第26話 消えた娘を探して
少し落ち着いた男は椅子に座り直して酒を飲んだ。まだ飲むのかと呆れるライだったが、男はグイッと口の周りを拭うと頭を下げてきた。
「さっきは怒鳴って悪かった。すまん」
「ああ、別にいいですよ。事情は聞いてましたから」
「そうか」
「はい。それでは聞かせてもらえますか?」
「ああ。俺は三日前の昼過ぎに娘のタリアと一緒に森へ山菜を採りに行ってたんだ。その頃、町で子供達が消えるという事件は続いてたんだが俺は目を離さなければ大丈夫だと思ってた。でも、本当に一瞬、ほんの少しタリアから目を離したら消えてたんだ……」
「ふむ。その時は何をしてたんですか? 山菜を採るのに夢中になってたとかですか?」
「いいや、タリアに山菜の説明をしてたんだ。それで近くにあった山菜を採りに向かう時、目を離したのがいけなかった……! 振り返ったらタリアが、タリアが……!!」
「もういいです。それくらいで。すいません。辛いだろうに話してもらって」
「いや、構わない。それより、これで何か分かるのか?」
「……正直まだ分かりません。ですが、これからその森へ行こうと思います」
「なら、俺も連れて行ってくれ! 昨日も探し回ったんだが、どこにもいなくて……! でも、諦めるわけにはいかないんだ! あの娘は俺に残された最後の家族なんだ……。だから……ッ!」
「その気持ちはよくわかります。俺も家族を失いましたから。ある日、突然に」
「なッ! そうだったのか……」
「ええ、ですから貴方の気持ちは他の人よりは理解できます」
「君は……。いや、なんでもない。それよりもさっきの話いいだろうか?」
「ついてくるという話ですね。すいません。少し嫌な予感がするので一人で行きます」
「邪魔にはならないようにする! だから、いいだろ?」
「俺は狩人です。森については多少の心得があります。だから、俺に任せてくれませんか?」
「しかし、部外者の君に頼りきりというのは……」
「大丈夫です。必ず見つけ出しますから」
「……わかった。親として情けないことだが君にお願いするよ。どうか娘を見つけてきてくれ」
「はい!」
それから、ライは男にどこの森でタリアが聞いたかを詳しく聞いた。具体的な場所まで教えてもらったライは早速、森へ向かうことにした。
一度、宿屋へ戻り弓矢と短剣を装備して森へ向かう。馬を連れて行こうと考えたのだが森では邪魔になるだろうと思い、宿屋へ置いていくことにした。
単身ライは森へ入っていく。
鬱蒼とした森にライは顔を顰める。なにせ、野生動物の気配はおろか、鳥すらいない始末だ。これは完全に異常事態である。狩人としての勘が危険だとライを警告していた。
「動物の気配がない……。鳥も見ないな」
『ふむ……』
『……これは』
「何かわかるのか?」
『魔力の気配が濃くなった。これはいるぞ』
『はい。確実にいます。マスター、慎重に進んでください』
「わかった」
二人の言葉に従い、ライは弓に矢を番えながら歩く。慎重に、注意深く、そして息を潜め気配を隠してライは森の奥へ足を踏み入れる。
周囲を注意深く観察を怠らない。どこから敵が出てくるか分からない緊張感にライは酷く神経を削られた。
「(……なにかいるな)」
『ああ。これは……獣人の気配だな』
『気を付けてください、マスター。彼らは戦士であると同時に生粋の狩人です。もしかしたらこちらの存在に気が付いてるかもしれません』
「(……いや、それはない。視線を感じない。だけど、獣特有の気配は感じるから、この森にいるのは確かだろう)」
『ここは主の狩人としての経験に任せるしかなさそうだな』
『ですね。私達よりも適任です』
「(とは言っても、二人は魔力を感知出来たりするんだろう? もう少しどこから魔力を感じるとか分からないのか? 北とか南とかさ)」
『すまぬ。漠然としているのだ。我等の感知能力は』
『それに獣人は魔族と比べると魔力が少ないですから、感じ取りにくいのです』
「(そうなのか……)」
それならば、やはり自分の勘と経験を頼りに探すしかないと気を引き締めるライ。
しばらく歩き続けてライは何かを引きずったような跡を見つけた。その跡をライは追っていく。もしかしたら、二人の言っている獣人かもしれない。だとしたら、戦闘になるだろうとライは弓矢をしまい、聖剣と魔剣を召還する。
これで戦闘になっても問題ない。だが、果たして今の自分でも太刀打ち出来るのだろうかと一抹の不安を抱えるライ。
「(今は……余計なことを考えないようにしよう)」
何かを引きずった跡を追いかけていたライの前に洞窟が見えた。跡は洞窟に続いており、ライは洞窟の中に獣人が潜んでいるかもしれないと緊張に震えた。しかし、先へ進まなければ何も分からない。
「(覚悟を決めろ。ここでビビってる場合じゃないだろ!)」
己を鼓舞してライは大きく深呼吸をして洞窟へ入っていく。薄暗い洞窟の中をライは慎重に進んでいく。幸いな事に一本道だから迷うことはない。それに正面と後ろだけに気をつけておけばいいので少しだけ気が楽だった。
『主! 人の気配だ! 微弱だが魔力を感じた!』
「(何ッ? ホントか!)」
『うむ! これは恐らく子供のものだろう! まだ生きているぞ!』
それはとても幸運なことだった。タリアが消えてから三日が経過していたのだ。絶望的な状況だったはずに違いない。だというのに、生きているのだ。これを幸運と呼ばずにはいられまい。
ブラドの言葉を聞いたライは走って洞窟の奥へ向かう。ここでライは少しだけ気を抜いてしまった。まだ子供が無事だということを知って、救助を優先するあまり警戒を怠ってしまったのだ。それが後に最悪の状況を招いてしまう。
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