第24話 再出発

 お金を渡し、聞きたい事も聞けたのでゼンデスはライを見送る事にした。ライは預けていた武器の類を返してもらい、出発の準備を整える。これでいつでも出発できるとライが思っていた時、ゼンデスから最後の贈り物が渡された。


「馬を一頭、君に貸そう」

「へ?」

「ずっと歩いて旅をしてきたのだろう? 靴を見れば分かる。大変だっただろう」

「た、確かに大変でしたけど流石に馬までお貸りするわけには……。もう十分、領主様には沢山貰いましたから……」


 困ったようにゼンデスの提案を断ろうとするライだが、彼は譲らなかった。


「だが、帝国までは長旅になるだろう。乗合馬車もタダではないのだ。ここは遠慮するところではないぞ?」

『そうだぞ、主。これから先も旅は続くのだ。それに彼は貸すと言っているのだ。それはつまり返せと言う事だ』


 遠回しな言い方ではあるがゼンデスはライに必ず帰って来いと伝えているのだ。それが分かっているブラドはライに彼の好意を無下にしないように説得している。


「(でも、もう十分良くしてもらったのに、これ以上は貰い過ぎなんじゃないかな)」

『その考えは立派ですが、マスターはまだ子供なのです。ここは黙って大人の言う事を聞いておきましょう』


 本来であればライには頼れる両親がいた。しかし、魔族の手によって奪われてしまった為、もういない。だからこそ、ライは誰にも頼ることなくここまで一人で来たのだ。ブラドとエルレシオンは助言こそ出来るが、彼の為に出来る事は少ない。それを理解しているから二人はゼンデスに頼るようにライを導く。


「(わかったよ)」


 ここまで言われればライも理解した。自分はまだまだ未熟な子供。だから、ここは黙って三人の言い分に従うべきだとライはゼンデスの申し入れを受け入れた。


「何から何までありがとうございます。きっと必ず返しに戻ってきます」

「うむ。私はここから離れる事はあまり出来ないが、君の旅路を見守ろう」

「それでは、またいつか!」


 別れの挨拶を済ませたライはゼンデスから貸して貰った馬に跨り、街の外へ向かって馬を走らせた。ゼンデスはその背中を見届けてから屋敷の中へ戻る。


 仕事部屋に戻ったゼンデスは窓から外を眺める。その視線の先はライが旅立った方向だった。外を眺めながら彼は尻目にウェンディへ話しかけた。


「ウェンディ。彼についてどう思う?」

「普通な好青年に見えて中は復讐の憎悪に塗れた悪鬼かと」

「私もそう思う。だが、妙な所もある。あれほどの憎悪を剥き出しにしておきながらも平静を保っている。一体、彼の何がそうさせているのか気になるところだ」

「追っ手を出しましょうか?」

「いや、構わぬ。それよりも彼から聞いた話だと我が領内に魔剣と聖剣が眠っている可能性がある。すぐに調査隊を派遣しろ。主に魔族の被害があった場所を中心に調べるんだ」

「畏まりました」


 一礼してウェンディは部屋を出て行く。その後、ゼンデスは残っていた書類仕事を片付けていった。


 ◇◇◇◇


 ゼンデスから馬を貸して貰ったライの旅は順調だった。水に食料、そしてお金まで十分にあるライはいつもより機嫌がいい。天気がいいのも相まって鼻歌を唄っていた。


「ふんふふ~ん」

『ご機嫌だな、主よ』

「まあね。今まで歩いてばかりだったけど、領主様からこんなにも立派な馬を貸して貰えたからね」

『確かに、この馬は立派ですね。軍馬でしょうか?』

「さあ? 俺には分からないよ。でも、いい馬だってことだけは分かる」

『それが分かれば十分だろうよ』

「うんうん!」


 ご機嫌なライはそのまま進んでいく。次の町はどのような町なのかと期待を膨らませて。


 しばらく進んでいると道の真ん中で馬車が立ち往生していた。何があったのだろうかとライが近寄ると、馬車の車輪部分に人が集まって難しそうな顔をして話していた。気になったライは声を掛ける。


「あのどうしたんですか?」

「ん? あー、車輪の軸が壊れてね。動かないんだよ」

「そうなんですか。大変ですね。何か手伝えることありますか?」

「そうだね……。このままだと邪魔になるから道の端に寄せようと思うんだけど手伝ってもらえないかな? 勿論、報酬は出すよ」

「それくらいなら全然いいですよ」


 ライは馬から降りて男達と一緒に馬車を押して道の端へ寄せていく。数人がかりでようやく馬車を道の端に寄せることが出来た。


「ふう、ありがとう。助かったよ」

「いえ、お力になれたらよかったです。ところで馬はどうしたんですか?」

「ああ、馬なら今はいないよ。今は馬車を修理できる業者を呼んで来てもらってるんだ」

「それで馬がいないんですね」

「そういうことさ。ところで、君は一人旅かい?」

「はい。そうです」

「そうか。どこへ向かってるんだい?」

「北の方です。ずっと」

「北の方といえば戦争してるところだけど……。そんなところに何の用があって?」

「大事な用事があるんです。とても大事な用事が……」


 ライに話しかけていた男は何やら訳アリだと思い、それ以上追及するのをやめた。変な雰囲気になりそうだったので男は別の話題を振る。


「そういえば、北へ向かうんだろう? この先に町があるんだけど今はどうもおかしなことが起きてるらしいんだ」

「おかしなことですか? それは一体どんなことなんです?」

「詳しくは知らないんだけど、なんでも子供が神隠しにでもあったかのように消えるらしい。だから、少し気を付けた方がいいよ」

「そうなんですね! わかりました。どうもありがとうございます」

「いやいや、これくらい何でもないよ。それじゃ、これ少ないけど手伝ってくれたお礼に」


 そう言って男はライにお金を渡した。大した額ではないが、貰えるものは貰っておこうと決めたばかりなのでライは素直に受け取った。


「ありがとうございます!」

「ははは、こちらこそだよ。それじゃ、気を付けてね」

「はい!」


 ライは男達と別れる。再び馬に跨って旅を再開する。いい事をしていい人達に巡り合えた事をライは嬉しく思い、一層楽しくなって鼻歌を唄いながら次の町へ向かった。

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