第13話≪友への告白②≫

 エリナからファンクラブについてあれこれ聞いた後、ふと自分の鞄に入れた手紙のことを思い出した。


「それから、これ見て欲しいんだけど……」


 ユンヌは、鞄から手紙を取り出し、エリナに見せた。


「これ、今朝とど──」

「どぇぇぇえええ!!!」


 食堂に本日三回目のエリナの声が響いた。

 流石に、他の生徒達も3回目まで来ると慣れたらしく、もはやこちらを見向きもしなかった。

 驚きのあまり立ち上がったエリナは、手紙を見つめたまま椅子に座り直した。


「え、エリナ?」

「……こ、こ、これ、どうしたの?」


 かなり動揺している様子だ。

 エリナがこんなにも動揺するということは、また何か凄いものということなのだろうか。

 とりあえず、手紙についてユンヌは説明することにした。


「今日の朝、窓を開けたら部屋にこれが小鳥の姿で届いたの。私宛なんだけど、封筒に差出人の名前が無くて…」

「中には!中には何て書いてあったの?!」

「ええと、今日の昼に、そこの温室で待ってるって書いてあったよ」


 テラスを見ながらそう言うと、エリナは大きな溜め息をついた。


「ねぇ、ユンヌ。食堂横のあの場所って何か知ってる?」

「ううん、知らないよ。食堂の一部じゃないの?」

「食堂の一部と言えばそうだけど、でもあそこは特別な場所なんだよ」

「ま、特別って程の場所でも無いけどな」


「「わっ!」」


 急に会話に割り込んできた声に驚いた二人。

 後ろを振り返ると、そこにはジュンが立っていた。


「ジュンさん!お、おはようございます!」


 ユンヌは、慌てて挨拶をする。


「おはようさん!驚かせるつもりは無かったんだが……、とりあえず元気そうで何よりだ。お、そっちはユンヌの友達か!初めましてだな、名前は何て言うんだ?」


 ジュンに声をかけられたエリナは、目をぱちくりさせ固まっていた。

 まさか、あの|ⅩⅠ(ジャック)に話しかけられるとは思っていなかったのだろう。


 入学して間も無いというのに、日頃から|生徒会役員(ナンバーズ)や学園内の情報に何故か精通しているエリナ。

 そのターゲットである学園の有名人の一人が目の前にいて、そして声をかけられたのだ。

 嬉しさと感動、緊張、動揺で思考停止するのも無理は無い。


「ん?どうした?俺、何か変なこと言ったか?」

「ああ、違います!ちょっと混乱してるだけですから。エリナ、エリナってば!しっかりして!」


 そう声をかけると、エリナはハッと我に返ったようだ。


「あ、す、すみません。まさか、あの|ⅩⅠ(ジャック)に声をかけてもらえるなんて思わなくて…。私、ユンヌと同じクラスのエリナ・シーズと言います。よ、よろしくお願いします!」


「驚かせてごめんな。よろしく、エリナ。もう知ってるとは思うが、俺はジュン・ステイル。気軽にジュンさんって呼んでくれ。|ⅩⅠ(ジャック)だの先輩だの、あんまり気にすること無いからな。それに、ユンヌの友人は俺達の友人でもあるし!」


 ジュンは手を差し出し、エリナと握手を交わした。

 エリナは握手された手を見て、「握手しちゃったよ…どうしよう、明日死ぬんじゃないかな……」と、やや放心状態。

 そして、ジュンは「ちょっと邪魔するぜ」と言い、ユンヌの隣に座った。


「今日さ、ミラの機嫌を損ねちまって、朝飯食い損ねたんだよ。それで食堂に来てたんだが、ここでお前に会えたのはラッキーだった。確認したいことがあったんだが──」

 

 しかし、机の上に置かれていた手紙を見ると──。


「お、ちゃんと届いてたんだな!これを確認したかったんだ!俺さ、お前の部屋知らないし、正直届くがどうか心配だったんだよ。いやぁ、良かった良かった!」と満足そうに言った。


 まさか、ここで手紙の差出人が判明するとは思わなかった。

 だが、全く知らない人からではなかったことに、ユンヌは少し安心した。


「これ、ジュンさんが出したものだったんですね。差出人の名前が無かったから、ちょっと怖かったんです」

「送ったのは俺だけど、中の手紙は俺じゃないぜ。あれ、名前書いてなかったのか?」

「はい、書いてなかったです」


 ユンヌは、ジュンから送られたものだと思っていたが、会話の内容的に違う人であることがわかった。

 差出人は、一体誰なのだろうか。


「その手紙、なんだけど…、もしかして差出人は|ⅩⅢ(キング)からのものじゃない?」


 放心状態から復帰したエリナが口を開いた。


「え…?」

「さっき言おうと思ってたんだけど、言いそびれちゃって。その封蝋、たぶん間違いじゃなければ今の三皇を示す印、ですよね?」


 エリナは、ジュンに確認の意味を込め視線を送った。

 私は再度手紙の封蝋を見直す。

 封蝋には三つのレリーフが刻まれていた。一つは歯車、次に薔薇の花、そして最後に剣である。


「よく気がついたな。恥ずかしいからあんまり説明したくないんだが……。そのレリーフの歯車は俺、薔薇の花はミラ、剣はうちの王様を表してるんだ。だから、この封蝋は俺らからの物だっていう証明みたいなもんなんだ。ちなみに、その手紙は、うちの王様からお前宛の手紙だぜ」

「|ⅩⅢ(キング)から…私に?」

「確か、昼にあの場所に来いって書いてただろ?」


 ジュンは、手紙の内容を知っていた。

 |ⅩⅢ(キング)がジュンに送らせたのだから、知っていて当然かとユンヌは思った。


「はい、その通りなのですが…。あの、私もう|Ⅰ(エース)は断ったのに、どうして呼ばれるんでしょうか?」


「とりあえず、話があるとは言ってた。前みたいに部屋まで来るのも大変だし、昼に食堂でやったほうが良いだろうってことでテラスに集合なんだと思う。俺達、いつも昼はあそこを使ってるから、別に特別な場所でもなんでもないぜ。断ったつもりでいるのだとしたら、たぶんそれは間違いだな。じゃなきゃ、手紙まで送ったりしないだろうし。ま、俺的にも断ってほしくないが、無理強いさせることでもないしな。本当に断りたいなら、今日しっかり言うべきかもな」


 正直な所、ユンヌは|Ⅰ(エース)になることを断ったつもりでいた。

 しかし、改めて思い出してみると、はっきりとは断っていないどころか、ただ自分が相応しくないと思う理由しか言ってなかったことに気がついた。

 それに、途中で|ⅩⅢ(キング)の話を遮ってしまった。

 その遮った時の話の続きを、今日の昼にするつもりなのだろうかとユンヌは予想した。


「昼になったら、たぶんミラがお前を迎えに行くはずだ。一人が嫌なら、エリナも連れてきて良いぜ。一人増えたところで別に問題無いだろうし。教室は1-Dで合ってるよな?」


 ジュンは淡々と会話を進めていく。


「はい、合ってます」

「オッケー!じゃ、また昼に会おうな~」


 ジュンは、ひらひらと手を降りながら去っていった。


「エリナ、一緒に行こうね…?」

「わ、わかった……」


 何とも言えない緊張感に包まれる二人。そのまま無言で味がよくわからなくなった朝食を食べ、食器類を片付けて教室へと向かった。

 教室へ向かうまでの間、私は、どんな顔で何をどう伝えるべきか考えていた。でも、全く思い付くことはなく、ただただ気が重くなるだけだった。




 食堂を出ていくユンヌを見つめる人影が二人。


「あれが、そうなのね」

「えぇ、その通りですわお姉さま。あの左にいるのが例の……」

「そう…あの子が。いずれご挨拶をしなければ……ね」


 そして人影もまた食堂を去っていった。

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キングスメイト〜精霊術士の学園生活〜 暁 陽 @y-akatuki_4

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