第13話 初めての戦闘
村へ足を踏み入れたライはある違和感に気がつく。それは、まだ昼間だというのに村人がいないことだ。これはおかしいとライは早足で村の中に入り、人がいないか探し回る。
すると、最悪の光景が目に飛び込んできた。体長3mはあると思われる大きな熊が村人を食べていたのだ。しかも、熊の前には数多くの村人が倒れている。その光景を見てライはこの村もあの魔族に襲われたのだと気がついた。
村人の死体を食べている熊を見たライはどうするか迷った。村人達には悪いがそのまま熊の注意を引いてもらい、自分は食料と水を調達するか。それとも、熊を退治しようかと迷っている。
はっきり言えば見ていて気持ちのいいものではない。もし、アレが自分の両親だったら迷わず飛び出していただろう。しかし、今食べられているのは顔も知らない他人だ。わざわざ、危険を冒してまで助ける義理はない。そもそも死んでいるのだから助ける必要はないだろう。
『どうするのだ、主? あれらは既に死体よ。助ける必要はないぞ』
『私達はマスターがどのような選択をしようとも従うだけですよ』
「俺は……」
二人の意見に葛藤するライ。目をギュッと閉じてしばらく悩んだ末に出した答えは――
「助けよう。これ以上彼らを傷つけるのは許せない」
『フッ、ならば丁度いい相手だ。主よ、弓矢を使わずに我らを使ってあの熊を倒してみよ』
「え……! で、出来るかな?」
『出来る。自信を持て、主』
「……わかった。やってみる!」
弱気になっているライの背中を押すようにブラドが励ました。ライはブラドの言葉を聞いて決心する。彼が出来ると言うのだから出来るのだと自信を持ってライは
「よし、やるぞ」
『うむ!』
『はい!』
聖剣と魔剣を両手に握り締めてライは駆け出した。一直線に熊へ向かって行く。村人の死体を食べていた熊は足音に気がついてライの方を見た。すでにライは熊の間合いに入っており、剣を振り上げていた。
「ガアアアアアアアッ!?」
ライは振り上げた剣を振り下ろして熊を斬った。魔剣の切れ味は凄まじく熊に深手を負わせた。しかし、絶命には至っていない。熊は斬られた事により絶叫を上げている。
『怯むな! 臆せば死ぬぞ!』
「ッ!」
痛みに暴れる熊は血走った目でライを捉え、大きく口を広げて襲い掛かった。その瞬間、ライは怯み足が止まってしまったが、ブラドの掛け声により熊の噛み付きを避ける事に成功した。
『止まるな! 畳み掛けろ!』
歯を食いしばって力を込めたライは熊を切り上げる。そこから呼吸すら忘れてライは力の限り連閃を叩き込んだ。
されど、熊は倒れなかった。確かに切ることは出来ただろう。だが、足りない。熊を絶命させるには足らなかった。
「ッッッ!」
「ゴアアアアアアアアアアッ!」
『避けろ、主!』
『避けてください、マスター!』
怒りによって興奮した熊が大暴れする。暴れ回る熊は腕を大きく振り回した。その腕がライに襲い掛かる。二人が咄嗟に避けるように叫ぶがライは避けることが出来ずに一撃を貰ってしまう。
「ぐぅッ!」
とてつもない衝撃にライは耐え切れずに吹き飛んでしまう。体が宙に浮き数mほど飛ばされたライはゴロゴロと地面を転がる。たったの一撃でライの体はボロボロだ。
「あぐ……」
『主、しっかりしろ!』
『マスター!』
かろうじて意識を失わずに済んだがライは満身創痍だ。立ち上がるのも辛いだろう。しかし、ここで立たねば熊の餌になるだけだ。ライは痛む体に鞭を打ち立ち上がろうとした。その時、熊がライに向かって突進してきた。
どっ、と吹き飛ばされるライは建物の壁にぶつかる。背中を強く打ち付けたライは大きく息を吐いた。
「かはッ!」
そこへ熊が襲い掛かり、ライを捕まえると大きく口を開いて噛み付いた。
「ガッアアアアアアアアアア!!!」
今まで感じたことのない痛みに絶叫を上げるライは意識が飛びそうになった。
「(ここで死ぬのか……? ふざけるな! まだ死ぬわけにはいかないんだ!)」
奥歯が砕けんばかりに歯を食いしばってライは肩に噛み付いている熊へ魔剣を突き刺した。
「グルアアアアアアッ!」
首に剣を突き刺された熊はライから口を離して地面を転げまわる。今が好機だとライは地面を転げ回っている熊に飛びつき聖剣を突き刺す。何度も何度も熊が死ぬまでライは聖剣を突き刺した。
『主、もう死んでいる』
「ハア……ハア……」
『今すぐ治療を!』
「ブラド、頼む……」
『任せよ。魔力は回収できた。少々痛むが耐えろよ?』
魔剣ブラドにはいくつかの能力がある。身体強化、魔力吸収、再生といった複数の能力を持っている。が、どれも魔力を消費して使うものなのでライは使えない。本来ならばの話だが。実はライが魔力を持っていなくてもブラド自身の能力である魔力吸収を使えば、敵から魔力を吸収し魔剣の能力を使うことが出来るのだ。今回は熊から魔力を吸収したので再生能力が使える。
「ぐぅぅぅ……ッ!」
熊によってズタズタにされた肩がジュウジュウと音を立てて元に戻っていくが、とてつもなく痛みを伴う。それこそ、熊に噛み付かれた時以上にだ。ライは顔を歪めながらも必死に痛みに耐えていた。
『もう大丈夫だ』
「ふう……。こんなに痛かったのか……」
『うむ。まあ、我慢してくれ。この能力があれば手や足を失おうが再生することも出来るのだ』
「出来ればそういうことがないようにするよ」
『それで、どうだった。初めての戦いは?』
「狩りの方がよっぽど楽だったよ。罠にかけて遠くから矢で射ればいいんだから」
『では、やめるか?』
「まさか。これからもよろしく頼むよ」
『ふっ、ビシバシしごいてやろう』
「お、お手柔らかに……」
『あのマスター。それで彼らはどうするのですか? ご家族のように埋めるのですか?』
「ああ、助けた以上は最後まで責任持たなきゃな」
そう言ってライは立ち上がり、無造作に転がっている村人達を丁寧に一人一人寝かせていく。それが終わるとライはスコップを探してきて、村の近くに墓穴を掘り始めるのであった。
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