるかもしれないから心配する必要はない。というよりも、わざわざこのような場所を掘り返すようなことは誰もしないだろう。
「そうだ。子供達は無事なのかな」
『急いだほうがいいかもしれんな』
『ここからだと感知出来……ッ!? マスター、気を付けて! とんでもない闘気の持ち主がこちらに近づいてきてます!』
「なんだって!? 」
それからすぐにライの前に三人組の男女が現れた。先頭にいるのはアリサだ。彼女はライをじっと見詰めている。
「あんたがお兄ちゃん?」
「え……? あっ、俺はライっていいます。えっと、そのそちらは?」
「はあ? もしかして私を知らないわけ!?」
そんな人間が存在するわけがないとでも思っているのかアリサは驚愕に顔を染めていた。
「えっと……もしかして有名人なんでしょうか?」
「いいわ! 特別に教えてあげる! 人は私の事を愛と敬意を込めてこう呼ぶわ! 天才美少女勇者アリサ様ってね! よく覚えておきなさい!」
ふんぞり返って自信満々に叫んだアリサにライは苦笑いである。どのような反応をすればいいのか分からないライは助けを求めるように彼女の後ろにいたベルニカとエドガーに目を向ける。
すると、二人は首を横に振って自分でどうにかしてくれといった様子だ。ライはそれを見て困り果てた。一体どのように答えればいいのかと。
「何、黙ってるのよ! 何か言いなさいよ! ホラ、わーすごーいとか、可愛い~とか、握手して~とかあるでしょ!」
「わ、わー、すごーい……」
「何よ、そのやる気のないリアクションは! もう少し腹から声出しなさいよ! あんた、男でしょ!」
「わ、わー! すごーいッ!!!」
「そう! それでいいのよ! それこそが私の求めてたリアクションよ!」
大変満足なのかアリサはとても嬉しそうに笑っていた。その笑顔がとても魅力的でライは不意に心臓が高鳴った。
「(ッ……!)」
『ほう? これはこれは……』
『ふふ、とても可愛らしいお嬢さんですね』
ライの変化に気づいた二人はニヤニヤと笑っている。二人はずっと聞かされていたのだ。ライの愚痴を。だから、これが新しい恋になればいいと二人は願っていた。そうすれば復讐が終わった後も生きる目的が出来るから。
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