第6話 悲劇 上

 アルとミクが村から出て行って三年が経過した。ライは十六歳を迎えており、父親の跡継ぎとして狩人になっていた。狩人になったライはいつものように山へ入り、獲物である鹿や猪を狩る。罠を張り、弓矢で射貫くといった感じで獲物を狩り、村に貢献していた。


 しかし、今日はいつもと山の様子が違っていた。動物の姿がなく、静かだったのだ。


「……ん~~~? いつもと様子が違うな。一旦戻って父さんに報告するか」


 山の様子がいつもと違うことに疑問を感じたライはすぐに山を下りた。父親から口を酸っぱく言われていたのだ。山の様子がいつもと違えばすぐに下りろ、と。何故、すぐに山を下りる必要があるのかとライは父親に聞いたことがある。その時言われたのは、危険だからだということ。それなら仕方がないとライも納得した。


 だから、すぐさまライは引き返して山を駆け足で下りている。


 どうしてかライの胸はざわついていた。嫌な予感がすると。気のせいあればそれでいいのだが、もしも嫌な予感が当たっていたらと思うとライは気が気じゃなかった。


「はあ……はあ……」


 息を切らしてライは山の麓まで下りてきた。後少し走れば村だ。ライは少しだけ休憩を挟んで村へ戻る。


 村へと戻ったライはすぐさま父親の下へ向かう。父親は運よく家にいたので

 すぐに会うことが出来た。


「父さん!」

「ライか。お前も山の異変を感じ取ったか」

「うん。今日はいつもより静かだった。それに動物の姿がない」

「ああ。それに鳥もな。これは何か良くないものが山にいるのかもしれない」

「まさか、魔物が?」


 魔物とは人を襲い害をなす存在だ。しかも、動物なども食らうので現れたらすぐに討伐しなければならない。しかし、魔物は普通の動物とは違い頑強な肉体を有しているので、そう簡単には討伐できない。だから、普通の人間では倒せないのでお金を払って兵士を呼ぶしかない。


「かもしれん。一応村長には話をしておいた。だから、しばらくは山に入るな」

「わかった。でも、食料はどうする?」

「それについては問題ない。お前が俺と一緒に狩りをしてくれているおかげで備蓄はある。一か月程度なら問題ないさ」

「そっか。わかったよ。なら、しばらくは畑仕事でも手伝ってくるよ」

「ああ、頼む。俺は他の者達と相談してどうするか決めてくる」


 父親と話し終えたライは母親がいるであろう畑の方へ向かった。畑に着くと、そこには母親を含めた複数の女性陣が畑仕事に勤しんでいた。ライは母親を見つけて歩み寄り、声を掛ける。


「母さん」

「ん、ライ? どうしたの? 今の時間は山に入ってるはずなのに」

「ああ。その事なんだけど山の様子がいつもと違ったんだ。それで一旦父さんと話して、しばらく山には入らないことにした」

「あら、そうなの? じゃあ、畑仕事を手伝いに?」

「うん。何か手伝うことある?」

「それじゃ、あそこにある野菜を運んでくれないかしら? 結構重たいのよ」

「わかった」


 言われるままにライは母親の手伝いをした。山積みになっていた野菜を種類ごとに分けて荷車に積んだ。


 そのように母親達の仕事を手伝っていると、全身の毛が逆立つほどの悪寒が走った。


「なんだ……!?」


 周囲を見渡すが何もおかしなことはない。しかし、確かに嫌な感じがするライは村の中心へ走った。


「なッ……!」


 村の中心には見たこともない男、いいや、異形の存在が立っていた。額から二本の角を生やして、背中から蝙蝠のような翼を生やしていた。

 それは、いつか御伽噺で聞いた魔族・・に類似していた。いや、類似していたというよりは魔族そのものだった。


「ま、魔族……」


 魔族は魔王軍として人類と戦争を繰り広げているので、ライが住んでいる辺鄙な村には来るはずもない。それが、どうしてこのような村に来たのか。ライは恐怖に足が震えて動けない。


「ふむ……。果たしてここにあるか」


 魔族は何やら探し物があるようで首を傾げていた。キョロキョロと首を動かし魔族は第一村人を発見する。幸いなことにライではなかった。魔族に見つからなかったことに安堵したライはホッと胸を撫で下ろした。


 見つからなかったライは建物の物陰に隠れて様子を見ることにした。飛び出したところで何か出来るわけでもない。ライはただの村人なのだから。


「そこの人間。お前に訊きたいことがある」

「ひっ……」

「そう怯えるな。と言っても無駄か……。おい、質問に答えなければ殺すぞ」

「は、はいぃ!」

「それでいい。では、訊くが人間よ。お前は聖剣を知っているか? もしくは魔剣でもいい。何か知らないか」

「し、知りません! 何も!」

「そうか。では、誰か知っていそうな者を知っているか?」

「え、あ、誰も知らないと思います」

「…………ここも外れか。やれやれ、あとどれだけ探せばいいのだ」


 肩を竦める魔族はこめかみを押さえて立ち尽くす。その後、すぐに魔族は質問をした村人に手の平を向けた。


「仕方がない。殺すか」

「え……ッ! さっき、殺さないって!」

「あれは質問に答えなければと言ったはずだが?」

「し、質問には答えましたよ!」

「ああ。そうだな。だが、私の欲する情報は持っていなかった」

「だ、だから殺すと?」

「そうだ。それに生かしておけば私の事を国に報告するだろう? それは困るのだ。だから、殺す。勿論、村人全員だ」

「なっ、なっ、なぁっ!!!」


 あまりにも理不尽な言葉に村人は怖気づき尻もちをつく。腰が抜けたようで立ち上がることが出来ずに、ずりずりと後ずさるが魔族からは逃げられない。


「では、死ね」

「や、やめ――!」


 逃げようとしていた村人に向かって魔族は無慈悲に魔法を放った。人を簡単に飲み込むほどの大きさの火の玉を放ち、村人を一瞬で塵へ変えた。

 それを目の当たりにしていたライは物陰に身を隠して必死に声を押し殺していた。恐怖で足が震え、背中には嫌な汗をかいている。死にたくないと本能が訴えておりライは魔族の姿をもう一度確認して駆け出した。


「(母さんの所へ行って、それから父さんの所へ!)」


 兎に角、逃げなければとライは考えて母親の下へ走った。

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