第10話 復讐の炎
一人の復讐鬼が新たに生まれた。魔族に故郷の村を滅ぼされて、家族を殺された男は一匹の修羅へ変貌した。
「ありがとう、二人とも」
『何、我等は所詮道具よ。主の言うことに従うのが道理というものだ』
『ええ、私達は貴方が望むままに力になりましょう』
「……てっきり止められると思ったんだけどな」
『復讐をか?』
「ああ。だって、復讐なんて良くないだろ?」
『その考えは誰も分かりませんよ。復讐が正しいのか正しくないのかなんて誰にも判断できません。ただ、強いて言えばマスター、貴方には権利があります。復讐するか、しないかの』
「権利……」
『そうだ。主は故郷を滅ぼされた、家族を殺された。ならば、恨むのは当たり前。それ故に、恨みを晴らすという意味で復讐をするのは自然なことだ』
「そう、か……」
復讐とは自然の事。ライは故郷を滅ぼされ、家族を殺された。しかも、理不尽に。ならば、復讐を考えるのは当たり前のことだろう。むしろ、相手を許すような人間などそうそういないだろう。いたとしたら、それは聖人君子だけだ。
「それじゃ、行こう。魔王軍のいるところへ」
『知っているのか?』
「いや、知らない」
『では、どうするのですか?』
「ここから先に大きな町があるから、そこで聞きこむつもり」
『なるほど。では、最初の目的地がそこなのだな?』
「ああ。でも、ここからだと結構時間かかるけど」
『どれくらい掛かるのですか?』
「馬を使っても一か月くらいかな。行商人に前聞いたけど、それくらいかかるらしい」
『そうか。では、道中修業が出来るな』
「修行?」
修業とは一体どういうことだろうかとライが首を傾げると聖剣が丁寧に説明をしてくれる。
『ええ、修行です。マスターは確かに狩人として体は鍛えてありますが、それだけではあの魔族を倒すことは不可能です。私達の見立てではあの魔族はかなり高位の魔族と思われます。恐らくですが魔王に近い強さかと』
「そんなにやばい奴なのか……」
『うむ。我が魔力を吸ったがまだ余裕があった。つまり、魔力量も相当なものだ。今の主では手も足も出ないだろう』
「だから、修行か……」
二人の話を訊いてライは納得した。確かに今の自分では勝ち目がないだろう。なにせ、戦闘経験など皆無なのだから。しいて言えば狩人の経験が役立つだろうが、それは狩りといったもので戦いではない。
「どうすればいい?」
『我等が主を鍛える』
どうやって鍛えるのかとライは疑問に思う。二人とは契約しており体の中にあるが実体を持たない剣だ。言葉だけだと素振りや型の練習が精々だろう。
「もしかして、俺の体を使えるのか?」
『いえ、そのようなことは出来ません。私達はあくまでも剣に過ぎませんから』
「じゃあ、どうやって鍛えるんだ?」
『ふっ、口で説明するより体験した方が早いだろう。主よ、一度目を閉じて横になるといい。そう、眠るような体勢になるんだ』
魔剣に指示された通り、ライは横になって目を閉じた。しばらく、暗闇にいたライだがいつの間にやら真っ白な空間に立っていた。
「こ、ここは!?」
『驚いたか? ここは精神の世界だ。我等の力で主をここに招いたのだ』
驚いていたライは魔剣の声がした方へ振り返る。すると、そこには赤い髪に端正な顔立ちをした黒衣の剣士が立っていた。その手には赤黒い禍々しい剣を持っている。その剣は魔剣ブラドである。
「え、誰……?」
『我が魔剣ブラドだ。この姿はかつての我が主だ』
「それって、俺の前の持ち主ってこと?」
『うむ。我は歴代の所有者の記憶を再現することが出来る。つまり、この能力を使って主を鍛える』
「な、なるほど……」
『安心するといい。ここは精神の世界。ここでどれだけ傷を負っても現実には反映されない。しかし、だからと言って気を抜いていれば精神は崩壊するぞ』
「え……? 精神が崩壊するってどういうこと?」
『生きているが死んでいる。そういった状態になるということだ。だから、主よ。気をしっかり持てよ』
「え、ちょっ!」
目の前で説明をしてくれていた黒衣の剣士の姿が一瞬だけブレると、ライの前に移動していた。ライは突然目の前に黒衣の剣士が現れたことに驚くのも束の間に首を刎ねられて死んだ。
「うわああああああああッ!?」
ガバリと起き上がるライはペタペタと首を触る。繋がっていることを確かめたライはホッと胸を撫で下ろした。しかし、先程精神の世界で首を刎ねられた感触は妙に残っていた。
『どうだった、主よ』
「最悪。でも、これで納得したよ。これなら確かに強くなれそうだ」
『とはいえ、これは精神に大きな負担を掛けますので日に何度もするのはおススメ出来ません』
「ああ、それは思った。さっきブラドに首を斬られた今も嫌な感触が残ってるもん」
『ハハ。すまぬな。あれが一番手っ取り早いと思ったのだ』
『あまり無茶はしないでください。マスターはまだ実戦経験がないのですから』
『しかし、そうは言うが主はこれから戦いへ身を投じるのだ。覚悟はしておかねばなるまい』
「まあ、そうだな……」
まだ首を触っているライはブラドの言葉に納得して頷いた。彼の言う通り、これからライは復讐という名の旅に出る。それは恐らく戦いの日々になるだろう。復讐する相手は魔族であり、魔王に近い強さを兼ね備えている。生半可な覚悟では挑むことは許されない。
「じゃあ、旅の準備をしようか……」
『もう行くのか?』
「ああ、もうここにいても仕方ないからな」
『最後にお別れの挨拶はいいのですか?』
もう二度と帰ってこられないかもしれない。そう考えると、最後にもう一度挨拶をした方がいいのではと聖剣はライに提案する。しかし、ライは首を横に振った。
「もう済ませた」
既に終わっていたのだ。ライの中では。埋葬した時にライは別れを告げていた。だから、必要ない。後は決意を新たに一歩を踏み出すだけ。それが輝かしいもでのはなく、仄暗い復讐の道だろうとライは決めたのだ。必ず、やり遂げると。
「さあ、行こうか」
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