第25話 聞き込み調査
暗くなり始めた頃に町へ辿り着いたライだったが、どこか陰鬱とした町の雰囲気に少しだけ顔を顰めた。
「(聞いてたけど、これはなかなか……)」
『まあ、仕方なかろう。子供が神隠しのように消えたというのだ。町の雰囲気も暗くなるさ』
そういうものかとライは納得して町へ足を踏み入れる。馬は目立つので先に宿屋を探した。ひとまず、目に入った宿屋らしき建物へ向かう。
「あの、すいません。ここは宿屋でしょうか?」
「ああ、そうだよ。宿泊かい?」
いきなり当たりを引いたぞと喜ぶライは、嬉しそうに頷いた。
「はい! あ、馬がいるんですけど預かってもらえますか?」
「別料金になってもいいなら見ておくよ」
「それでいいのでお願いします」
「あいよ」
店主にお金を渡してライは表に待たせている馬を案内された裏の方へ連れていく。宿の裏には厩舎が存在していた。そこにはヤギが飼われている。家畜なのだろうとライはヤギの見つめる。ヤギは健康的な体をしているので安心して馬を預けることが出来るとライは喜んだ。
「じゃあ、ちょっとの間、ここにいてね」
「ヒヒン」と馬がライに向かって鳴いた。ゼンデスから貸してもらった馬は賢くライの言うことをよく聞いてくれる。ライも嬉しそうに馬の鼻先を撫でて宿屋へ戻る。
宿屋へ戻ったライは用意された部屋に荷物を置いて町へ出かけた。まずは情報集めと決めていたのだ。
陰鬱な雰囲気の町ではあるが人がいないわけではない。ぽつぽつと歩いている姿を見かける。とはいっても、やはり表情はどこか暗い。これは思った以上に深刻そうだと思いライは酒場を探し回った。
『マスター』
「(ん? どうしたの、エル?)」
『微かに魔力の気配がします。恐らくですが、魔族が関わってるかもしれません』
『ふむ。そちらも感じ取ったか。微弱ではあるが確かに魔力の残滓を感じ取れるな』
「(魔族だと……?)」
最早、ライにとってはトリガーになっている言葉だ。普段は抑えているが、ひとたびその言葉を聞けば殺意の衝動が抑えられない。町を歩き回っていたライは急に立ち止まり、怒りに肩を震わせていた。
『マスター!』
『主!』
「ッ…………!」
息も乱れ今にも周囲を破壊せんばかりにライは衝動が抑えられなかった。しかし、エルレシオンとブラドの呼ぶ声で正気を取り戻す。後もう少しで聖剣と魔剣を呼び出して町を駆け回り魔族を探し回っていたことだろう。間一髪である。
「(ごめん。ありがとう)」
『いえ、軽率なことを言ってしまいました』
『すまぬ。主にとっては禁句であったな』
「(頭では理解してるつもりなんだけどね……)」
そうは言っても、やはりライの心には鮮烈にあの日の光景が焼き付いているだろう。目を閉じれば今でも鮮明に思い出すことだって出来る。忘れろ、などとは口が裂けても言えぬだろう。
「(それにしても魔族か……。あの日の奴か?)」
一番気になるのはそこだろう。ライにとっては決して忘れられない因縁の相手だ。もし、近くにいるのなら見つけ出して八つ裂きにしてやりたいほど憎んでいる。もっとも、今のライでは返り討ちにあうのが目に見えているが。
『いや、この感じは違うな』
『これは獣人でしょうか?』
『ふむ。それに近いな』
「(魔力で分かるのか?)」
『ああ。我等は多くの種族と契約してきたからな』
『ええ。人間以外にもいますよ』
「(へ~、そうなんだ)」
新しい発見に驚くライは目を丸くしていた。
『とは言いましても、感じる魔力は微弱なのでどこにいるかまでは分かりません』
『やはり、情報を集めるべきだな』
「(わかったよ)」
一応の手掛かりは掴めたが、解決には至らなかった。だから、ライは町を歩き回って酒場を探し回った。
やっとの思いで酒場を見つけ出し、ひと汗かいていたライは酒場へ入り水を貰うことにした。
しかし、酒場へ入るとそこには荒れている客が一人だけ。後は困ったような顔をしている女店主がいた。女店主の方は店に入ってきたライに気が付いて顔を向ける。
「いらっしゃい」
「ど、どうも」
「ここじゃ見ない顔だね。町の外から来たのかい?」
「はい。あっちの大きな町からです」
「そうかい。で、何を飲むんだい?」
「えっと、水を……」
「うちは酒場だよ。水もあるけどそこはお酒を頼むところじゃないの……?」
「……まだ子供なんで」
「言われてみれば確かにまだ子供っぽいけど……。まあいいさ。少し待ってな」
そう言って女店主はライに水の入ったグラスを渡した。それを受け取ったライは乾いた喉を潤すようにゴクゴクと一気に胃へ流し込んだ。
「よっぽど、喉が渇いてたんだね」
「ええ、助かりました。ところで、あちらのお客さんはどうしたんですか?」
ライが指を差しているのは一人飲んだくれている男だ。空になった酒瓶が机の上に乱雑としており、男は泣いているのか鼻をすする音がライの方にまで聞こえてくる。流石に気になってしまったライは女店主に聞いてみたのだ。
「ああ、彼ね。坊やは知らないだろうけど、今この町では子供が行方不明になる事件が増えててね。あそこの彼の娘さんも消えたそうだよ」
「それって詳しく聞くこと出来ます?」
「私も人から聞いただけで詳しくはないよ。本人に直接聞いた方がいい」
「……殴られないですかね?」
「酔ってても人に手を上げるような人じゃないよ。心配しないで行っておいで」
そう言われても酔ってる人間は予想がつかない行動を起こす。だから、絶対に大丈夫だという保証はない。
しかし、詳しい事を知るには彼に話を聞かなければならないのでライは恐る恐る近づいて声を掛けた。
「あ、あの~、今いいですか?」
「なんだ、この野郎!」
開口一番怒鳴り声だ。思わずライも怯んでしまうが、ここで逃げてしまえば貴重な情報源を失ってしまう。
「えっと、その……娘さんが消えたと聞きまして」
「それがどうしたんだよ、馬鹿野郎!」
「く、詳しくお話を聞かせてもらえないでしょうか……?」
「ああん!?」
酔っぱらっている上に凄んでくる男にライは苦い表情をする。
「も、もしかしたらお力になれるかもしれません。だから、お話を聞かせてくれませんか?」
「なんだと!? お前、まさかタリアがどこにいるか知っているのか!」
「い、いえ、そういうわけではなくて、子供達が行方不明になっている原因が分かるかもしれないというだけで」
「金なら払う! いくらでも払うから、娘を、タリアを助けてくれ!」
「で、ですから、まずはお話を……」
興奮して男はライの両肩を掴んで切羽詰まった表情をしながら懇願した。かなり強く両肩を掴まれているライは、あまりの力強さに頬が引き攣っていた。
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