第12話≪友への告白①≫
「お待たせ!」
扉を開けるとエリナが待っていた。
「ユンヌがもう準備できてたなんて、本当にビックリしたよ~。じゃあ行こっか!今日のメニューはなんだろね」
エリナは、いつもと変わらずに接してくれている。そのことがユンヌを安心させた。
昨日の一件により、移動中は常にすれ違う生徒全員からじろじろと見られていた。
しかし、エリナが隣にいて他愛の無い話をしてくれたお陰で、それらはあまり気にならなかった。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
食堂に着くと、エリナは早速荷物を置いて朝食のメニューをチェックしに行った。ユンヌも少し遅れてメニューを見に行こうとした時、
「ちょっと、あなた邪魔よ!」と、女子生徒に言われ突き飛ばされてしまった。
「っ……!」
食堂の入り口で、ユンヌは盛大に尻餅を付いた。
「ふん、前見て歩きなさいよね」
「そうよ、先輩には道を譲るもんでしょ?」
「これだから調子に乗ってる人って嫌だわ」
ユンヌにぶつかってきた三人の女子生徒達は、そう口々に言い去っていった。
女子生徒達が去っていくと、すぐにエリナが駆け寄ってきて、「ユンヌ、大丈夫?」と声をかけてくれた。
ユンヌは「私は平気だよ、ありがとう」と返し、エリナの手を借りて立ち上がった。
「自分達からぶつかっておいて……。ひどい先輩達だよ、全く」
「私も前をちゃんと見て無かったから……」
「ダメだよ!違うなら違うって言わなきゃ!」
「う、うん、次は頑張るね」
「うむ、よろしい。じゃあ、メニュー選ぼう!」
こんなにも頼もしい人が、自分の友人で本当に良かったと思った。
だからこそ、ユンヌは、昨日、自分に起きたことはちゃんと伝えなければと思った。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
朝食を乗せたトレー手に席に戻ると、食堂の横のテラスが目に入った。
食堂と繋がっているはずなのに、その空間だけ別の建物の様に見えた。まるで、物語の中に出てくる城の庭園のようだ。
あのテラスは、今朝の手紙で指定された場所なのだろうか。
ぼーっとそちらを見ていると、エリナもトレーを持って戻ってきた。
「あー、お腹すいた!いただきます!」
一言言うと、エリナは朝食を食べ始めた。
ユンヌも、いただきますと言い、朝食に手をつけた。
(よし……伝えよう)
「エリナ、あの、あのね、聞いてほしいことがあるの。長くなると思うけど……聞いて、くれる?」
ユンヌは、恐る恐るエリナに聞いた。
すると、エリナは食事の手を止め、顔を上げた。
「……うん、良いよ。聞いてあげる。でも、包み隠さず話して。ずっと……言ってくれるの待ってたんだからね?」
「……っ、ありがとう!言うの遅くなってごめんね」
そして、ユンヌは朝食を食べながら、エリナに昨日の出来事を包み隠さず打ち明けたのだった──。
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「なるほどね……。要約すると、あのイケメンな王様……じゃなくて|ⅩⅢ(キング)に|Ⅰ(エース)に選ばれて、歩けなくなったからお姫様抱っこされて、紅茶をご馳走になり、精霊を紹介し、怖い先輩から逃げ、結果また|ⅩⅢ(キング)に抱き止められ、走って逃げてきた……と」
「うん……」
「……、ほんとに?」
「……うん……」
「……ほんとにほんと?」
「うん……本当だよ」
しばらく二人の間に沈黙が流れた。
その沈黙を破ったのは、エリナだった。
「…………ぁぁぁぁぁぁあ!!!」
エリナの叫びが食堂に響いた。周囲の生徒達は何事かとこちらを見ていた。
「え、ちょっと、エリナ?」
ユンヌがエリナに声をかけると、エリナはテーブルから身を乗り出してきた。
「私が居ない所で!そんなことになってたなんて!見逃したのが悔しいっ、そして羨ましいっ!」
「えぇ!?」
エリナの発言に、ユンヌはとても驚いた。
「私、それなりに情報通だとは思ってたけど、今聞いてもうびっくり!ユンヌ!あんた、事の重大さをわかってる?!ヤバいよ!?」
エリナは、姿勢を戻したものの、やや興奮気味で話を続けた。
「良く聞いて。私達新入生って、先輩達との交流がまだ無いでしょ?それなのに、入学早々|Ⅰ(エース)に選ばれて、さらに|王の部屋(シークレットルーム)にまで招かれてる。ユンヌは王様と面識無いんだから、普通に考えてここまで関われること自体おかしいの。つ!ま!り!特別扱いされてるってことなの、わかる?」
「特別扱いされてると言われても……、ただ、事の成り行きで部屋に行っただけで、そんなことなかったと……」
「成り行きだけで、部屋に連れて行くわけ無いじゃない!もう十分特別扱いされてるの!……今の話、ファンクラブが聞いたら黙ってないよ……」
「ファンクラブ?何それ?」
「知らないの?学園のトップ、|ⅩⅢ(キング)、|ⅩⅡ(クイーン)、|ⅩⅠ(ジャック)の三名には公式のファンクラブがあるの。そのファンクラブには掟があって、独り占めをしないこと、抜け駆けはしないこと、情報は皆で共有すること、必ず対象者と接する時は二人以上で接することとか色々決まりがあるの。だから、今回の一連の事は、ファンクラブ的には掟破りでもう敵視されてもおかしくないんだよ!いや、もう確実にブラックリスト入り間違いないわ……」
「ブラックリスト入りって……、そんな大袈裟な……。」
「ある人は不登校になるまで精神的に追い詰められたらしいよ。またある人はポストに毎日呪いの手紙を届けられたって言うし……。ファンクラブはこの学園内では1番の脅威と言っても過言じゃない。だから、何事もなく生活するには、目を付けられないようにするのが鉄則なの」
「でも、私|Ⅰ(エース)にはならないって断ったし、関係無いよね?」
「え……、断ったのーーーーーーーーーっ!?」
エリナの大きな声が、また食堂中に響く。
「ちょ、ちょ、ちょっと何で断ったの?王様からの指名だったんでしょ?!」
「そうだけど、私みたいなのは、きっと|生徒会役員(ナンバーズ)には相応しくないと思うから……」
(それに、私には約束が……)
「でも、王様権限で好きに任命できるって言ってたし。それって本当に断れたの?」
「……断われたと、思う……多分?」
そう言われると、はっきりと言い切る自信が無い。
ユンヌは、改めてあの時のことを思い出したが、はっきりと断っていたような……、ただ一方的に伝えただけだったような気がしてきた。
「きっと大丈夫……断れてるはず。だから、私|Ⅰ(エース)じゃないし、ファンクラブの人達から何か言われることも無いよね?」
「うーん、全く無いとは言い切れないけど。気を付けるに越したことは無いんじゃない?さっきみたいに、転ばされたりするかもしれないし。何かあったらすぐに言うんだよ!」
「うん、ありがとう、エリナ」
エリナから聞いたファンクラブの存在。昨日の事で既に目を付けられてる可能性がある、とエリナは言っていた。
確かに、掟と呼ばれている物の内容を聞く限り、ほぼ破っているなとユンヌは思った。
しかし、そもそもユンヌ自身ファンクラブに入ってない。
だから、自分には関係無いと思っていた。
それに、昨日はほとんどが不可抗力で起きた事なのだから……と、その時は思っていた。
しかし、その考えは甘かったのだと後に痛感させられる。
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