第15話 第二の村

 精神世界で修業を行いながらもライの旅は続いていた。しかし、そろそろ食料と水が底を尽きそうだった。このままでは不味いとライは少しばかり急いだ。もうすぐ次の村が見えてくるはずだとライは走る。


 しばらく走り続けていたライは視界の先に村を見つける。これでもう安心だとライは走るのをやめて歩き始めた。


 村の入り口に辿り着くと見張り番をしていた初老の男性に声を掛けられる。彼の手には武器である槍が握られていた。ライが盗賊か山賊の類か分からないため、穂先を向けて警戒している。


「止まれ! 何者だ?」

「俺はライ。アルバ村のライだ」

「では、アルバ村のライ。この村には何をしに来た? 見たところ、物を売りに来たわけではなさそうだが」

「水と食料を分けてもらいたい。今、訳あって旅をしている」

「旅だと? 一人でか?」

「ああ。だから、少しだけでいいから水と食料を分けてもらえないだろうか?」

「ふむ。では、少しそこで待て」

「わかった」


 意外と話の分かる人でライの話を信じてくれたようで、初老の男性は村の中へ消えていく。ライはその背中を見ながらブラドとエルレシオンに話しかけた。


「(俺が山賊だったらどうするんだろ)」

『危機感があまりないのだろう。見張りは念のために程度なのではないか?』

『そうですね。村の周りを木で囲ってるのを見る限り、山賊などの被害には遭われた事がないのでしょう』

「(ああ、それで警戒心があまりなかったのか……)」

『であろう。それに先程の武器を見てもこの村は豊かなのだろう。だから。多少の山賊程度ならば追い返せるのかもしれんな』


 三人が色々と考察していたら、先程の男性と老人が歩いてきた。恐らく、老人はこの村の村長なのだろう。男性の話を聞いてライを見定めに来たのかもしれない。


「アルバ村のライ。私はゴンガ村の村長だ。村に案内しよう。だが、その前に武器を預からせてほしい」

「構わない」


 そう言ってライは持っていた弓矢を男性に渡す。それから、村長の方がライに近づいて体をまさぐり他に武器がないかを確かめた。そして、ライが他に武器を持ってないことを確かめた村長はライを村の中へ通した。


「では、私についてまいれ」

「わかった」


 村長の後ろを歩いていきライは村の中を見回した。これといって特徴はないがアルバ村よりも裕福そうに見えた。少しだけライは羨ましいと思いながら村長に置いて行かれないように付いていく。


 しばらく村長の後ろを歩いていくと、他の家よりも一回り大きい家が見えてくる。村長はまっすぐその家に向かって歩いていくのを見てライは、あの家が村長の自宅なのだと分かった。


「ここが私の家だ。さあ、中へどうぞ」

「お邪魔します」


 村長に案内されてライは客室へと入る。適当に座るように言われてライは座った。それから、村長が一度席を外して一人になったライはキョロキョロと部屋の中を見回す。大したものは特にない。そうしていたら、村長と村長の妻と思われる女性がお茶を持ってきた。


「こちらをどうぞ」

「すいません。有り難くいただきます」


 渡されたお茶を飲んでライはホッと息を吐く。少し前からずっと喉がカラカラだったのだ。ようやく潤すことが出来たので生き返った気分である。


「さて、アルバ村のライよ。お前さんは訳あって旅をしていると聞いたが、詳しく話してもらってもいいだろうか?」

「あまりいい話ではありませんよ?」

「構わぬ。さあ、聴かせてくれ」

「……俺の村、アルバ村は魔族に滅ぼされました。家族も村人も全員殺されてしまった。たまたま俺は狩りに出てたから運よく生き延びたけど……」

「なんと……! まさか、旅というのは……」

「お察しの通り。復讐です」

「そうか。そうだったのか……。さぞ辛かったろう。今日は泊っていかぬか?」

「いえ、一日でも早く仇を討ちたいので」


 その時、村長は恐怖を抱いた。ライの目があまりにも恐ろしかったのだ。仄暗い炎を宿しており、今にも憎悪の化身となり暴れるのではないかと錯覚してしまうほどに、ライの目は淀んでいた。


「……わかった。食料と水を用意しよう」

「ありがとうございます」


 その後、村長は水と食料をライに分け与えて別れの挨拶をしていた。その時、カンカンッと音が村中に鳴り渡り、その音を聞いた村長の顔が驚愕に染まった。


「この音は……まさか!」

「村長、この音はなんなのですか?」

「山賊が襲ってきたことを知らせる音だ。お前さんは早く逃げなさい! さあ!」

「村長、俺も力になります。水と食料を頂いたお礼といってはなんですが」

「しかし……。いや、一人でも戦力が多い方がいいか。すまないが頼めるか?」

「出来る限りの事はします!」

「ありがとう」


 村長とライは村の出入り口に向かった。そこにはボロボロの鎧を着た男達が暴れていた。山賊で間違いないだろう。彼らは武装している村人と戦っている。しかし、経験の差から村人の方が押されていた。


「村長! 俺の弓矢は?」

「すまぬ! ここにはない! 見張り番の男が持っているはずだ」

「わかった!」


 ライは弓矢が欲しかったが手元にはないので魔剣と聖剣を召還した。


「お前さん、それは一体……」

「説明している暇はありません!」


 そう言ってライは風のように駆け出した。


『主よ! 初めての対人戦だな! 気を抜くなよ!』

「(わかってる!)」

『マスター。魔力はそうありません! 私達の能力はここぞという時にお使いください!』

「(わかった!)」


 双剣を携えてライは戦場の真ん中へ飛び込んだ。



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