第5話 『どっちを選んでもバッドエンドじゃないか……』
俺は先生の指示通り、生徒会室に向かっていた。
「待って、四宮君!」
後ろから声をかけられ振り返ると、桜井がいた。
前髪をまとめているヘアピンが名前と同じで桜の模様をしている。
春の陽光のような眩しい笑顔に周囲の男性・女性問わず桜井に視線を向ける。
「先に行ったんだと思ってた」
「ごめんね。実は部活の顧問の先生に断りを入れておきたくて。ほら、これから実行委員の仕事で忙しくなるかもでしょ」
「なるほどな。桜井はテニス部だっけ?」
「そうだよ。四宮君は部活に入ってないの?」
「面倒くさいからな。帰宅部だ」
「テニス部に入ってみたら? 楽しいよ」
桜井の明るい表情にむげに断るのはいけないと思い、無難な答えを返した。
「まあ、考えておくよ。まずは実行委員の仕事を頑張らないとな」
肯定したわけではないが、桜井は明るい声音で、
「うんッ!!」
※
生徒会室の前に着くと、見覚えのある男子生徒が立っていた。
確か、生徒会長の雨宮 誠だった気がする。
俺達に気付いたのか、雨宮生徒会長は眼鏡越しに優しい視線を向けてくる。
「こんにちは。実行委員かな?」
「はい、桜井美優と申します」
「四宮歩です」
「桜井君と四宮君だね。四宮? ……なるほど冬香君のお兄さんか」
そのタイミングで冬香が廊下の向こうから歩いてきた。
冬香は軽く雨宮生徒会長に会釈だけすると、生徒会室に静かに入っていくのだった。
※
「集まるのは初めてだから自己紹介をしよう。まず、僕は雨宮誠。この学校で生徒会長を務めている。1年生も何か分からないことがあったら、なんでも相談してほしい」
正直、生徒会長というのはプライドが高いという偏見を持っていたが、雨宮生徒会長はそうではないらしい。
こういうタイプの人間は非常に親身に物事を教えてくれる。
そんなことを考えていると、他の生徒会メンバーの紹介も行われていた。
「みんな、良い人そうだね」
「そうだな。生徒会ってプライドの塊だと思ってた」
「言い方、言い方。四宮君、ときどき口が悪いよ」
自分でもなんとなく自覚はあるが、はっきりと言われると傷つくな。
そうこうしているうちに生徒会の紹介は終わり、実行委員の自己紹介が3年生から始まった。
そして2年生の番になり桜井が席を立つ。
「はじめまして。桜井美優といいます。実行委員は初めてなので迷惑をかけることも多いかもしれませんが、よろしくお願いします」
ひときわ大きな拍手が2年生の男子生徒をはじめ、多くの生徒から送られる。
人気の生徒の紹介の後に出番が来るのは辛い。
「四宮歩です。よろしくお願いします」
パラパラと拍手が上がる。
…………軽く死にたい。
※
一通り自己紹介が終わり、雨宮生徒会長は話を進める。
「今回は文化祭までの流れと文化祭実行委員の役割を説明した後、文化祭実行委員長を決めたいと思う」
この高校の文化祭はクラスの団結力をはかる目的で春に文化祭を行うらしい。
毎年、お化け屋敷や露店などオーソドックスなのをはじめ、参加型クイズ大会など様々な催しがあり、文化祭実行委員と生徒会は協力して準備を行う。
また、実行委員主導のもと体育館で大規模なイベントを実施するらしい。
「ザックリとした説明は以上だ。初めての集まりだから、最初は役割分担を行っていく。文化祭実行委員長に立候補したい人はいるかな?」
文化祭実行委員長は生徒会と実行委員の間で情報をやり取りする場合、その橋渡し的な役割を果たす必要があり、仕事量は他の実行委員と比べ非常に多い。
そんなの内申目的じゃないと誰もやりたがらないだろ。
しかし、あっさりと決まってしまう。
「実行委員長やりたいですッ!」
一番最初に手を挙げたのは桜井だった。
桜井はやる気が人一倍あるとは思っていたが、まさか委員長に立候補するほどとは思えなかった。
「桜井君が立候補したが、他にやりたいという女子はいるかな?」
雨宮生徒会長は部屋全体を見渡すが、誰も手を挙げようとはしない。
「女子は桜井君に頼もう。よろしく」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
「次は男子だが……」
2年生男子を中心に多くの男子生徒が立候補するために手を挙げる。
なかには受験を控えて忙しいであろう3年生までいた。
桜井の人気、恐るべし。
(俺に飛び火しませんように……)
しかし、予想外の人物が手を挙げたことで全員の視線がその人に集中する。
雨宮生徒会長も予想していなかったようで、
「何か意見があるのかな、四宮さん?」
そう。
手を挙げたのは男子ではなく、冬香だったのだ。
「女子が桜井さんに決まったので、私から意見があるのですが、よろしいですか?」
雨宮生徒会長は静かに頷く。
冬香は資料に目を落としながら、
「男子の実行委員についてですが、私は四宮歩さんにお願いしたいと考えています」
「ハッ!?」
下に向けていた視線を上に引っ張り上げ、俺は驚きの声を上げた。
冬香はキッと睨みつけてくる。
何も言うな、という圧が凄まじく、俺は黙って冬香の意見を聞くことにした。
「例年、文化祭をとりまとめる役職が生徒会一名に割り振られます。今年は私が勤めることになりました。実行委員と連絡を取る際、主に実行委員長を通して行うことになります」
冬香の話をまとめると、他クラスに連絡とるの面倒臭いから、同じ2年8組である実行委員の2人に実行委員長を任せたいらしい。
つまり俺と桜井だ。
雨宮生徒会長は困った顔をしながら、
「四宮さんの意見ももっともだけど、立候補したい生徒もいる」
冬香はどぎつい睨みで部屋全体、主に男子を見ながら言った。
「浮かれた気分で立候補するような方々に実行委員長は任せられません」
『浮かれた気分』、というのはおそらく『桜井とお近づきになりたい』という邪念を指しているのは誰もが理解していた。
「浮かれた気分?」
桜井本人は気付いてないらしい。
冬香の意見、もとい威嚇で男子からは反論の意見も上がらず、手を挙げていた生徒は続々と下げていった。
雨宮生徒会長はため息をつきながらも、すぐに笑顔を俺に向けてくる。
「四宮さんの意見を聞いて、他にやりたい生徒がいないなら四宮君に任せたいのだが良いかな?」
もし、受け入れれば男子が、断れば冬香が何をしてくるか分かったもんじゃない。
受け入れても、拒否してもバッドエンドしか見えない。
ギャルゲーだって選択肢の片方はハッピーエンドに繋がってる物じゃないのか?
俺は頭の中で葛藤した結果。
「わ、わかりました……」
男子に対する恐怖より、冬香に抱く恐怖がまさってしまったのだった。
リトル・シスターズ 四宮マナ@異世界ファンタジー執筆中 @4038
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