第4話 分岐点

 ライが十三歳を迎えた時、村に二人の兵士がやってきた。いったい何事なのかと慌てふためく村人達であったが、村長が代表して兵士と話し合う。


「このような辺鄙な村に何用ですかな?」

「貴方が村長でしょうか?」

「そうですが、まずはこちらの質問に答えていただきたい」

「それは失礼した。現在、我々人類と魔王軍が戦争していることはご存知だと思いますが、劣勢を強いられているのです」

「それは、まさか徴兵ということでしょうか?」

「いえ、そうではありませんが似たようなものです」

「一体どういうことですか?」

「こちらの水晶玉を使って戦える素質のある者を育成したいのです」


 そう言って兵士が取り出したのは水晶玉。片手に収まる程度の水晶玉であった。


「見たことありませんが、それはなんなのです?」

「これは人間が持つ闘気オーラを測るものです」

「申し訳ありません。世俗には疎いもので闘気とは一体なんなのでしょうか?」

「簡単に説明しますと、魔族が使う魔力と似て非なるものでしょうか。魔族は魔力を用いて魔法を使いますが、我々人間は闘気を用いて身体能力を向上させたりするのです」

「はあ。なんとなくわかりましたが、それが我々にもあると?」

「ええ。人間には大なり小なり闘気があります。それをこの水晶玉で測るのです。ただ、個人差があります」

「個人差? それはどのように判別するのですか?」

「色に分けられます。まず白色、次に青色、その次に緑色、さらに黄色、そして赤色と続きます。赤色を超えますと、銀色、金色となりますね。白が最低で金が最高となってます」

「なるほど。つまり、これから我々の闘気を測るというわけですか」

「理解してくれてありがとうございます。とは言っても、戦力になりえるのは最低でも緑からです」

「どうして緑色からなのですか?」

「魔族は人間より頑丈で生命力が高いのです。奴らを確実に殺すには緑以上の闘気がないと難しいのですよ」

「そういうことですか……」

「しかし、闘気は成長します。もっとも、村長のように高齢であると難しいでしょうが……」


 その時、兵士は集まっていた村人達の中にいる子供達を見つめる。


「子供であれば鍛えれば鍛えるほど伸びます」


 子供達から視線を村長に戻して兵士が笑みを浮かべたのを見て、村長は目を見開いた。


「年端もいかぬ子供らを戦場に連れていくおつもりですか!」

「それはこれから決めることです」

「お待ちください、兵士様。この小さな村には子供が少ない。あの子達を連れていかれると村が滅んでしまいます!」

「ご安心を。まずは闘気を測ってからです」

「な、なにもこのような小さな村ではなくともいいではありませんか!」


 兵士を説得しようと村長が縋り付くが、兵士は村長を引き剝がして村人達に闘気を測るように命令を出した。


「貴方達に拒否権はない! もし拒むなら、それは国への反逆とみなし、その場で処刑する!」


 従わなければ殺されると聞いた村人達は騒然とする。そして、子供のいる家庭は子供を強く抱き寄せる。


「さあ、これから順番に闘気を測っていただきます。こちらも手荒な真似はしたくないので指示に従ってください」


 戦う力を持たない村人達は兵士の言葉に従うしかなかった。


 一人ずつ水晶玉に触れて兵士の言葉に従い、闘気を測っていく。最初は大人からで次に子供。小さな村なのですぐに大人の方は終わる。

 そして、子供達の番が来た。大人と違って少しだけワクワクしているようで目を輝かせていた。


「……やはり期待は出来ないか」


 元々、この村に兵士が来たのはダメもとだった。小さな村だ。優れた戦士などいるはずもない。


「こ、これは!」


 水晶玉を持って子供達の闘気を測っていた兵士が驚きの声を上げた。その声を聞いていた兵士が駆け寄り、何があったかを確かめる。


「どうした! 何がった!」

「この子は緑です! 緑色の闘気です!」

「なんだと! 君、名前は?」

「え、えっと、アルです……」

「アル君! 君の素質は素晴らしい! 我々と共に来てもらえないか?」

「え、あ……」

「悩むのは仕方がないことだ。だが、考えてみてほしい。もし、魔王軍に我々が敗北したら君の家族はどうなると思う?」

「そ、それは……」

「そう、君の想像通り。殺されるだろう」

「ッ……」

「そうさせないためにも我々と来てもらえないか?」


 子供のアルにとっては卑怯な手であった。断れないような思考に陥らせて、選択肢を狭められたアルは少しだけ悩んだが、兵士の目をまっすぐ見据えて返答した。


「わかりました。俺でよければ」

「おおっ! ありがとう! 君の勇敢な決断に我々は祝福しよう!」


 アルの手を取り、大げさに喜ぶ兵士。それを見てアルは自分が間違っていなかったと胸を撫で下ろした。


 しかし、兵士の驚愕はまだ終わらなかった。


 ミクもアルと同じく緑色の闘気を持っていたのだ。


「す、素晴らしい! まさか二人も現れるなんて!」


 ダメ元で来てみれば、まさか素質のある子供が二人もいたのだ。その喜びようは計り知れないだろう。


「君の名前はなんというのかな?」

「ミ、ミクです……」

「そうか、ミクちゃん。女性であっても前線で活躍している人はいるから安心してほしい。だから、君もどうかな?」

「アルと一緒なら……」


 それを聞いた兵士はアルを見返す。そして、二人が特別な関係だと見抜いた。


「ああ、わかった。君とアル君は一緒になれるよう便宜を図っておくよ」

「あ、ありがとうございます!!」


 それからも子供達の闘気を測ったが、二人以外にはいなかった。そして、最後にライの番がやってきた。


「さあ、君で最後だ」

「は、はい」

「緊張しなくていい。この水晶玉に触れて光れと念じるんだ。そうすれば水晶玉が光り、君の闘気を示すだろう」


 兵士に言われた通り、ライは水晶玉に触れて光れと念じた。


「ん?」


 しかし、光らない。一向に光らない水晶玉を見て兵士がおかしいと首を捻る。


「君、真面目にやってるのかね?」

「や、やってます!」

「ふむ……。少し待っててくれ」


 兵士が水晶玉をライから離して、自身で試してみた。すると、黄色に光り水晶玉が壊れてないことを確認した。そして、もう一度ライに水晶玉を触らせて闘気を測るように命じる。


「じゃあ、もう一度試してくれるかな?」

「はい」


 やはり、光らない。兵士はこれで確信した。ライには闘気がないことを。いや、もしかしたらあるのかもしれないが極端に少ないだろう。それでは、何の役にも立たないので兵士はライを見限った。


「もういいぞ。これで村人全員終わったな」


 ライの闘気を測り終わった兵士は、もう一人の兵士と合流する。二人の兵士はアルとミクの両親の下へ向かい、二人を後日迎えることを告げた。二人の両親は断ることも出来ず、ただ涙を流して崩れ落ちた。


 兵士が去っていき、アルとミクは両親の下へ向かい話し合っているのを見ていたライは声を掛けることもできず、両親の下へ向かい家に帰っていった。

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