第14話 次のステップ
ライは村人全員分の墓穴を掘り終えて埋葬を終わらせた。熊を殺してから数日が経過していた。村人の埋葬を終えたライは村の中から食料と水を分けてもらい、再び旅に出る。
『熊の肉はよかったのか?』
「殺した後、何の処理もしてなかったから食べれるものじゃないよ」
『そうか……。熊肉を楽しみにいていたのだが』
残念そうな声を出すブラドにライは意外と食い意地を張るのかなと苦笑いである。
その後、しばらく歩き続けて疲れたライは道から外れていた場所に見つけた木の株に座り込んで休息をとる。勿論、ただ休息を取るわけではなく剣の修業も行う。ライは目を閉じて精神世界へと没入した。
『さて、今日は私の番ですね』
「よろしくお願いします、エル」
『はい。お任せください』
いつもと同じ真っ白な空間に立っているライの目の前には金髪の美女である純白の騎士がいる。彼女は聖剣エルレシオンを地面に突き刺して威風堂々と立っていた。
『では、今日は次のステップへ進みましょう』
「次のステップ?」
『はい。まずはおさらいとして私の能力を復唱してください』
「えっと、身体強化、魔力切断、障壁です』
『はい。よく覚えてましたね。私の能力は闘気を用いて使うものですが、残念ながらマスターには闘気が一切ありません。ですが、その代わりにブラドと契約しているおかげで魔力を扱うことが出来ます。ブラドが吸収した魔力を私の方で闘気に変換することが出来ますので私の能力は使えます。一つ言っておきますけど、これってものすごい事なんですよ? マスター』
まるで姉のように接するエルレシオンにライはたじたじであるが悪い気はしなかった。ただ、少し過保護なところはもう少しどうにかして欲しいと思っていた。
「あ、ああ。それで次のステップというのは?」
『障壁の使い方です。一度私がお手本を見せますのでよく見ておいてくださいね』
「わかった」
それからエルレシオンが障壁の使い方をライに教えていく。最初は防御に使うものとして、次に敵の攻撃を妨害するものとして、そして空中での足場として障壁を使い分けた。それらの動きを見ていたライは途中から唖然としていた。凡そ人が出来る動きではないと。
『はい。では、やってみましょうか』
本人は軽い運動だとでも思っているのか、実に爽やかな笑顔でライに無茶を強要していた。最初の方はまだライでも可能であるが最後の方は人間をやめた動きだ。真似出来るようなものではない。
「いや、無理……」
これは流石に出来ないと思ったライは首を横に振った。しかし、エルレシオンは絶対に出来ると思っている。だから、嫌がるライのやる気を上げるためにエルレシオンはある提案をした。
『大丈夫です! 私が付いてますから一緒にやりましょう!』
「いや、多分死んじゃう……」
『問題ありませんよ。ここは精神世界、何度死のうとも平気です』
「精神が死んじゃうよ……」
『さあ、やりましょうか!』
「人の話聞いてよ~」
泣きそうになるライを無視してエルレシオンは修業を始めた。ライに斬りかかり障壁を展開するように指示を出し、剣の軌道をずらすように障壁を変形させるよう叱り、最後は障壁だけを足場にした鬼ごっこだ。無論、命懸けのだ。ライは後ろから追いかけてくるエルレシオンに捕まらないよう逃げ回る。が、何度も空中で障壁から足を滑らせて落下しては死んだ。
『ある程度、使えるようになるまでは頑張りましょう!』
鬼である。何度も落下して死んでいるのに加えてエルレシオンが斬り殺しているのだ。刺突、袈裟斬り、逆袈裟、唐竹、一文字とバリエーション豊かに斬殺されているのだ、ライは。しかも、エルレシオンは楽しそうに笑って。心が折れても仕方がないだろう。
しかし、ライは挫けなかった。何度、落ちて死のうが何度斬り殺されようが必死に食らいついた。全ては復讐のため。狂気の果てに辿り着けるのなら、いくらでも狂おうとした。
『落ち着いて。それではダメです』
「ッ……」
『その狂気は確かにマスターの糧となり力と変わるでしょう。ですが、飲み込まれてはダメです』
「ごめん。ありがとう」
『いえいえ、弟子がおかしな方向にいかないようにするのも師匠の務めですから』
「はは、心強いな」
その後も何度もライはエルレシオンに叱られ、殺され、死にながらも修業に励んだ。そして、ようやくライはエルレシオンに及第点を貰えるほどまでに障壁の使い方を覚えた。何度死んだかは分からないがやっとである。ライは満足そうに目を覚ました。
「……相変わらず体感時間が狂いそうだな」
『まあ、精神世界でどれだけ過ごそうとも現実では一瞬ですから』
「便利な能力だよ。ホントに」
最大のアドバンテージであろう。精神世界でどれだけ時間が経過しようとも現実では一瞬の出来事なのだ。もっとも、精神世界で鍛えた技術は現実に持ち帰ることは出来ないので、結局のところ実戦を通して積み重ねるしかないのだが。それでも、形や心構えを整えることが出来るのだから十分だろう。
「腹が減ったな。飯にでもするか」
『今日は何にするのだ?』
「干し肉」
『ぬう……。塩辛くて好みではないのだが』
『私もです。早く他のものが食べたいです』
「我慢してくれよ……。長旅なんだから保存がきく食料じゃないと腐っちまうんだからさ」
『それは理解しているが……』
『たまには他のものが食べたいです』
「そりゃ、俺だって食べたいよ……」
仲良く三人は溜息を吐いてライは干し肉をかじった。塩辛い味を口の中で感じながら空を眺めるのであった
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