第20話 領主様とご対面
詰所でライが門兵と雑談をして時間を潰していたら領主から使いの者がやってきた。その使いの者と一緒にライは詰所を出ていく。詰所の外には馬車が停まっておりライはそれに乗って領主宅へ向かうことになる。
「さあ、どうぞ」
「えっと、いいんですか?」
「はい。むしろ、乗っていただかないと困ります」
「じゃあ、そのよろしくお願いします」
一礼してからライは馬車へ乗り込む。それから馬車が走り出して領主宅へと向かう。馬車の中にはライと使者が向かい合わせに座っている。ライは何か話すことはないかと頭を悩ませた結果、どうして自分が領主に呼ばれたのかを尋ねることにした。
「あの、すいません。どうして、俺は呼ばれたんでしょうか?」
「さあ? 私にも分かりません。ただ、領主様にアルバ村の人間がいたらお連れするように命じられただけですので」
「そうですか……」
「まあ、そう心配するようなことはないですよ。領主様はお優しいお人ですから」
そうは言うがライからすれば会ったこともなければ見たこともない相手だ。いくら、優しいから大丈夫だと聞かされてもそう簡単には安心できないだろう。
しかし、街の雰囲気や出会った人達は少なくとも悪人という悪人はいなかった。これも領主の人柄が成しえたことなのかもしれない。
そう考えると、少しは信じていいかもしれないとライは心を落ち着かせた。
やがて、馬車が止まり、領主宅へ着いたことを御者が知らせてくれた。その知らせを聞いた使者がライに馬車から降りるよう言った。
「では、降りましょうか」
「は、はい」
元々、ただの村人であったライにとって領主は雲の上のような存在だ。これから、そのような人物と会うのだと改めて思ったライは緊張していた。声が上ずっており、その声を聞いた使者が緊張を解すようにライへ優しく声を掛ける。
「先程も言いましたが、領主様はお優しいお方です。そう心配しないでください」
「……はい」
ライは覚悟を決めて領主宅へ足を踏み入れた。今まで見たこともない立派な建物にゴクリと生唾を飲み込んだライは使者の後ろをついていく。
「(すげ~~~! でっかい屋敷だ……!)」
『そうか? 領主宅というには少し小さい気がするが……』
『マスターからすれば十分に大きいのですよ。私達とは基準が違うのです』
「(……田舎者で悪かったな)」
『別にバカにしたわけではないさ。ただ、我等が知ってるものとはずいぶん違うという話に過ぎんよ』
『申し訳ありません、マスター。気に障ったのなら謝ります』
「(別に怒ってない)」
『その言い方だと怒ってるように聞こえるが……』
『拗ねないでください、マスター』
三人がそのようなやり取りをしている間に領主が待っている部屋へ辿り着いたらしく、案内してくれていた使者が立ち止まりライに声を掛ける。
「さあ、着きました。この部屋に領主様がおられますので」
「は、はい!」
いよいよ領主と会うことになる。ライは緊張から全身に力が入ってしまい、声が大きくなった。
それが可笑しかったのかクスリと使者は笑うと、領主が待っているという部屋のドアを叩いた。
「領主様。アルバ村の者を連れて参りました」
一秒ほどしてドアの向こうから男性の声が聞こえてくる。
「中へ入ってきてくれ」
「はい」
「それでは行きますよ」と小さな声でライに伝えると使者はドアを開けて中へ入っていく。その後に続いてライも部屋の中へ入る。
部屋の中にはメイドの女性と書類仕事をしている初老の男性がいた。ライが入ると男性は書類を机の上に置いて、ライの方を見た。
「初めまして。私がグレアム領を治めているゼンデス・グレアムという。よろしく、アルバ村のライ君」
「は、初めまして!」
「ふっ、元気があってよろしい。そこのソファにかけたまえ。あ、君はもういいぞ。ご苦労だった」
穏やかな笑みを浮かべたゼンデスはライにソファへ腰かけるように指示すると、ライを連れてきた使者へねぎらいの言葉を掛けた。
「はい。では、失礼します」
そう言って使者が出ていき、部屋にはライとゼンデス。それからメイドが残った。ライは緊張に固まっており何も喋らない置物になってしまっている。それを見たゼンデスがメイドにお茶菓子を出すように命じた。
「ウェンディ。お客様にお茶とお菓子を用意してくれ」
「畏まりました」
ウェンディと呼ばれたメイドは頭を下げると部屋を出ていく。これで、部屋にいるのはライとゼンデスだけとなった。ライが暗殺者ならばゼンデスは殺されているだろうが、彼は目の前の少年がそのような輩ではないことを確信している。人を見る目には自信があるのだ、ゼンデスは。
「さて、がちがちに緊張しているところ悪いが、話しても大丈夫かな?」
ゼンデスは気さくに話しかけながら、ライの前にあるソファへ腰かけた。
「あ、はい。大丈夫です!」
「そうか。では、少し世間話でもしようか。ウェンディがお茶菓子を持ってくるまで」
「え、え?」
「ん? こんなおじさんとは退屈だろうが少し付き合って貰えるかね」
「い、いえ、そんな! えっと、領主様とお話しできるなんて、あの、そのすごく光栄です!」
「ハハハッ。そう言われると嬉しいね~」
本当に嬉しそうに笑っているゼンデスにライは困ったように笑った。この場合、どういう風に話せばいいか分からないのだ。そもそも相手は領主である。気さくな人だというのは、少し話しただけで分かる。だからと言って、同じように話せるかと言われれば無理であろう。
「ふふ、困っているね。大丈夫だとも。ここは私の部屋で君と私しかいない。だから、身分の差など気にすることはないさ。もっと気楽にして構わない」
「えっと、あの……」
『主よ、彼からは悪意を感じない。恐らく純粋に主との会話を楽しもうとしている。だから、肩の力を抜くといい』
『いい人ですね。マスター、ここは言われた通り、気軽に話してみてはどうでしょうか?』
二人に言われてもライはやはりまだ緊張してしまう。村人であるライにとって領主であるゼンデスは雲の上の存在。そのような存在とこうして対面しているだけでも畏れ多いのに、気軽に話せと言われても躊躇ってしまうのも仕方がないだろう。
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