後日談 新生ヒロインノエル

「なぁキング……みんな、どこ行ったんだろうな」

「ヒヒン」

「あっ兄貴ー! ヴィエラさんたちなら城で女子会だってー!」

「女子会……あ、はい」


 パーティーの男女比率的に自分が呼ばれないのも仕方ないなとノルドは諦めた。そんなノルドにライは苦笑いを浮かべて、あっそうだと何かを思いつく。


「それじゃあおれたちはおれたちで男子会しよう」

「男子会かぁ。いいな、何をするんだ?」

「買い食いとか?」

「はは、いつも通りだな」


 ヴィエナが元気になるまでライはずっと彼女の看病に付き合ってきたが、今はその看病も終わり暇だった。

 姉妹の仲を邪魔するわけにもいかず、ライはこうしてノルドに会いに来たのだ。


「こないだ食べた串焼きの店、今営業できるようになったからそこに行こう」

「そうだな。今日の昼はそこでいいか」

「ヒヒン!」

「おっとそうだお前も連れて行かないとな!」


 そうしてノルドは一人と一匹を連れ歩き――。


「――ノルド!!」


 そんな彼らの前に一人の女性がやってきた。


「うん?」


 急いで来たのか彼女は息を切らせて荒く呼吸をしていた。

 真っ白のワンピースに大きく主張するように膨らんだ胸。

 これだけだとノルドの記憶に知り合いはいない。


 しかし。


「……え?」


 だがその顔は。

 いくらか高くなったがその聞き覚えのある声は。


「……ノエル?」

「――お待たせ!」


 紛れもなく、ノエル・アークラヴィンスの物だったのだから。




 ◇




「行動力の塊……」

「一瞬で着替えて迷うことなく会いに行ったわね」

「ノエル……お姉ちゃん嬉しい……!」


 一方、遠く離れたところで女子会の面々がノエルたちの言動を見守っていた。

 ここにいる全員がノエルの悩みを知り、ノエルが元の性別に戻る手助けを決意した人たちだ。だからこそこうしてノエルの願いが叶えられ、ノエルのやりたいことを遠くから見守っているわけである。


 実態は他人の恋路を眺めるストーカーなのだが。


「……」


 そんな中、約一名だけ複雑そうな表情を浮かべていた。


「……さっきからサラがこんな調子なのじゃが」

「まぁ複雑なご関係だし……」

「……」


 ヴィエラとノンナがそう考えるが、実際はそうではない。


(似てる……)


 今のノエルの外見が誰かに似ているかは分からない。

 間違いなく初めて見た姿。なのにその姿がどうしようもなく似てると思ってしまう。それが無性に悲しくて、涙が出そうになる。


(――でも)


 楽しそうに笑うの姿を見ただけでサラは、どこか喜びを感じていた。




 ◇




「え、とノエル?」

「うん!」


 返事をするノエルは確かに自分の記憶の中にあるノエルと一致する。


 しかし。


 その記憶の中の姿とは違う大きい装甲が追加されていた。


「???????」

「ね、ねぇ……ちょっと見すぎ、かな?」

「あっすまん」


 咎めるように発する言葉だがその表情は赤く、まんざらでもない様子だ。


 そんな光景を見たライとキングは。


「ヒヒン」

「……なるほど」


 この時、キングとライは自分がお邪魔虫であることを察した。

 お邪魔虫はクールに立ち去るべきだ。

 そろり、そろりと静かに離れていくと。


「ヒヒン?」

「あっ」

『あっ』


 物陰でストーカー化していたヴィエラたちを見つけてしまった。


『……(フェードアウトした二人に対してグッジョブを送る)』

『……(強引に歓迎されて渋々自分たちも仲間に入る)』


 集団ストーカーの完成である。


 場面を戻そう。

 事の経緯をノエルから聞かされたノルドは目を丸くさせた。


「へー、そんな薬が……」

「うん! 違和感もないし、マナの通りがいい! この姿ならなんでも出来そうな気がするよ!」


 ノエルの感覚としては女体化したのではなく、元の姿に戻ったという感覚である。だからこそ男性体に違和感を感じていた物は全て解消され、かつてないほどの調子をノエルにもたらしていたのだ。


 嬉しそうにクルクルと回るノエルを見ていたノンナが呟く。


「たゆんたゆんしとる……」


 それに対して自分はなんだろう。

 すとーん! つるーん! ぺたーん!

 これが今のノエルと同性の姿か……? これが……?


「まさかの胸囲力トップに躍り出てくるとは……っ」


 胸の大きさで悩んだことも悔やんだこともないし、気に掛ける年齢でもないことは分かっている。人間換算で十歳なエルフなわけだし将来性は当然ある。

 焦る必要はない。

 そう、焦る必要はないのだが女性の体になったノエルに突如として格差を思い知らされるのは違うだろう。

 死角から放たれた裏切りのアッパーを食らったノンナは、生命の神秘を恨みながら涙を流した。


「ほらハンカチよ」

「うぐ、ぐすっすまぬヴィエラ……なんでニヤついておるんじゃ?」

「あら、哀れみの顔を浮かべていた筈なんだけど」

「喧嘩か? 喧嘩を売っておるのかこの脂肪組が!!」


 因みに今のノエルの次に大きいのはヴィエラである。

 もちろん、何がとは言わないが。


 わーぎゃーと器用に静かに騒ぐ二人をよそに、ノエルがついに動いた。


「……ねぇノルド」


 ぐいっと懐に入り下から上目遣いのコンボ!


「僕とデートしようか!」


 そしてトドメの可愛い声だー!!


『!?』


 聖術強化による聴覚で聞いたストーカー組、戦慄!!


「なんじゃあの行動力……!? 大胆過ぎるッ!」

「きっと内なる乙女が解放された結果よッ!」

「んほはああああああ!! かわいいいいい! 妹かわいいいい!!」

「こんな女王様みとうなかったですぅ……」

「デート……」


「もうお姉ちゃんたち放って遊びに行こ、ライ!」

「いいよ」

「じゃあ私も一緒に行くわね」

「ヒヒン」


 流石にこれ以上は野暮だと感じた良心組はストーカー組から離れていった。


 かくして、ノエルは念願のデートを始めたのだった。

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ラブマックス・フルパワー・ウォーリア 〜幼馴染に恋する戦士〜 クマ将軍 @kumageneral

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