第66話 魔王テネブリス
テネブリスの後方で、白骨の巨体が大地を揺らす音と共に崩れ去った。
目で見ずとも理解する。勇者の勝利であると。
「残りは貴様だけだ、レスティンギトゥル」
「テネブリスよ、随分と気が早いな。死というものは、今も世界のどこかで絶え間なく生まれている。死ある限り、我が魂が果てる事はないのだ……!」
「ふん……くだらん。私に敵対する者は誰であろうと潰す。それだけの事だ」
テネブリスはすらりと伸びた脚に力を込め、地面を蹴る。凄まじい脚力から繰り出される一瞬の接近。それに反応できなかったレスティンギトゥルは、絶大な魔力を帯びたテネブリスの拳を左肩部に食らう。
最大限に濃度を濃くした
(肩が……! くっ……!!)
左肩が粉々に砕けた事で、そこから下に伸びる骨腕も飾りのように、ただ宙にぶら下がっているだけだ。しかし濃度を上げた
「器用なものだ……だが
テネブリスは漆黒のマントをさっと払うと、まるで散歩をするかのようにレスティンギトゥルへ向かって歩き出す。その表情は暗く、そして冷たい。つけ入る隙もない悠然とした所作は、まさに魔王に相応しい。
迫りくる
「く、来るな……!! 霊位魔法――
「――
テネブリスが言い放った魔法――否、
「なっ…………!?」
「私の前では全てが消え失せ、全てが無意味。貴様の存在も、その怨念も、私にとってはただの愚物にしか過ぎぬ」
「……戯言だ!! 霊位魔…………!?」
レスティンギトゥルは魔法の詠唱を最後まで言わぬとも理解した。
彼が持つ魔力そのものが使えないのだ。それどころか、あらゆる負の魔力、怨念――
「理解したか? 私の視界に入ったあらゆる魔法、
「そんな力……七十年前には…………!」
「フフフ、それもそうだろう。何せ、そんな事をせずとも私の勝利は揺るぎなかったのだから」
テネブリスは弱者を
覆すことも敵わない絶対的な格の差。生まれながらにして未来永劫、魔王たる覇道が約束された者相手に、ただのまつろわぬ死者が少し牙を剥いたところで痛くも痒くもない。
そんな圧倒的な強者から浴びせられた絶望的な一言に、レスティンギトゥルは言葉を失う。
(またか…………また、負けるのか)
レスティンギトゥルは力なく立ち尽くす。
頭部を覆っていた
ただひとつ、後世にいつか生まれるであろう次の
「今生の情けだ。最後に一言聞いてやろう」
「くっ……くくくっ…………我が魂が滅びようと、この世界から死は消えぬ。これで終わりと――」
「――そうか、くだらぬ事を聞いた」
テネブリスは右手を天に掲げる。
全身から吹き出る黒き魔力が解き放たれると、テネブリスを中心に
そして放つ――この世界で数名しか使えぬ神の如き魔法を。
「招かざる禁忌の
暗雲立ち込める天空から、レスティンギトゥルが立ち尽くす地に向かって稲妻のような一筋の
全てを無に帰す
――そして黒霹が消えた時、レスティンギトゥルも世界から消えた。
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