第4話 『文化祭実行委員に四宮さんを推薦します!』
「これからクラス委員と文化祭実行委員を決めたいと思います。去年と同じように文化祭実行委員は今年一年のクラス委員も兼任してもらいます」
前で説明しているのは担任の先生ではなく生徒会に所属している冬香だった。
なにか決めごとをする際はクラス委員が行うが、まだ決まっていないので生徒会の冬香に一任されたのだ。
こういう決め事は先生主導でやればいいのに、と考えていたが、その考えは冬香の表情を見ていたら吹き飛んだ。
もともと冬香は整った顔立ちはしているものの、目つきが少し鋭く、曲がったことを好まない性格もあいまってか、一挙手一投足に生徒も背筋を伸ばしてしまう。
「では立候補のある方は手を上げてください」
ちなみに冬香は生徒会に入っているのでクラス委員はできない。
(冬香がやらなきゃ、誰がやるんだよ?)
最初は誰も手を上げないのではと思っていたが、冬香の質問の直後に手を挙げた女子生徒がいた。
「私、クラス委員と実行委員をやりたいですッ!」
「桜井さんですか。他に女子の方で立候補する方はいませんか?」
女子は誰一人手を上げない。
もし挙げたとしても、多数決で惨敗することは目に見えている。
それだけ桜井の信頼度は高い。
噂ではファンクラブもあるらしい。
「では、女子は桜井さんに頼みます」
クラスメイトから
俺もその一人で桜井になら実行委員を任せられるので、素直に拍手をした。
「それでは男子の方で実行委員をやってもいい方はいますか?」
この調子だとすぐに男子からも、桜井のお近づきになろうと手がたくさん上がるだろう。
しかし、俺の予想に反して誰も手を挙げようとしない。
前の席に座っていた和樹が後ろを向いて話しかけてくる。
「きっと面白いことになるぜ」
「なんだよ、面白い事って?」
「まあ、お楽しみってところだな」
「っていうか、和樹がやればいいんじゃないか?」
「もう勘弁。去年は生徒会副会長さんが一人で何でもやって、俺の立つ
生徒会副会長とは冬香のことで、去年実行委員になった和樹だったが、上手くやれなかったらしい。
「佐藤さん、に……、四宮さん。意見があるならどうぞ」
「い、いえ。何でもありません、副会長様」
調子の良いことを言う和樹を睨みつける冬香が怖すぎて、俺たち二人は黙り込んでしまう。
しばらく男子のほうから手が挙がることはなかったので、
「立候補される方がいないということで、推薦したい方がいましたらお願いします」
すると男子のほうからビシッと手が挙がる。
正直、立候補するって話ならその手の挙げ方は、男子一同にとっての勇者なのだが。
これから起こるのはみっともない実行委員の押し付け合いだ。
俺とて他人事ではない。
「黒瀬さん、どなたを推薦しますか?」
黒瀬、そんな奴もいたのか。
まあどうでもいいけど。
「はい、自分は四宮歩さんを推薦したいです」
どうでもよくなかった。
冬香は眉をひそめながら、
「どうしてにいさ……、こほん、四宮さんを推薦するのですか?」
黒瀬と呼ばれた男はハッキリと述べる。
「四宮歩さんは勉強熱心、運動能力抜群なうえに、掃除の時間なども一切ふざけずに取り組む人です。周囲からの人望も厚い、そんな人だから推薦しました」
……。
黒瀬という男は何を言っているのだろうか?
実行委員の要素に勉強熱心とか運動能力抜群って必要ある?
掃除の時間に至っては、掃除したくないからゴミ袋担いでとんずらするような人間だぞ。
適当なこじつけのように思えてならない。
「……ほかに男子で推薦される方はいらっしゃいますか?」
誰も手を挙げない。
俺に仕事を押し付ける気満々じゃないか!?
「それでは四宮歩さんでよろしい方は拍手をお願いします」
男子一同が俺に拍手を送ってくる。
俺の意思無関係で可決されたのだった。
「おいおい、俺にはちっとも面白くもねえぞ……」
これだったら実行委員の押し付け合いの方がよっぽど面白いぞ。
※
ど、どうなってるんだ?
「よろしくね、四宮君」
「え、あ、よろしく」
俺と桜井はクラス委員、兼、文化祭実行委員として前に立ちながら、他の委員会決めを行っていく。
俺は桜井に指示された通り、黒板に文字を書いていく。
(き、緊張のあまり字が……)
そんなこんなで委員会決めが一通り終わり、帰りのホームルームへ突入した。
すると、担任の先生はすぐに俺と桜井を交互に見て、
「今日の放課後悪いが、実行委員の二人は生徒会室に行ってくれ。会議があるそうだ」
※
午前中で学校が終わり、生徒の多くが帰宅した教室の中で俺は机に突っ伏していた。
そんな俺に和樹がケラケラ笑いながら話しかけてくる。
「予想通りだったな」
「オマエ、なんか知ってるな?」
「推測くらいはできるな。歩が今後委員の仕事で失敗することを男共は期待してるな。やっぱり桜井と仲が良いのも考え物だよな」
「ハァ、俺が委員の活動を失敗して大恥かくのを楽しみにしてるとかクズすぎだろ」
「女子に負けず劣らず、男の嫉妬も
俺は突っ伏した顔を和樹に向ける。
「大恥かかせたいってなら和樹が標的のほうがしっくりくるだろ」
桜井と仲がいいのは決して俺だけではない。
しかもイケメンの和樹のほうが女子によくモテており、嫉妬の対象にするなら和樹のほうだ。
「去年、俺は委員を務めたからな。もしかしたら、仕事で失敗して大恥をかくことはないって思われてるんじゃないか?」
こんな話をしたところで決定事項を変えることは難しい。
男子のほとんどが異常なほど賛同しているためだ。
俺は筆記用具と適当なノートを持って、席を立った。
「頑張れよ、クラス委員長、
「他人事だと思って楽しみやがって」
「他人事だからな。せいぜい俺みたいに失敗しないように頑張れよ」
和樹の言葉を聞きながら、俺は去年のことを思い出していた。
アイツ、なんか失敗してたっけ?
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