第3話 愚痴を言う

 先日、両親にこっぴどく怒られたライは幼馴染の二人に会っていた。アルはライが振られたと知っており心配そうにしていたが、振られた時は放っておいてくれと約束していたので普段のように接した。


「よう、ライ。お前、昨日家に帰らなかったんだろ? どこ行ってたんだよ」

「秘密に決まってんだろ」

「なんでだよ、教えろよ~」


 いつものノリで話す二人にミクが割り込む。


「もう~! ライってば心配させないでよ。昨日家に帰っていないって聞いてずっと探してたんだよ?」

「そ、そうなんだ。それはごめん」

「全く……。なんともなかったから良かったけど。次は絶対許さないからね」

「あ、ああ」


 心配してくれるのは嬉しいがミクはアルと付き合っていることを知っているライはただ辛かった。何も知らなかったら喜んでいたが、今は二人の側にいるのが辛い。

 だから、ライは適当に話を切り上げて昨日見つけた聖剣と魔剣の所へ向かおうとする。


「悪い。二人とも。俺これから行く所があるんだ」

「どこに行くんだ?」

「それは言えない。でも、昨日と違って夕方には帰ってくるよ」

「それなら私達も付いて行っちゃダメ?」

「ごめん。それはダメなんだ」

「どうして?」

「それも教えれないけど……」


 食い下がるミクに困ったようにライはアルへ目を向ける。ライが助けを求めているのがわかったアルはミクをライから引き離すように自身の側へ寄せた。それを見たライは少しだけイラついたが、二人は付き合っているので自然な事だと納得して落ち着いた。


「ほら、ミク。ライが困っているから、もうやめなって」

「え……。でも、昨日みたいに帰ってこなかったら……」

「大丈夫だって。ライが言ってただろ? 夕方には帰ってくるって」

「ああ。夕方には必ず帰るよ。だから、な?」

「うう~。わかった。じゃあ、ちゃんと帰ってきてね?」

「あ、ああ。わかった。ちゃんと帰ってくるよ」

「約束ね?」


「約束だ」とライは言えなかった。二人が体を寄せ合ってくっついてるのを見たライは、一刻も早くこの場から去りたかった。だから、曖昧な笑みを浮かべて駆け足でその場を去って行った。


「(見せつけてんのかよ! ふざけんな、ちくしょう!)」


 これから自分がいなくなる事で二人はイチャイチャするんだろうなと考えたら、余計に腹が立つライはさらに加速して聖剣と魔剣がある場所へ走っていく。


 先日偶然見つけた聖剣と魔剣のある場所へやってきたライは、全速力で走ってきたので息を切らしていた。


「ハア……ハア……」


 両膝に手を置いて息を整えるライ。ようやく呼吸が正常に戻ったライは近くに人がいないかを確認してから、岩山の亀裂に身体をねじ込んでいく。

 亀裂を通って洞窟へ再び戻ってきたライは一直線に聖剣と魔剣のある祭壇の元へ向かう。


 相変わらず聖剣と魔剣は優雅に優美に祭壇の中央に刺さっていた。それを見たライはささくれていた心が穏やかになっていくのを感じる。


「やっぱり綺麗だな……」


 近くまで来てライは二本の剣を触ろうともせずに、ストンとその場に腰を下ろす。それからライはしばらくの間、二本の剣を眺め続ける。


「……はあ」


 しかし、そう長くは続かなかった。ライは先ほどのやり取りを思い出して憂鬱そうに溜息を吐いた。


「なあ、聞いてくれよ……。さっきさ、ここに来る前にアルとミクに会ったんだ。あっ、アルとミクは俺の幼馴染な。今二人は付き合ってるんだけど、ミクがここに行こうとしたら付いてくるって言って困ってたんだ。それでアルに助けを求めたんだけど、身体を寄せ合って俺に見せ付けるようにしてさ! めっちゃ腹が立った。多分、今もイチャイチャしてるんだろうな……」


 聖剣と魔剣に愚痴を零して、顔を上に向けたライは少しだけ晴れやかな表情を見せる。誰かに愚痴を聞いてもらえるだけでも気が晴れる。それが少しだけ分かったライは、この日から時折愚痴を聖剣と魔剣に零すのであった。


 ◇◇◇◇


 二人が付き合い始めてから、ライの方も少しだけ変化した。三人で遊ぶ時間を減らして、父親の仕事である狩りを手伝ったり、母親の手伝いを積極的に行った。両親は二人と遊ばなくなったことに心配してライに声を掛けたが、ライから二人が付き合っていることを聞いて納得した。


 今までのような関係は厳しいだろう。ライが二人との時間を減らしたということは、二人を思ってのことだろうと両親はライを褒めた。それと同時に少しだけ憐れんだ。ずっと仲良しの三人だったのだ。一人だけ蚊帳の外にいるのだから、きっと寂しいと感じているだろうと。


 両親は少しでもライの寂しさを紛らわせてやろうと気遣った。ライも両親に気遣われることを知って嬉しさを感じる。聖剣と魔剣、それから両親が自分にはいるのだとライは前を向くことができた。


 もっとも、まだ失恋のショックは引きずっているが。


 それでも、自分は一人ではないのだと分かっただけで十分だ。ライは寂しさを感じながらも前向きに生きていく。


 それから、さらに月日が経った。ライが十三歳の誕生日を迎えた時、さらなる悲劇が襲うのだった。

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