小説にも含まれる爆破広告に気をつけて!

ちびまるフォイ

あなたに見せたい最後の広告

かわいい柴犬の動画を見ようとしたときだった。

予想だにしない脱毛のCMが表示されて、下の方に文字が表示された。


『この動画は5秒後に爆発します』


意味を理解したときにはカウントは残り2秒。

慌ててスキップボタンを押してことなきを得た。


「な……なんだったんだ今の……」


安心したのもつかのま、窓から見える高層ビルが爆発して崩れ落ちた。

爆発したビルからふっとんできたのはノートパソコン。


画面にはさっきの広告が爆発の熱で焼き付いていた。


「この広告、本当に爆発するのかよ!?」


街ではあらゆる場所で爆発が起きている。


ちょっとした待ち時間に誰もがスマホを見ている。

その中に動画を見るものがいたら。


「おいやめろ! 動画を見るんじゃない!」


「な、なんですかあなたは。なにを見ようと私の勝手じゃないですか」


「いいから早く広告スキップを押すんだ!!」


「え?」

「はやく!!」


カウントが0になるとスマホが大爆発。

持ち主はあっという間に黒焦げになってしまった。


「くそ……助けられなかった……!」


失意に暮れる時間もない。

顔を上げると大型モニターで広告が表示されている。


『飲めばあなたもムキムキマッチョ!

 あの人気アイドルも使っているムキムキサプリメント!』


 この動画は5秒後に爆発します



「おいおい嘘だろ!? あんなボタン押せるわけないじゃないか!!」


ガラス張りの建物の壁面にある大型モニターには届きようがない。

届くとしても5秒で間に合うわけがない。


「ふせろーー!!」


カウントが0になると動画は大爆発して建物もろとも付近一帯にクレーターを作った。

大きな画面であれば爆発は大規模になってしまう。


「いったいどうなってるんだ……」


情報を得ようとネットを開くと、ページの両脇に広告が表示される。



『新しく配信されたアプリ! ムキムキ農場!

 この広告を押して登録しよう!』


 この広告は5秒後に爆発します。



「ってこっちもかよ!!」


慌てて爆発キャンセルボタンを押すが、両脇に表示されているので2回。

あやうく爆死させられるところだった。

爆破キャンセルするとアプリへの登録が自動終了される。


「ネットはダメだ。いつどこに爆破広告が仕込まれているかわかったもんじゃない」


ページの下の方に爆破広告が仕込まれていたら気づかないまま爆死する可能性がある。

情報は地上波から得ようと思ってテレビを確認する。


『それではいったんCMです』


ちょうどニュースの切れ目となってCMに入る。

スタイリッシュな車の広告が再生される。



『この車は安全性とあなたに生きる意味を与える。

 乗るならこの車で決まり。』

 

 このCMは終わると爆発します。



「うそだろ!?」


電器屋さんのテレビが一斉に爆発した。

テレビ売り場は火薬庫同然だった。


「あんなの回避できないじゃないか!」


動画やネット広告はスキップできる。

録画された番組をCMスキップならまだしもリアルタイムで視聴していたら

CMの間にチャンネルを切り替えない限り爆死は回避できない。


「ふざけやがって……! 人の命をなんだと思ってる!」


怒りの矛先は広告主へと向いた。

爆破広告を配信している本社の社長へと突撃した。


「なんだお前は!」

「勝手に入るんじゃない!」


「うるせぇ! 社長を出せ! アイツを爆死させないと納得できない!」


社長室前のボディーガードに止められてしまう。

部屋の外で大騒ぎしていると社長が出てきた。


「なんだね君は」


「俺のことなんかどうでもいい! はやく爆破広告を止めろ!

 今こうしている間にも、ふいに爆殺されてる人がいるんだ!」


「嫌だといったら?」


「はぁ!?」


人間性から大きくかけ離れた言葉に耳を疑った。


「私はね、昔のような世界を作りたいんだよ。

 近所の人が挨拶をし、言葉をかわすような世界が」


「何言ってるんだよ……」


「それが今はどうだ。みんな画面に見入っている。

 目の前にいる人のことなんか気にもしない。無関心だ。

 私はそんな世界を爆破したいと思ったんだよ」


「そんなお前の勝手な都合で殺されてたまるか!」


「それだけじゃない。人間は恐怖したときにそのシーンを強く覚える」


「それがなんだ」


「死の恐怖を覚えた瞬間に、人は強く広告を覚える。

 この爆破広告は印象づけという点でこの上なく向いているんだよ」


「おかしいよ……お前は狂ってる!」


「嫌なら見なければいい。テレビを消し、動画を閉じ、目の前にある豊かな自然と人々の営みに目を向ければいい。それをしないのが悪いんじゃないか」


「そうかよ! だったらこれをくらえ!」


ブックマークに登録していた動画を表示した。

動画の前には爆破広告が入る。

諸悪の根源と心中できるなら本望。


「お前が作った爆破広告で死にやがれ!!」


「ハハハハ。君、その動画を見てみろ」


「なっ……なんでだ!? 爆破広告がない!?」


「自分が生み出したものの対策をしないわけないだろう。

 このビルでは爆破広告を掲載しないwifiが通っているんだよ!」


「ち、ちくしょう……!」


「感情だけで行動するアホテロリストとは違うんだよ」


社長は悪い顔で笑った。

その顔を見てついこちらも笑みがこぼれる。


「なんだ? 小僧、何がおかしい」


「悪いやつってのはいちいち自分の成果を人に話さなくっちゃいけないみたいだな」


「あ?」


「いい話を聞かせてもらったよ。爆破広告を封じるwifiがあるんだな。

 今ごろ仲間が解析して街中にフリーwifiひろげまくってる頃だよ」


「貴様ぁ!! 最初から爆破ねらいではなく、その秘密を探るためだったのか!!」


世界全土に爆破広告が流れないようにする電波が広まった。

これでもういつどこで差し込まれるかわからない広告におびえることもなくなった。


誰もが周囲に気を配ることなくスマホを見ているが、

その画面の中には自分の趣味や好きなことでいっぱいだった。


誰もが自分の好きなことにどっぷり浸かれる世界を取り戻した。


「これでひと安心だ」


これまでの顛末をまとめた動画を閉じ、家の外へ出た。

広い空を見上げて思い切り息をすった。


ふと、ポストを見ると1枚のチラシが挟まっている。

フタを開けてチラシを引っこ抜いた。



『宅配ピザ! 今だけLサイズ半額!

 さらにトッピングも半分!』

 

 このチラシは5秒後に爆発します。



最後に見たのは美味しそうにチーズが伸びるピザの絵だった。

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