第28話 奮い立つ

 聖剣と魔剣を構えたライは狼の獣人と対峙する。両者互いに相手の出方を伺うように睨み合う。ライの方は少しでも子供達を逃がす時間を稼ぐために精一杯の虚勢を張っている。

 狼の獣人はそんなライに警戒していた。不意打ちを完全に決めたはずなのに何ともないように立っているライが不気味だったのだ。しかも、両手に握られている二つの剣は素人目に見てもかなりの業物だと見れる。


 つまり、只者ではないと勘違いしていた。ライからすればとても有難い勘違いである。だが、一度ひとたび剣を交えればすぐにその勘違いはなくなるだろう。ライがまだ未熟な人間だということを獣人は知るはずだ。


「(このまま睨み合ってばかりじゃ不味いよな……)」

『そうだな。相手は主を警戒して踏み込んでは来ないが……』

『一度、剣を交えればたちまち今の均衡は崩れるでしょう……』

「(だよな~……)」


 かといって先に仕掛けるなど愚の骨頂。今のライの切り札はエルレシオンの障壁しかない。身体強化もまだ残ってはいるが持続時間はほとんどないと言っていいだろう。はっきり言って絶体絶命の状況である。


「おい、どうした? 攻撃してこないのか~?」

「……」

『見え透いた挑発だ。主よ、堪えろ』

「なんだ、テメェ……。その二本の剣は飾りか~?」

「……試してみるか?」

『マスター。子供達がまだいます。ここはもう少し時間を稼ぎましょう』


 ライの視界に捕まっている子供達がいる。ライから短剣を受け取った少女が他の子供達を助けているがもう少し時間がかかると彼はみた。ここで敵の挑発に乗ってしまえば自分に戦える力がない事を教えてしまうことになる。

 そうなれば、自分だけでなく子供達も殺されてしまうだろう。それだけは絶対に避けなければならない。彼ら彼女らを必ず家族の下に送り返すのだとライは約束しているのだ。


「ちっ……」

『来るぞ、主!』

『気を付けて、マスター!』


 お互いに相手の出方を伺い睨み合っていたが獣人の方が先に痺れを切らして舌打ちをした。それは、これから仕掛けるという合図である。ブラドとエルレシオンの二人は声を荒らげてライへ警告した。


 ダンッと音がライの耳に届いた瞬間、彼の目の前には獣人が迫っていた。圧倒的な速度。ライの動体視力では捉えきれないほどの速度で獣人は地面を蹴って加速したのだ。


「死ね、オラぁッ!!!」


 繰り出されるのは獣人の爪を用いた斬撃。ライの眼前に獣人の爪が迫る。回避は不可能。直撃は免れない。


づうッ!!!」


 ほんの一瞬だけ首を強化してライは爪を避けたが、完全には避けきることが出来ずに頬を裂かれた。しかし、致命傷ではない。焼かれたようにチリチリとした痛みが襲ってくるが動けない訳ではない。ライは歯を食いしばり、地面を蹴って、剣を振るった。が、当たらず。


 獣人はライからの反撃を予測しており、後ろへ跳ぶようにして彼の斬撃を避けた。


「ハハッ! おいおい、テメェ……多少心得はあるみたいだが素人だな?」

「(バレた!)」

『マスター! ダメです! 動揺しては!!!』

「ハハハ! その顔! どうやら当たりだったみてえだな……ククク」


 しまったと目を大きくしたライに獣人は高笑いを始めた。


「ヒャハハハハハッ! ガキ共を助けに来たのがお前みたいな雑魚だったとはな~。笑わせてくれるぜ! 力のない野郎がヒーローを気取るなよ。滑稽にしか見えないぜ~?」

「ッ…………!」


 最高に効いた一言であった。ライにとってその一言はとても心に響いたのだった。


『主! それの何が悪い! 力がなければ正義を掲げてはならないという決まりなどないのだ!』

『マスター! 貴方の行いは間違っていません! 子供を救うという行為で救われる心があるのです! だから、どうか止まらないで!』

「(ッ……。ああ、ああ!)」


 確かにライのせいで少女が死ぬところだった。獣人の言っていることは間違っていなくてライが間違っているかもしれない。

 しかし、そのようなことはないと二人が叫んでくれた。たったそれだけではあるが、ライにとっては十分な救いであった。


「ああ? なんだよ、その目は?」

「なんでもない。俺は俺が信じた道を行くだけだ!」

「ハハハハ、頭でも打ったか? テメエのそのちんけな正義感がガキ共を殺すんだよ! こんな風になッ!」


 そう言うと獣人はライの前から掻き消えた。先の言葉から推測してライは子供達の方へ顔を向けると、そこには子供達を背後から引き裂こうとしている獣人の姿があった。このままでは間に合わない。ならば、やることは一つ。


「(ブラド、エル! ありったけの強化を足に回せ!)」

『承知ッ!』

『はいッ!』


 両方の強化をありったけ足に集中させてライは爆発的な加速で地面を蹴った。子供達に剣を当ててしまう危険がある為、剣をしまってライは獣人を頭突き飛ばした。


「ゴハッ……!」

「ぐぅ……!」

「きゃあっ!?」


 子供達の頭上をライが真っすぐ飛んでいき、獣人の胸部に彼の頭突きが直撃した。いきなりの出来事に子供達は驚いて頭を守るように屈んだ。そのすぐ傍にライが落ちる。足の強化はしていたが他の強化をしていなかったので首にかなりのダメージがいってしまったが、幸いな事に折れてはいなかった。


『主、今の身体強化で我の魔力は最後だ……』

『私の方はまだ出来ますが、その場合は障壁を捨てることになります』

「(いいさ。子供達を守れたんだ。それで十分だ」)


 ただの強がりであった。一度子供達を守れただけで終わったわけではない。頭突きを受けた獣人が牙をむき出しにして怒っているのが遠目に見えた。「グルルル」と低い唸り声を上げている。相当怒っているようだとライは苦笑いである。

 しかし、同時に確信した。きっと獣人は子供達よりも先に自分を殺すことに集中するだろうと。これで子供達を逃がすことが出来るとライは口角を釣り上げた。


 そして獣人をさらに怒らせるように高笑いを始める。


「ハーッハッハッハッハッハ! どうしたよ、おい? 俺みたいな雑魚にやられた気分はどうだ! 俺は最高だぜ! 犬っころ!」

「殺す……ッ! テメェはズタズタに引き裂いてぶっ殺してやるよッ!」


 血走った目で叫ぶ獣人にライは嘲笑し、傍にいる子供達へ小さく声を掛けた。


「今の内に逃げて。アイツは俺に夢中だから君達は逃げれる。さあ早く」

「で、でも、お兄ちゃんはどうするの?」

「さっき見てただろ? お兄ちゃんは強いんだ」


 そう言ってニッコリと笑うライ。精一杯の強がり。だけど、ここで震えてしまえば子供達も不安に思ってしまうだろう。だから、笑うのだ。辛くとも、苦しくとも、怖くとも、そうすればどんな困難だろうと乗り越える事が出来ると信じて。


「さあ、逃げるんだ!」

「が、頑張って、お兄ちゃん!」


 子供達は逃げていく。最後にライを応援して。それを聞いたライは腹を括る。


「(頑張ってか……)」

『生きて帰らねばならぬな』

『子供達が泣いちゃいますからね』

「(はは……。すっごい大変だろうけど……やるしかねえよなッ!!!)」


 両手の剣を握り直してライは獣人へ立ち向かう。


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