夢に出る人

夢見男

夢に出る人

 今日は誰の夢に出ていってやろうか。


 私は近藤 司、40歳、独身だ。バツイチとかではない。

 私の趣味はちょっと変わっている。知り合いの夢に出ていくことなのだ。知らない人の夢に出ていっても意味がない。知り合いなら私が夢に出てきても差し支えないだろう。


 ある日を境に、この能力を身につけたのである。


 夢というのは、色々な知り合いが混ざり合って出てきたり、色々な場所が出てくる。時には芸能人まで出てくる。動物がでたり、昆虫が出たり、なんでもありだ。現実的なものもあれば、非現実的なものもある。夢を覚えていれば、その時の心理状況を表す夢占いというものも存在する。夢はとても不思議だ。


 よし決めた。今日はあいつの夢に出ていくか。あいつは私が夢に出てきたらどういう反応をするのだろう。とても楽しみだ。

 

 宮田は私の職場の後輩だ。会社は郊外にある小さな工場。宮田は仕事が嫌いで、よく休憩をしていた。といっても宮田には集中力があり、仕事は早いのだ。仕事は私が教えたが、よく休憩することは教えていない。宮田は社長の息子だ。次期社長といっても過言ではない。休憩を多くとっても、誰もおとがめしない。文句を言うのは私ぐらいだった。

 「おつかれーす」

 「宮田、また一服かい?さっき休憩したばかりじゃん。少しは周りのこと考えれば」

 「ですよねー」

 年齢は30歳後半だが、チャラくて自分勝手。人の忠告は聞かないし、態度がでかい。忙しくても残業はしない。さすが次期社長。でも、何でも分け隔てなく言う私を慕ってくれていた。

 どんな夢を見ているのか、のぞいてみよう。

 パチンコをしている夢だった。夢に出てくるまでパチンコが好きなのだろう。他にすることはないのか?だから、結婚できないんだ。パチンコに早く行くために、仕事を早く終わらせていたのかもしれない。タバコを吸いながらニヤけている。結構勝っていそうな感じだ。きっと願望だろう。

 私は隣に座った。そして、目が合う。

 「おー出てるね」

 ……飛び起きてしまった。

 ちょっとビックリさせたかもしれない。いい夢だったのに、悪いことをしたな。


 夢は起きた時は覚えていても、すぐに忘れてしまう。嫌な夢や、怖い夢はすぐに忘れたいだろう。でも、楽しい夢ならいつまでも覚えておきたい。


 別の日、元彼女の夢に出てみた。前田 薫だ。同じ歳、同じ高校だ。高校を卒業し、私は就職、薫は専門学校に進んだ。高校を卒業してからは、ほとんど会っていなかった。再会したのは35歳の時、偶然にも私の友達が薫と繋がっていたのだ。そして、よく遊ぶようになった。1年後私が告白した。すると、意外にもOKしてくれたのだ。2年付き合い最後は些細なことでけんかをし別れた。私はまだ未練がある。どんな夢を見ているのだろう。

 どうやら待ち合わせのようだ。そこへ男が手を振って近づいてくる。

 「薫ちゃん久しぶりだね。行こうか」

 「はい」

 ……マジか。私の友達の向井君だ。そんなはずはない。でもふたりは会ったことがある。私と付き合っているとき、仲の良い友達とバーベキューをやった。その時に会っていたのだ。どういう経緯で繋がったのかはわからないが、腹が立った。完全に嫉妬だ。

 夢に出ていくタイミングを見計らう。喫茶店に入った。お茶をするようだ。

 きっと薫はあれを頼むだろう。

 「元気だった?」

 「いえ、あまり」

 薫は元気がなさそうだ。

 「とりあえず何か頼もうか」

 「はい。私ホットミルクティーで」

 やっぱりな。変わってないな。

 「どうしたの?」

 「ちょっと色々悩んじゃって。ちょっと相談に乗ってもらえますか?」

 「いいよ。何でも言って」

 なんでこいつに相談するんだ。どうかしてる。腹が立ってふたりの所へ登場してしまった。

 「こんにちは」

 薫と向井君はビックリしている。

 ……沈黙が続く。

 薫は涙を流して起きてしまった。もう少し話を聞いてればよかった。悩みを聞けたのに……。ごめん、薫。


 別の日は、高校時代のバスケ部の青木先生の夢に出て行った。とてもお世話になった先生だ。いつも熱く指導してくれた。とても感謝しているし尊敬している。人生で挑戦することの大切さを教えてくれたのは青木先生だった。

 薫もバスケ部のマネージャーだった。毎日私たちの面倒をみてくれた。

 どんな夢を見ているのだろう。

 青木先生は夢の中もバスケのことでいっぱいのようだ。練習で、別の高校の部員たちが熱く指導されている。青木先生は高校を異動していたのだ。ディフェンスの練習だ。ボールを片手に大きな声で指導している。と、ひとりの部員が

 「青木先生、それはいい方法ではないと思います」

 「何?」

 部員の中には先生の指導に納得しない者も居る。私もそうだった。

 青木先生は話しを聞いて、

 「それがセオリーかもしれん。だけど成果に繋がっているか?」

 聞いたことのあるセリフだ。

 「……」

 「新しいことをやらないと、今のままだぞ。試してみよう」

 相変わらず部員とぶつかって、でも、やる気の出る言葉をかけてくれる。

 私は夢に出て、ディフェンスの練習中、声がけをした。

 「ナイス、OK、OK」

青木先生は私に気づき、「司やってみろ」と言う。私はディフェンスが得意だった。次々とボールを奪う。味方にボールをパスしたところで先生は起きてしまった。

 

 私に関わった色々な知り合いの夢に出ていった。そろそろこの趣味もやめようか。


 もうあの世へ行こう。


 私は交通事故で死んでいた。


 あの時から私は夢に出ていけるようになった。夢に大切な人が出てきたら、記憶に残してくれるはずだ。まだこの世に未練があった。私は葬式に来ていない人たちの夢に出たのだ。寂しくて、孤独で、思い出してもらいたかったのだ。

本当に自分勝手だが……


 会社の後輩の宮田は、私の死を知って悲しんでくれた。葬式には来れなかったが、私が夢に出たあと宮田は変わった。私の言ったことを思い出して、改心したのだ。休憩を他の社員と同じ時間帯にとるようになった。忙しい時は残業をしている。うれしかった。よく面倒を見た後輩が一人前になってくれて、本当に良かった。パチンコに行く回数も減ったようだ。将来は社員のことをよく考える良き社長になってくれ。


 薫は向井君とは付き合ってなかった。向井くんは葬式に来てくれていた。私の葬式のあと、薫と向井君はたまたま街で再会し、向井君が私が死んだことを教えたのだ。その時、薫は向井君の連絡先を聞いていたのだ。とても悲しんでくれた。私の葬式に出たかったようだ。まだ、私のことを好きでいてくれた。私にお線香をあげに行こうか悩んでいたのだ。私は薫の気持ちを知りうれしかった。これで、成仏できる。私は本当に自分勝手だ……


 青木先生は、夢のあと私を思い出してくれた。部員たちに私の動きをまねて見せる。私の動きそっくりだ。青木先生も歳をとったはずなのに元気でやっているようだ。これからも部員とぶつかり信頼関係を築いていくんだろう。バスケ部のみんな、なんでも挑戦して、上達して、青木先生を見返してやれ。


 当時の私たち女子バスケ部の中では、薫と会っていただけで、他のメンバーとは疎遠になっていた。みんなの夢にも出ていった。私が死んだのを風のウワサで聞き、何人かはお線香をあげに来てくれた。みんな昔と変わらず歳のわりには可愛かったな。


 私はこれから旅立つ。この世に未練はもうない。もう夢に出ていく知り合いは居ない。みんな私のことを思い出してくれた。私に関わってくれた人たちありがとう。夢に出ていったけど、さよならは言わなかった。また、次の人生で会えるかもしれないから……


 私はまた、女性に生まれたい。そして結婚がしてみたい。それが私の夢である。


 次の人生も楽しもう。

 私も早くいい夢が見たいな。

                終わり

 


 



 

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