第29話 辛勝
ライが剣を構え直したのと同時に獣人が動き出した。怒りに目が血走った獣人がライ目掛けて飛び出す。真っすぐに飛び掛かってくる獣人に対してライは剣を一閃。ライの剣と獣人の爪が激しくぶつかり合う。
「くっ……!」
純粋な力では敵わずライは押されてしまう。身体強化も出来ないライでは獣人に力で勝つことは出来ない。ならば、技術で差を縮めるしかないのだが、それも相手の圧倒的な速度と力で十分に発揮できない。
「さっきの威勢はどうしたァっ!」
「うるえせえよ。耳元でキャンキャン吠えるんじゃねえ!」
「強がってんじゃねえぞ、雑魚がッ!!」
「ふぐッ!?」
聖剣と魔剣で獣人の爪を防いでいたライの腹に敵は膝蹴りを放った。まともに膝蹴りを喰らってしまったライは膝を着きそうになるが、根性で堪える。が、その隙に獣人は腕に力を込めてライを押し倒した。
「がッ……!」
背中を激しくぶつけたライは大きく息を吐いた。苦しそうに顔を歪めているところへ獣人が飛び掛かってライを踏み潰そうとする。目の前に獣人の足が迫ったライは間一髪のところで横に転がって避けた。
「ハア……ハア……ッ!」
「ハハハハッ! 苦しそうだなぁ~?」
「ハア……ハア…………フッ!」
「何、笑ってんだ、テメェ……!」
「いや、俺みたいな雑魚に随分と手間取ってるお前がおかしくてな。それとも手加減でもしてくれてるのかな?」
「……ぶっ殺す!」
汗をかき、泥まみれになりながらも不敵に笑うライを見て激昂する獣人。怒りから単調な攻めとなる。正面からライへ襲い掛かり、爪を振るい、蹴撃を放つ。怒涛の攻撃にライは必死に喰らいつくが、やはり敵わず。
「ぐっ……がッ……!」
「さっさと死ねよ、雑魚がァッ!」
「げうゥッ!?」
何度も攻撃を受けてしまい満身創痍となってしまう。ポタリポタリと血が口から垂れ落ち、腕や足にも切り傷が刻まれていた。痛々しい見た目になったライだがまだ倒れてはいなかった。
「しぶといんだよ! くそ雑魚がァッ!」
中々倒れないライにイラついた獣人は大きく腰を回して蹴りを放った。直撃すれば今度こそライは倒れてしまうだろう。満身創痍のライは避けることも出来ない。もはや、ここまでかに思えた。
「(エル! 障壁だッ!)」
『はい!』
カッと目を開きエルレシオンに障壁を展開するように命じたライ。彼に獣人の回し蹴りが直撃する寸前、障壁が展開される。
「な……ッ! 何が……!?」
「そこだァッ!!!」
渾身の一撃であっただろう回し蹴りが障壁に阻まれてしまい、体勢を崩してしまった獣人は驚愕に目を見開いた。その隙を見逃さず、狙っていたライは魔剣を獣人に突き刺す。
しかし、獣人は少ない魔力を用いて身体強化を行い、元の驚異的な身体能力をさらに増して体を捻って刺突から逃れた。が、完全には避けきれずに脇腹を掠ってしまう。
「ぐぅ……!」
『主! 僅かだが魔力を吸収した! これで身体強化が可能になったぞ!』
「(ここで畳み掛ける! 全力だッ!)」
『行けッ、主!』
「おおおおおおおおおおおおおッ!!!」
ここが好機だとライは魔剣が吸収した僅かな魔力を使って身体強化を施した。決して逃してはならないと力強く地面を蹴って逃げた獣人に詰め寄るライ。
「こ……のッ……!」
「くそがァッ!」
肉薄する二人。ライは魔剣と聖剣を振るい獣人を殺そうとして、獣人は殺されまいと剣を弾いた。
「まだだァッ!」
「しつこいッ!」
連撃、連閃を放つライ。ここで確実に仕留めるのだと殺意をむき出す。残り時間は少ない。ブラドが吸収した魔力は底を尽きかけようとしていた。ここで仕留めねば負けるのはライである。
「があああああッ!!!」
「舐めるなあああッ!!」
獣人は無茶な体勢からライの腕を掴み、へし折った。激痛にライの表情は歪むが、攻撃を止めるわけにはいかないと気合を見せた。
「このおおおおおおッ!」
「なあッ!? 折れた腕で――グゥ!?」
激痛に意識を飛ばされそうになるがライは折れた腕を振るって剣を叩きつけた。その一撃に怯んだ獣人にライは一歩踏み込んで折れてない腕を使って刺突を放つ。だが、獣人もやられてばかりではない。ライの刺突を受け止めて、彼の首目掛けて大きく口を開いた。
が、ライは無理矢理折れた腕を差し出して噛みつきを防ぐ。その代償は高くついてしまう。
「ぐわあああああああッ!!!」
獣人の計り知れない力でライの腕は噛み千切られた。これで片腕となってしまう。ボタボタと血が流れ落ちた。経験したこともない痛みにライの意識は飛びそうになったがギリギリ堪えた。
「次はその喉を噛み千切ってやるよッ!」
「来いよ、くそったれ!」
「ガアアアアアアアッ!」
片腕では先程のようにはいかない。獣人の猛攻にライは耐えられず倒されてしまう。その場に背中を打ち付けたライ。そこへ獣人がライにのしかかりマウントを取る。完全に形勢は決まった。
「これで死ねッ!!!」
両手で肩を押さえられたライは抵抗することが出来ない。獣人は今度こそ確実にライを仕留める為に首へ向かって噛み付いた。ブシュウッと音が鳴り響く。
「ハハハハハハッ! どうだぁ!」
首を噛み千切った獣人は真っ赤に染まった口を大きく開けて高笑いをした。だが、それは悪手である。ライは何度か魔剣で獣人を斬っていた。つまり、少ないが魔力を吸収しているのだ。
それは、どういうことこか。
「がッ!? テ、テメェ……なんで生きてやがる……?」
唖然とする獣人の腹から背中にかけてライが持っている魔剣が貫いていた。
即死でなければライは魔剣の再生能力により何度でも立ち上がることが出来るのだ。勿論、先程の噛みつきで危うく死にかけたが、即死ではなかった。だからこそ、ライは勝ちを確信して油断している獣人を刺すことが出来たのだ。
「教えるわけないだろうがッ! 死ねッ!!!」
「ぎゃあああああああッ!」
そのまま剣を切り上げて獣人の腹から肩まで切り裂いた。絶叫を上げる獣人はそのまま前のめりに倒れていく。しかし、まだ死んではいなかった。とはいえ、直に死ぬだろう。
「くそ……。こんなところで……」
ズルズルと這いずって生き延びようとする獣人の前に立つライは冷たい目で見下ろした。
「た、頼む。見逃してくれ。もう二度と人間を食ったりしないから!」
「お前達、魔族の言うことなど信じるものか! 死ね! 死んで詫びろ! それだけがお前に許された道だ!」
「ぐぎゃあああああ~~~ッ!」
憎悪に濡れた瞳でライは何度も何度も獣人を突き刺した。これで自身の恨みが晴れるわけではないが、少しは溜飲が下がると信じて。
しかし、獣人が完全に息絶えたのを見たライはどこか虚しさを感じた。こんなことしても意味はないとライは肩を落とす。
仇を殺すまではライの心が満たされることなどないだろう。
▽▽▽▽
あとがき
いつも本作を読んでいただきありがとうございます。
今回、あとがきを書いたのはコメントについてです。
基本、お返しすることはありません。理由としましては作者である私は口が軽いのでネタバレを防ぐためです。それと誤字脱字などの報告は遠慮なくしてくださって構いません。他にもおかしな描写がありましたら指摘してくださって構いません。自分でもこれはおかしいなと思ったら直しますので。
それでは、今後とも本作をよろしくお願いします。
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